法律コラム
【令和7年施行】改正育児・介護休業法(第1回)ー育児に関してー
2025年 5月 28日
育児・介護休業法は成立以降、何度も改正が行われています。令和6年5月、育児・介護休業法等の改正法が国会で可決、成立しました。令和7年(2025年)4月、10月に分けて段階的に施行される予定です。
当コラムでは、改正育児・介護休業法のなかでも、主に令和7年4月施行の内容に焦点を当てた解説を行っています。既に施行済みの内容であるため、まだ対応できていない企業は、当コラムを参考に改正内容に合わせた対応を行ってください。コラムは全3回を予定しており、第1回目の本記事では、育児に関する内容をまとめました。
1.子の看護休暇の見直し
対象となる子どもがいる労働者は、事業主に申し出ることによって、1年度につき5日(対象となる子どもが2人以上の場合は10日)の看護休暇を取得することが可能です。改正によって、当該制度が見直されたため、内容を解説します。
(1)対象の拡大
子の看護休暇の対象は、これまで小学校就学の始期に達するまでの子どもでした。つまり、小学校入学前の子どもを持つ労働者しか当該制度を利用できなかったわけです。しかし、令和7年4月以降は、「小学校第3学年修了まで」に対象が拡大されています。
(2)取得事由の拡大
改正によって、看護休暇の取得事由(理由)の拡大が図られています。改正前の看護休暇は、下記の事由がある場合に取得可能でした。
- 病気・怪我
- 予防接種・健康診断
令和7年4月以降は、上記事由に加えて、下記事由の場合でも取得可能となっています。
- 感染症に伴う学級閉鎖等
- 入園(入学)式・卒園式
(3)労使協定による除外規定の緩和
育児休業等や看護休暇は、労使協定の締結によって、一部の労働者を制度の対象から除外することが可能ですが、今回の改正で除外可能な対象が狭まりました。
改正前において、除外可能であった労働者は以下の通りです。
- 週の所定労働日数が2日以下
- 継続雇用期間6か月未満
改正によって、上記の「継続雇用期間6か月未満」は撤廃されています。つまり、令和7年4月以降は、たとえ労使協定を締結しても、「週の所定労働日数が2日以下」の労働者のみが、看護休暇の除外対象になります。
なお、改正によって除外可能な対象が狭まりましたが、パートやアルバイトといった非正規雇用者は、改正前後を問わず、看護休暇を取得可能です。雇用形態を理由に請求を拒否することは許されません。
(4)名称変更
取得事由の拡大の項で解説した通り、改正によって、入園式や卒園式といった看護以外の事由でも看護休暇が取得可能に変更されました。これに伴い、子の看護休暇は、「子の看護休暇等」と名称が変更されています。
2.所定外労働制限の対象拡大
事業の正常な運営を妨げる場合を除き、対象となる子どもを養育する労働者は、「所定外労働の制限(残業免除)」を事業主に請求することが可能です。この制度の対象となる子どもは、これまで「3歳に満たない子」でしたが、改正によって「小学校就学前の子」まで対象が拡大されています。
当該制度については、労働者が容易に取得できるようにするため、あらかじめ就業規則等に定めることが必要です。また、労働者個々の勤務状況に応じて、弾力的な運用が可能となるように配慮することも必要となります。なお、当該制度は短時間勤務制度と併用することも可能です。
(1)事業の正常な運営を妨げる場合
事業の正常な運営を妨げる場合には、残業免除を認めないことも可能です。しかし、単純に残業が必要であるという理由だけでは、請求を拒否することはできません。事業の正常な運営を妨げる場合に該当するか否かは、担当する作業や、業務の繁閑、代替要員確保の難しさなどの事情を考慮し、企業は客観的に判断する必要があります。通常考えられる相当の努力を企業は行うべきであり、代替要員が容易に確保できるにもかかわらず、拒否するような姿勢は認められません。
(2)実態に応じた管理監督者の扱い
残業免除も子の看護等休暇と同様に、条件を満たす子を養育している限り、雇用形態を問わず請求可能な権利です。しかし、経営者と一体的な立場にある管理監督者は、労基法上の労働時間や休憩、休日の規定の適用を受けないため、残業免除の請求を行うことができません。
とはいえ、名ばかり管理職で実態が通常の労働者と同じ場合には、労基法上の管理監督者としては扱われません。このような場合には、残業免除の申請も可能となるため、実態を見て請求の可否を判断することが必要です。
3.短時間勤務制度の代替措置にテレワーク等を追加
