法律コラム
【令和7年施行】改正育児・介護休業法(第3回)ー柔軟な働き方ー
2025年 12月 3日
令和7年(2025年)に施行される改正育児・介護休業法について、第1回・第2回で主に育児や介護に関する改正内容を取り上げました。今回は第3回として、その中でも「育児期の柔軟な働き方」に焦点を当てて解説します。柔軟な働き方の推進は、育児による離職防止やキャリア形成の観点からも重要です。本記事を参考に、自社での働き方の見直しを検討してみてください。
1.柔軟な働き方を実現するための措置
育児・介護休業法の改正により、2025年10月1日から「育児期の柔軟な働き方を実現するための措置」を講ずることが事業主に義務付けられます。事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下5つの措置の中から2つ以上を選択して講ずる必要があります。また、講ずべき措置を選択する際には、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴取する機会を設けなければなりません。
- 始業時刻等の変更
- テレワーク等(10日以上/月)
- 保育施設の設置運営等
- 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
- 短時間勤務制度
労働者は、事業主が講じた措置の中からひとつを選択して利用することができます。1から4までは、フルタイムでの柔軟な働き方を実現するための措置となります。2と4に関しては、原則として時間単位での取得を認めることが必要です。
(1)始業時刻等の変更
始業時刻等の変更の措置については、以下のいずれかの措置を講ずることになります。
- フレックスタイム制
- 時差出勤制度(1日の所定労働時間を変更することなく、始終業の時刻を変更する制度)
時差出勤制度は、保育所への送迎の便宜を考慮し、通常の始業または終業の時刻を繰り上げる、もしくは繰り下げる制度であることが必要です。
(2)テレワーク等
テレワーク等に関しては、必ずしも情報通信技術を利用した業務に限定されるものではありません。実施場所についても自宅に限定されず、就業規則等で自宅に準ずるものとして定めたサテライトオフィス等を含むものとされています。また、テレワーク等でも始業時刻等の変更と同様に、保育所への送迎の便宜を考慮して措置することが求められています。
(3)保育施設の設置運営等
保育施設の設置運営等とは、保育施設の設置運営や、保育施設の設置運営に準ずる便宜の供与(ベビーシッターの手配および費用負担)などを指します。保育施設の設置運営に関しては、事業主自身が行う場合はもちろん、他の事業主が行い、事業主がその費用を負担する場合も含みます。
(4)養育両立支援休暇の付与
養育両立支援休暇を付与する場合は、次の条件を全て満たす必要があります。
- 1日の所定労働時間を変更することなく利用可能
- 1年間に10労働日以上の日数について時間単位での利用が可能
時間単位での利用の場合、休暇1日の時間数は、1日の所定労働時間数となります。なお、時間単位で利用可能であり、休暇の用途を特定せずに利用できる条件を満たしていれば、失効した年次有給休暇(※)の積立分を養育両立支援休暇として利用することも可能です。ただしこの場合、失効年次有給休暇の日数が10労働日未満の労働者については、別途養育両立支援休暇を追加し、10労働日以上利用できるようにしなければなりません。
※失効年次有給休暇:付与から2年間使用されなかった年次有給休暇。
養育両立支援休暇の具体的な取得理由については、就業しながら子を養育することに資するものであれば、どのような目的に利用するかは労働者に委ねられています。そのため、年10日分の休暇が利用できることが確保されていれば、子の養育以外の目的で取得した場合でも、養育両立支援休暇として措置されたものとみなされます。
(5)短時間勤務制度
短時間勤務制度については、1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むことが必要です。また、パートタイム等で1日の所定労働時間が6時間以下である場合、それだけで直ちに短時間勤務の措置を講じたことにはなりません。そのため、事業主は短時間勤務制度を含めた5つの選択肢の中から、合計2つ以上の措置を選択して講ずる義務があります。
2.柔軟な働き方を実現するための措置の個別周知・意向確認
3歳未満の子を養育する労働者に対して、事業主は柔軟な働き方を実現するための措置として選択した制度に関する事項の周知と、制度利用の意向の確認を個別に行わなければなりません。
(1)周知時期
周知の時期は、労働者の子が3歳の誕生日を迎える1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)です。ただし、家庭や仕事の状況が変化することを踏まえ、選択した制度が適切であるかの確認などを目的として、上記以外の時期にも実施することが望ましいとされています。育児休業からの復帰時や、時短勤務制度や対象措置の利用期間中など、定期的に面談を行うことが推奨されます。
(2)周知事項
周知事項は、以下の通りです。
