経営ハンドブック

働き方改革

2023年 4月 7日

働き方改革のイメージ01

働き方改革によって人材不足解消につなげ、労働生産性を改善する

日本経済の再生に向けて、「働き方改革」は最大のチャレンジとも言われる。働く人の視点に立って、労働制度の抜本的改革を行い、企業文化や風土も含めて変えようとするものだからだ。成長と分配の好循環を生み、働く人一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにすることが目的だ。その実現のために働き方改革関連法が整備され、次々と公布・施行されている。公的な相談機関として、働き方改革推進支援センターも各都道府県に設置され、働き方改革に取り組む企業の相談に乗っており、資金不足の企業には助成金も用意されているので一度相談してみるのもよいだろう。

働き方改革のポイント

  1. 働き方改革とは
  2. 働き方改革関連法について
  3. 働き方改革推進支援センター
  4. 助成金

1.働き方改革とは

現在の日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く人々のニーズの多様化」といった課題に対応するためには、投資やイノベーションによる生産性向上や、就業機会の拡大、意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることなどが不可欠となる。

働く人の置かれたそれぞれの事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を生み、働く人一人ひとりがよりよい将来の展望を持てるようにするのが働き方改革のねらいである。

そのためには、日本の国内雇用の7割を担う中小企業・小規模事業者においても、「働き方改革」を着実に実施することが求められている。

【中小企業における働き方改革】

  1. 「働き方改革」による「魅力ある職場づくり」を行い、それをPRすることで、有為な人材の確保に繋がることから、人手不足感が強い中小企業・小規模事業者においては、生産性向上に加え、「働き方改革」の推進が重要。
  2. 改革に取り組むに当たっては、「意識の共有がされやすい」「制度導入の意思決定が迅速」など、中小企業・小規模事業者だからこその強みもある。
  3. 「魅力ある職場づくり」→「人材の確保」→「業績の向上」→「利益増」という好循環をつくるため、「働き方改革」を進めてより魅力ある職場づくりを実現する。

2.働き方改革関連法について

1.中小企業における割増賃金率の猶予措置の廃止

月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置が令和5年4月1日に廃止される。1日について8時間を超える部分を2割5分増し、1週について40時間を超える部分を2割5分増しとすることは従前どおりだが、1か月について60時間を超える部分を5割増しとする必要がある(労働基準法第37条)。
【違反した場合の罰則:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)】

2.年次有給休暇の時季指定

使用者は、年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に対し、年5日について毎年時季を指定して与える義務がある(労働基準法第39条第7項)。使用者が労働者に取得時季の意見を聴取して、労働者の意見を尊重して使用者が取得時季を指定することになる。使用者が指定した後に労働者に変更の希望があれば使用者は再度意見を聴取し、その意見を尊重することが望ましいとされている。
【違反した場合の罰則:30万円以下の罰金(労働基準法第120条)】

〔その他、主な年次有給休暇の利用・付与について〕

1.計画年休

労使協定によって休暇を与える時季に関する定めをした場合には、労働者の休暇日数のうち5日を除いた残りの日数については、協定の定めるところによって与えることができる(労働基準法第39条第6項)。労働者は法定の休暇日数のうち5日については従来どおり各自の時季指定権による自由な利用ができる一方、これを超える法定の休暇日数は労使協定に拘束されることになる。

2.時間単位での利用・付与

年次有給休暇は原則1日単位だが、労使協定の締結により、時間単位での利用・付与も可能となる(労働基準法第39条第4項)。治療のために通院したり、子どもの学校行事への参加や家族の介護など、労働者の様々な事情にあわせて、柔軟に休暇を取得できるので導入のメリットは少なくないだろう。

ちなみに年次有給休暇は、以下の要件を満たしていれば、すべての労働者に付与されることになっている。パートタイマーなど所定労働日数が少ない社員等にもその所定労働日数等に応じて付与(比例付与)する必要がある。

  • 6か月間継続して勤務している
  • 全労働日の8割以上を出勤している

3.時間外労働の上限制限

時間外労働(休日労働を含まない)の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別な事情がなければこれを超えることはできない。さらに臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合においても、以下の時間制限がある。

  1. 年720時間を超えない
  2. 複数月の平均が80時間を超えない(休日労働を含む)
    「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」で全て月80時間を超えない
  3. 月100時間未満(休日労働を含む)
    【違反した場合の罰則:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)】

4.雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

1.差別的取扱いの禁止

パート・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)によって、通常の労働者(いわゆる正規型の労働者及び事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者)と通常の労働者と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者との間での差別的取扱いが禁止されている。

〔対象となるパートタイム・有期雇用労働者〕

通常の労働者と就業の実態(職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲)が同じと判断された者

〔禁止される差別的取扱い〕

賃金、教育訓練、福利厚生施設、解雇などのすべての待遇について、パートタイム・有期雇用労働者であることを理由として差別的に取り扱うことが禁止されている。   
賃金については、所定労働時間が短いことに基づく合理的な差異は許容されるが、通勤手当のように、一般的に所定労働時間の長短に関係なく支給されるものは、通常の労働者と同様に支給する必要がある。

なお、派遣労働者については、派遣先に雇用される通常の労働者との不合理な待遇差の解消を図るため、次のいずれかを確保することが派遣元事業主の義務とされている。

  • 派遣先の労働者との均等・均衡待遇
  • 一定の要件を満たす労使協定による待遇

この場合の「一定の要件」とは、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金と比べ、派遣労働者の賃金が同等以上であることなど。

派遣先は、労働者派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ、派遣元事業主に対し、派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金等の待遇に関する情報を提供しなければならない。

2.労働者の待遇に関する説明義務の強化

パートタイム・有期雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について事業主に説明を求めることができる。事業主は、パートタイム・有期雇用労働者から求めがあった場合は、通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由と待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明しなければならない。

3.行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行うことができる。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても行政ADRの対象となる。パートタイム・有期雇用労働者が、紛争解決のための援助を求めたことを理由に、解雇や配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、労働契約の更新拒否などの不利益な取扱いをすることは禁止されている。

3.働き方改革推進支援センター

働き方改革推進支援センターは全国47都道府県に置かれ、各センターで社会保険労務士等の専門家が働き方改革についての相談に応じている。相談は無料で秘密厳守となっているので安心して相談できる。

同センターは、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金等非正規雇用労働者の待遇改善」「生産性向上による賃金引き上げ」「人手不足の解消に向けた雇用管理改善」など、働き方改革に関連する取組みにワンストップで支援することを目的としており、来所相談、電話相談、メール相談、企業への訪問相談、セミナー開催などを行っている。

「どうしたら残業を減らせるか」「就業規則を変更したい」「36協定の作り方が分からない」「助成金について知りたい」「どうしたら従業員の定着率上げられるか」「何から手をつけたらよいか分からない」といった声にも応えてくれるので、働き改革に悩む経営者はぜひ一度相談してみるとよいだろう。

▼各都道府県働き方改革推進支援センターの連絡先一覧

4.助成金

1.働き方改革推進支援助成金

生産性を高めながら労働時間の縮減や年次有給休暇の取得促進に向けた環境整備に取り組む中小企業・小規模事業者や傘下企業を支援する事業主団体に対して、その実施に要した費用の一部を助成するものであり、中小企業における労働時間の設定の改善の促進を目的としている。

2.業務改善助成金

中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引き上げを図るための制度。生産性向上のための設備投資(機械設備、POS、コンサルティングの導入や人材育成・教育訓練)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する。なお、助成対象事業場は事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内の事業場となる。

3.キャリアアップ助成金

有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった、いわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成する。

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