3歳に満たない子を養育する労働者は、原則として1日の所定労働時間を6時間とする「短時間勤務制度」を利用することができます。当該制度は、1日の所定労働時間が6時間以下の場合や、日雇い労働者である場合などは利用できません。また、「業務の性質または業務の実施体制に照らして、措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者」の場合には、労使協定の締結を条件に制度の対象外とすることが可能です。例えば、担当する地域や企業が厳密に分担されており他の労働者では代替不可な場合などが該当します。
時短勤務が困難な労働者は、労使協定を締結し、制度から適用除外とすることが認められていますが、下記のような代替措置を講じなければなりません。
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- フレックスタイム制
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤の制度)
- 保育施設の設置・運営等
- テレワーク等
上記代替措置のうち、5番目の「テレワーク等」が改正により追加された措置となります。令和7年4月以降は、対象となる労働者に対して、テレワーク等を含めた選択肢を提示しなければなりません。
(1)テレワーク等の内容
テレワーク等は、いわゆるテレワークに代表されるような情報通信技術を利用した業務に限定されるものではありません。また、業務を行う場所も自宅に限定されるものではなく、就業規則等で定める自宅に準ずる場所(サテライトオフィス等)を含みます。
テレワーク等の実施頻度についての基準などはありませんが、仕事と育児の両立を容易にする観点から、保育所への送迎の便宜等を考慮したうえで措置することが必要です。また、男性のみや女性のみなど、いずれかの性に限定するような内容は法の趣旨に反するものとされます。
(2)新設は不要
テレワーク等の代替措置は、対象となる業務がテレワーク等で実施可能な場合にのみ講じるものとされています。労働者をテレワーク等が可能な職種へ配置転換することや、テレワーク等が可能な職種を新たに設けることまでは求められていないことに注意が必要です。
4.育児休業等の取得状況の公表義務適用拡大
育児休業等とは、育児・介護休業法に規定された育児休業(出生時育児休業含む)や、育児休業制度に準ずる措置に基づく休業などを指します。
一定以上の労働者を常時雇用する企業は、男性労働者の育児休業等取得状況を公表する義務が課されていますが、改正によって、この義務の対象となる企業規模がこれまでの1,001人以上から301人以上へ拡大されました。大幅に対象範囲が拡大されているため、新たに対象となる企業は、公表内容や算出方法を速やかに把握しなければなりません。
(1)対象となる「常時雇用する労働者」とは
「常時雇用する労働者」とは、雇用形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指します。次のような労働者が、公表義務を判断する際の常時雇用する労働者に含まれます。
- 期間の定めなく雇用されている者
- 過去1年以上引き続き雇用されている者または雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者
対象は、いわゆる正社員のみではなく、雇用契約が反復更新されているパート等も含むことに注意が必要です。
(2)公表内容および公表方法
公表すべき内容は、次のうちいずれかの割合です。公表を行う事業年度の直前の事業年度(公表前事業年度)が対象となります。
- 育児休業等の取得割合
- 育児休業等と育児目的休暇の取得割合
育児休業等の取得割合は、インターネットなど、広く一般が閲覧できる方法で公表しなければなりません。厚生労働省では、同省が運営する「両立支援のひろば」における公表を推奨しています。
5.仕事と育児の両立支援を
今回の改正によって、3歳未満の子を養育する労働者が、働き方としてテレワークを選択することができるように措置することが、事業主の努力義務となりました。他の改正部分とは異なり、努力義務であるため、必ずしも措置することが求められているわけではありません。しかし、仕事と育児の両立を容易にし、労働者にとって働きやすい環境を整備するためにも、積極的に当該措置を取ることが求められます。
今回の改正は、少子高齢化が進展し、人口減少が加速するなかにあって、貴重な働き手である労働者の育児や介護による離職を未然に防止することを大きな目的としています。義務となっている部分のみではなく、努力義務部分も含めて導入し、仕事と育児の両立支援を図ることで、より働きやすい就業環境を整えてください。
監修
涌井社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 涌井好文