法律コラム

改正育児・介護休業法(第1回)-育児休業取得のための環境を整える-

2022年 11月18日

これから少子化が進んで今以上に労働者人口が減ってくると、人手不足に悩む中小企業では優秀な女性を採用できるかどうかが、企業存続の鍵になるとも言われています。出産を機に約半数の女性が離職するというような現状において、今回改正・施行された「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」)がブレイクスルーの端緒となるのでしょうか。

1.育児・介護休業法とは

そもそも育児・介護休業法は、少子化が進行し人口が減少していく時代を迎え、労働力人口の減少や地域社会の活力低下に対して、持続可能で安心できる社会を築くために「就労」と「結婚・出産・子育て」、あるいは「就労」と「介護」といった「二者択一構造」を解消し、「仕事と生活の調和」(ワーク・ライフ・バランス)を実現するために生まれた法律(平成3年第76号)だといえます。

同法の第1条にはその目的として次のように記されています。

「①育児休業及び介護休業に関する制度並びに子の看護休暇及び介護休暇に関する制度を設けるとともに、
 ②子の養育及び家族の介護を容易にするため所定労働時間等に関し事業主が講ずべき措置を定めるほか、
 ③子の養育又は家族の介護を行う労働者等に対する支援措置を講ずること等により、子の養育又は家族の介護を行う労働者等の雇用の継続及び再就職の促進を図り、
 ④もってこれらの者の職業生活と家庭生活との両立に寄与することを通じて、これらの者の福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に資することを目的とする。」(丸付き数字は筆者注)

つまりこの法律は、子の養育や家族の介護が労働者の過度な負担にならないように、労働者を支援することによって経済・社会の発展に寄与するための法律なのだということです。

この法律が制定されて以降、育児休業制度などが中小企業にも定着してきており、女性の人材活用に対しても大きな意義があったと言えます。

2.育児・介護休業法の改正ポイント

令和3年6月9日に改正された育児・介護休業法が、令和4年4月1日から段階的に施行されました。今回の改正で中小企業に大きくかかわってくるのが次の4点です。

  1. 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(令和4年4月1日施行)
  2. 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(令和4年4月1日施行)
  3. 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設 (令和4年10月1日施行)
  4. 育児休業の分割取得(令和4年10月1日施行)

これらの点について、これから順にみていきましょう(第4回まで)。

3.育児休業を取得しやすい雇用環境整備

まず今回の改正では、労働者からの育児休業や産後パパ育休(本稿「第3回 産後パパ育休とはどんなもの」を参照)の申し出が円滑に行われるように、事業主は以下のいずれかの措置を講じることが義務づけられており、できれば1つだけでなく複数の措置をとることが望まれています。

  1. 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
  2. 育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
  3. 自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
  4. 自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

育児休業を取得しやすい雇用環境整備に当たっては、短期休業はもとより1か月以上の長期休業の場合においても、労働者が希望の期間を取得できるよう、事業主が配慮することが求められています。

4.妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け

労働者又は配偶者が妊娠又は出産した旨等の申し出をしたときに、当該労働者に対し育児休業・産後パパ育休に関する制度と申し出先、育児休業給付、労働者が育休期間に負担すべき社会保険料の取り扱い等について周知するとともに、これらの制度の取得意向を確認することが義務づけられています。

個別周知、意向確認をする方法は、面談(オンライン可)、書面交付、FAXあるいは電子メール等(労働者が希望した場合のみ)から選ぶことができます。

取得意向の確認においては、育児休業の取得を控えさせるような形での周知及び意向確認は認められていません。

育児休業を取得しやすい雇用環境整備と妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付けについては、管理職の意識改革、経営者層の理解がまず前提になるでしょう。

また、業務のワークシェアを積極的に採り入れ、男性が育児休業を取得しやすい環境を整備していくことが求められます。

監修

社会保険労務士法人三平事務所 三平和男代表社員