- 事業主が選択した対象措置(2つ以上)の内容
- 対象措置の申出先(人事部など)
- 所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度
日々雇用者(1日単位で雇用契約を結び、その日の終了とともに労働契約が終了する雇用者)を除き、有期雇用労働者も別途の要件を課すことなく、上記事項を個別に周知する必要があります。また、対象措置の利用促進が目的であるため、利用を控えさせるようなことを行ってはなりません。例えば、利用の前例がないことを強調したり、不利益をほのめかしたりするような言動が該当するでしょう。
(3)個別周知・意向確認の方法
意向確認を行う際には、以下のいずれかの方法によることが必要です。
- 面談(オンライン可)
- 書面交付
- FAX
- 電子メール等(イントラネットやSNSなど含む)
3と4については、労働者が希望した場合に限られます。また、オンライン面談は対面による場合と同程度の質を確保していることが必要です。そのため、音声のみによる場合は義務を果たしたことにはなりません。
3.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
1、2で解説した「柔軟な働き方を実現するための措置」に加え、2025年10月1日以降、事業主は子や各家庭の事情に応じた仕事と育児の両立に関する事項について、労働者の意向を個別に聴取することが必要となります。なお、日々雇用者を除き、有期雇用労働者も別途の要件を課すことなく、個別の意向聴取の対象です。
(1)聴取の実施主体
個別の意向聴取は、人事部が行う必要はありません。事業主から直接委任を受けているのであれば、人事部ではなく所属長や、直接の上司が意向を聴取することが認められています。ただし、労働者が意向を表明しづらい状況にならないよう、所属長や直接の上司に対して、制度の趣旨や適切な実施方法などを十分に周知しておくことが重要です。また、あくまでも個別の労働者から意向を聴取しなければならないため、労働組合から意見を聴取したとしても、義務を果たしたことにはなりません。
(2)聴取の時期
事業主は、以下の時期に意向の聴取を行うことが必要です。
- 労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき
- 子が3歳になる誕生日の1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)
家庭や仕事の状況が変化することを踏まえ、上記の時期以外にも意向の聴取を行うことが望ましいとされています。そのため、育児休業からの復帰時などにも意向の聴取を行うことが推奨されます。
(3)聴取事項
聴取すべき事項は、以下の通りです。
- 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
- 勤務地(就業の場所)
- 両立支援制度等の利用期間
- 仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直しなど)
事業主は、個別の意向聴取を行った労働者の就業条件を定めるにあたり、労働者の仕事と育児に関する意向について、自社の状況に応じて配慮することが求められます。そのため、勤務地(就業の場所)については、勤務地が仕事と育児の両立を困難にしていないか、労働者に確認することが必要です。
(4)意向聴取の方法
意向聴取を行う際には、以下のいずれかの方法によることが必要です。
- 面談(オンライン可)
- 書面交付
- FAX
- 電子メール等(イントラネットやSNSなど含む)
3と4については、労働者が希望した場合に限られます。音声通話のみでは、義務を果たしたことにならない点は、個別周知・意向確認の場合と同様です。
(5)聴取した労働者の意向についての配慮
事業主は、聴取した労働者の仕事と育児の両立に関する意向について、自社の状況に応じた配慮を行わなければなりません。具体的な配慮としては、以下のようなものが考えられます。
- 勤務時間帯・勤務地に係る調整
- 業務量の調整
- 両立支援制度の利用期間等の見直し
- 労働条件の見直し
必ずしも労働者の意向通りの措置を講じなければならないわけではありませんが、可能な限り意向を反映した形となるように検討することが望ましいでしょう。また、意向の反映が困難となる場合には、その理由を丁寧に説明することが重要です。
4.労働者のニーズに合った措置を
育児による離職やキャリアの断絶を避けるためには、労働者の実情に合った柔軟な働き方の実現が欠かせません。当コラムを参考に労働者のニーズに合った措置を講じてください。また、今回の改正によって、2022年(令和4年)4月より義務付けられている育児休業制度の個別周知・意向確認に加えて、柔軟な働き方に関する制度についても、新たに周知や意向の聴取が義務付けられるようになります。ただ意向を聴取して終わりとならないように、可能な限り労働者の意向を取り入れた就労環境の整備に努めましょう。
監修
涌井社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 涌井好文