法律コラム

改正育児・介護休業法(第4回)-育児休業の分割取得は可能か-

2022年 12月2日

「育児休業を取得して長期間休んでいたら、戻ったときに以前の仕事は他の人が担当し、自分のポジションはなかった」などという話は、いまでもたまに耳にすることがあります。「もし育児休業が分割取得できたなら、必要なときだけ取得して、育休と育休の間に仕事に戻ったりして、会社との関係をつないで復帰しやすくすることもできるのに……」などと考えた方はいませんか。

1.分割取得が可能になりました

これまでの育児休業では原則として分割取得はできませんでしたが、令和4年10月1日に施行された改正育児・介護休業法により、分割して2回取得できるようになりました(取得の際にそれぞれ申し出る)。産後パパ育休についても、分割して2回取得が可能ですので(初めにまとめて申し出る)、両方を併せて活用すれば4分割して取得できることになります。

1歳を過ぎて保育所に入所できない等の場合でも、これまで子が2歳になるまで延長できましたが、開始時点が1歳または1歳6か月に限定されていたため、夫婦が交代で取得することはできませんでした。それが今回の改正によって育休開始日が柔軟化されたため、夫婦で取得時期をずらして育休を交互に取得することができるようになりました。

分割することによって、それぞれの家族の状況(健康状態、仕事の状態、経済状態など)に合わせて取得することが可能になるというメリットがあります。また、一括取得によって職場から長く離れてしまうのではなく、分割取得によって職場に戻る期間を入れることによって、育児休業期間終了後の職場復帰をスムースにするというメリットもあります。

2.就業規則等の改定

これまで取り上げてきましたとおり、令和4年4月・10月に改正育児・介護休業法が施行されました。当然ながら、これまでの就業規則等は改めて整理して改定することが必要です。育児・介護休業法は、就業規則への記載だけでは足りず、労使協定の締結も並行して進めていくことが求められますので、次にあげた項目を意識しつつ細やかな見直し作業が想定されます。

【就業規則等の改定】

○有期雇用労働者の育児休業および介護休業の取得要件

○パパ休暇規定の削除

○育児休業の分割取得

○1歳到達日後の育児休業の特別な事情がある場合の申し出

○1歳到達日後の育児休業について配偶者と交代で取得する場合の休業開始日

○1歳到達日後の育児休業の申出回数(原則1回)

○出生時育児休業の対象者、期間、分割取得、就業等

【労使協定】

○(勤続1年未満の有期雇用労働者を労使協定により対象外とする場合)労使協定の(再)締結をする

○(労使協定で一定の労働者を出生時育児休業の対象外とする場合)労使協定の(再)締結をする

○(出生時育児休業の申出期限を1か月前までとする場合)労使協定の(再)締結をする

○(出生時育児休業の申出期限を1か月前までとする場合)労使協定に以下の事項を定める

①雇用環境整備のため講じる措置(以下の二つ以上)

  • 育休等に関する研修の実施
  • 育休等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  • 自社の労働者の育休等の取得事例の収集・提供
  • 自社の労働者へ育休等の制度と育児休業の取得促進に関する方針の周知
  • 育児休業の申出をした労働者の育休等の取得が円滑に行われるようにするための業務の配置または人員の配置に係る必要な措置

②申し出期限(2週間超1か月以内)

○(出生時育児休業中の就業を可能とする場合)労使協定の締結をする

○(出生時育児休業中の就業を可能とする場合)労使協定に以下の事項を定める

①出生時育児休業中の就業を可能とすること

②(必要な場合)就業が可能な部署、職種等

3.今回の改正を踏まえた今後の展開

今回の改正ポイントに沿った対応が制度的に整い、育児休業取得率100%というような数字を掲げられたとしても、表に出る数字だけでは判断できない状況も生じていることがあります。

例えば育児休業を取得するために全ての仕事を終わらせなければならず過重な負担を強いているとか、育児休業から職場に復帰したときに元の雇用条件と異なるというケースは少なくありません。そうしたストレスから労働者が心身の健康を損なうようなケースも生じています。まず労働者の健康と安全を考えて、常に働き方改革に目を向けるなど事業主は留意していかなければなりません。

中小企業はこれまでも慢性的な人材不足状態にあり、今後少子化が進んでいけばさらにその傾向は増してくるでしょう。企業の存続のためにも就業意欲のある優秀な女性を活用していくことは、生き残り戦略の上で重要な課題となってきます。

子育て中の女性が育児と仕事を両立しやすい仕組み、在宅就業、テレワークの導入、短時間勤務、フレックス制度など、柔軟な働き方を可能にする職場環境づくりが今後はますます必要になってくるでしょう。

さらに、出産や育児だけではなく、介護や病気治療と仕事の両立について、中小企業は積極的に支援し、そのための大胆な働き方改革を推し進めていくことが、魅力ある企業づくり、生産性の向上、持続的な成長発展につながっていくと言えます。

多様な労働者一人ひとりが持てる能力を存分に発揮できる環境づくりは、大企業よりも個々の労働者に目が届きやすい中小企業こそ可能なのだということも言えそうです。

監修

社会保険労務士法人三平事務所 三平和男代表社員