人材関連

中小企業退職金共済制度

2022年1月内容改訂

人材難の現代では、いかに労働者から魅力ある企業として評価されるかが重要です。充実した退職金制度の存在も魅力の1つとなり得ますが、中小企業が独力で退職金制度を整備し、運用することは難しい場合も多いです。しかしながら、「中小企業退職金共済制度」(中退共制度)を利用すると、中小企業でも簡単に退職金制度を設けることができます。

中退共制度の概要

中退共制度は、(独)勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営しています。この制度は、事業主が中退共と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を金融機関に納付し、従業員が退職したときは、その従業員に中退共から退職金が直接支払われるというものです。

中退共制度に加入できる企業

中退共制度に加入できる企業(共済契約者)は、次のとおりです。

一般業種(製造業等)

卸売業

サービス業

小売業

・常用従業員数
300人以下
または
・資本金・出資金
3億円以下

・常用従業員数
100人以下
または
・資本金・出資金
1億円以下

・常用従業員数
100人以下
または
・資本金・出資金
5千万円以下

・常用従業員数
50人以下
または
・資本金・出資金
5千万円以下

これらの要件を満たして中退共制度に加入する場合、雇用する従業員全員を加入させることが原則ですが、以下に挙げる従業員は加入させなくても構いません。

a)期間を定めて雇用される従業員
b)季節的業務に雇用される従業員
c)試用期間中の従業員
d)短時間労働者
e)休職期間中の者およびこれに準ずる従業員
f)定年等で相当の期間内に雇用関係が終了することが明らかな従業員

また、以下に挙げる方は中退共制度への加入ができません。

a)特定業種退職金共済制度に加入している方
b)被共済者になることに反対の意思を表明した従業員
c)小規模企業共済制度に加入している方

掛金

(1)掛金の額

中退共制度では掛金月額が19種類あり、従業員ごとに任意に選択できます。掛金は全額事業主が負担し、掛金の一部でも従業員に負担させることはできません。なお、掛金は全額が損金として非課税になります。

掛金の月額

掛金月額は、加入後に増額変更することができますが、減額変更は以下の一定の要件を満たさなければ行うことができません。

a)掛金月額の減額についてその従業員が同意した場合
b)現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合

(2)掛金の助成

中退共制度では、掛金に対して国からの助成があることが特徴です。新規加入の場合と月額変更の場合の2つの助成があります。

ア. 新規加入助成

新しく中退共制度に加入する事業主には、以下の助成があります。

a)加入後4ヵ月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)を助成
b)パートタイマー等短時間労働者の場合、a)に次の額を加算
掛金月額2,000円の場合は300円、3,000円の場合は400円、4,000円の場合は500円

イ. 月額変更助成

掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額変更する場合、増額分の3分の1を増額月から1年間助成

退職金の額と支払方法

(1)退職金の額

退職金は、基本退職金と付加退職金の2本建てで、両方を合計したものが受け取る退職金になります。基本退職金は、掛金月額と納付月数に応じて固定的に定められています。一方、付加退職金は、運用収入の状況等に応じて定められ、基本退職金に上積みされるものです。
退職金は、納付月数が11ヵ月以下の場合は原則支給されず、12ヵ月以上23ヵ月以下の場合は掛金納付総額を下回る額になります。24ヵ月以上42ヵ月以下で掛金相当額となり、43ヵ月以上で運用利息と付加退職金が加算され、長期加入者の退職金が手厚くなるように制度設計されています。

(2)退職金の支払方法

退職金の支払方法には、一時払いと分割払い(5年間または10年間)、これらを組み合わせた併用払いの3つの方法があり、退職者が選択することができます。ただし、分割払いや併用払いを選択するには一定の要件があります。また、分割払いや併用払いの場合、支払いは年4回(毎年2月、5月、8月、11月)となります。

ア. 分割払い(全額分割払い)の要件

全額を分割で受け取るには、次の要件を満たす必要があります。

a)退職した日において60歳以上であること
b)5年間の分割払いの場合は退職金の額が80万円以上、10年間の分割払いの場合は退職金の額が150万円以上であること

イ. 併用払い(一部分割払い)の要件

一部を分割で受け取るには、次の要件を満たす必要があります。

a)退職した日において60歳以上であること
b)5年間の分割払いの場合は、退職金の額が100万円以上であり、かつ分割払い対象額が80万円以上、一時金払い対象額が20万円以上であること
c)10年間の分割払いの場合は、退職金の額が170万円以上であり、かつ分割払い対象額が150万円以上、一時金払い対象額が20万円以上であること

加入手続き

続いて、中退共制度に加入するためにはどのような手続きが必要となるかを確認していきます。加入手続きには、初めて中退共制度に加入する新規加入の手続きと、新たに採用した従業員を加入させる追加加入の手続きがあります。いずれも、必要な手続きは大きくは変わりません。

ア. 従業員の同意

加入させようとする従業員の同意を取る必要があります。

イ. 掛金月額の決定

掛金月額は従業員個々で決定します。

ウ. 必要書類の提出

新規加入であれば「退職金共済契約申込書(新規用)」、追加加入であれば「退職金共済契約申込書(追加用)」となります。また、必要に応じて添付書類を提出します。一定規模以上従業員を常時雇用する企業の新規加入の場合は、中小企業者であることの証明、短時間労働者(パートタイマー)がいる場合は、短時間労働者であることの証明書(「労働条件通知書(雇入通知書)」または「労働契約書」の写し)を添付します。
なお、提出先は中退共本部ではなく、最寄りの金融機関(ただし、ゆうちょ銀行・農協・漁協・ネット銀行・外資系銀行を除く)または委託事業主団体の窓口となります。

エ. 契約の成立

書類を提出した日が契約成立年月日となります。この後、退職金共済契約申込書の審査が行われ、中退共本部から各従業員の「退職金共済手帳」が送付されます。

契約成立の流れ

従業員が退職した際の手続き

最後に、従業員が退職し、退職金を受け取る手続きを見ていきます。中退共制度の退職金を受け取るためには、事業主と従業員それぞれによる2段階の手続きが必要です。

(1)事業主が行う手続き

中退共制度の契約者は事業主です。退職した従業員が直接手続きを行うといっても、いきなり従業員が退職金の請求をできるわけではなく、まずは事業主が退職したことの届出をしなければなりません。以下で流れを確認しておきます。

ア. 「被共済者退職届」の記入、中退共本部へ送付
イ. 「退職金共済手帳」を退職した従業員に交付

「退職金共済手帳」の3枚目「退職金(解約手当金)請求書」の右上「事業主記入欄」に記入して、「退職金共済手帳」を従業員に交付します。

(2)従業員が行う手続き

中退共制度では退職金の請求手続きを従業員が行い、中退共本部から従業員に直接退職金が支払われます。

ウ. 「退職金(解約手当金)請求書」の記入、中退共本部へ送付

中退共本部で請求書の審査がなされます。不備なく速やかに進んでも、退職金の請求書を受け付けてから支払いまでに、通常4週間程度かかります。

エ. 退職金の受け取り

「退職金等振込通知書」により、請求人に支払いの明細および振込予定日が連絡されます。また、事業主にも「退職金等支払のお知らせ」により、請求人に支払う退職金等の支払金額・振込予定日が通知されます。

退職金受け取りの流れ

まとめ

  1. 独力では退職金制度を設けることができない企業でも、中小企業退職金共済制度を利用することで退職金制度を設けることができる
  2. 掛金月額は従業員ごとに選択可能で、一定期間、国からの助成がある
  3. 退職金は、基本退職金と付加退職金の合計であり、加入期間が43ヵ月以上で掛金を超える退職金を受け取ることができる
  4. 退職金の支払いは、一時払い、分割払い、併用払いの3つの方法から選択できる
  5. 中退共制度への加入手続きは、最寄りの金融機関等に書類を提出することで行う
  6. 退職金を受け取る手続きは、従業員が中退共本部に直接行う