人材関連

キャリアアップ助成金

2025年9月内容改訂

近年、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者など、正規雇用でない雇用形態で働く人(非正規雇用労働者)が増えています。企業が生産性を上げていくために、このような非正規雇用労働者が、仕事ぶりや能力の評価に納得し、意欲を持って働ける職場環境づくりが求められています。

非正規雇用労働者の企業内のキャリアアップが重要

非正規雇用労働者の数は年々増加しており、労働力調査(基本集計)によると、その数は2,128万人に上ります(2025(令和7)年7月分結果)。これは雇用者全体の36.4%を占めます。非正規雇用を選択した理由はさまざまですが、その理由にかかわらず仕事ぶりや能力の評価に納得し、意欲を持って働きたいという思いを持っています。

企業が人材不足を改善するためには、労働者一人ひとりの生産性を上げ、同時に職場への定着を促すことが必要です。そこで、非正規雇用を取り巻く雇用環境を改善し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消や、不本意非正規雇用労働者の正社員化につなげるため、「キャリアアップ助成金」を活用することができます。

キャリアアップ助成金の概要

キャリアアップ助成金は、正社員化や処遇改善の取り組みを推進するためのもので、令和7年度は7コースが設けられています。そのうち「短時間労働者労働時間延長支援コース」は、いわゆる「年収の壁」への対応として新設されたもので、労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、収入増加の取り組みを行った事業主を対象とした助成です。

まずは各コースの概要を確認しておきましょう。

キャリアアップ助成金 7コース

正社員化コースの助成を受ける要件(労働者)

これらのコースのうち、ここでは活用している企業が最も多い(1)正社員化コースについて見てみます。なお、ここで見るのは代表的な要件のみで、要件のすべてを挙げているわけではありません。詳細は厚生労働省のホームページに掲載されているパンフレット等をご参照ください。

正社員化コースは、有期雇用労働者または無期雇用労働者を正社員化した場合に、助成を受けることができます。転換前の雇用形態と助成金の支給額をまとめると、次のようになります。

正社員へ転換前の雇用形態と助成金の支給額

※重点支援対象者とは、次のa~cのいずれかに該当する者
a:雇い入れから3年以上の有期雇用労働者
b:雇い入れから3年未満で、次の(1)(2)いずれにも該当する有期雇用労働者
(1)過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
(2)過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
c:派遣労働者(注1)、母子家庭の母等または父子家庭の父、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者(注2)
(注1)派遣労働者を派遣先で正社員として直接雇用する場合
(注2)人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
※雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者については、無期雇用労働者とみなす
※新規学卒者で雇い入れから一定期間経過していない者については支給対象外


いずれのパターンも、より安定した雇用形態への転換を推進するものです。ここでの正規雇用労働者には、勤務地、職務内容、勤務時間などを限定した「多様な正社員」も含まれます。

以下に、正社員化コースによる助成の対象となる労働者の「要件の概要」を列挙します。次のア~ケの全てに該当する労働者が対象です。

ア.一定の要件を満たす有期雇用労働者または無期雇用労働者
賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される労働者や、有期実習型訓練(人材開発支援助成金(人材育成支援コース)によるものに限る。)を受講し、修了した労働者が対象となります。

イ.正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期契約労働者等でないこと
※有期雇用労働者等の処遇改善を目的とするものですので、最初から正規雇用となることが決まっている場合は対象になりません。

ウ.以前にその企業やその企業の親会社・子会社など、密接な関係の事業主において正規雇用労働者として雇用された者でないこと
※転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、正規雇用労働者であった者は対象になりません。

エ.転換または直接雇用を行った適用事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること

オ.支給申請日において、転換または直接雇用後の雇用区分の状態が継続し、離職していない者であること

カ.支給申請日において、有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されていない者であること

キ.転換または直接雇用後の雇用形態に定年制が適用される場合、転換または直接雇用日から定年までの期間が1年以上である者であること

ク.支給対象事業主または密接な関係の事業主の事業所において定年を迎えた者でないこと

ケ.就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること

正社員化コースの助成を受ける要件(事業主)

続いて、対象となる事業主の要件の概要を見てみます。有期雇用労働者または無期雇用労働者を正社員化する場合は、次のア~ケの全てに該当する事業主が対象です。

ア.有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を労働協約または就業規則その他これに準ずるものに規定していること
※社内の制度として、正規雇用への転換をきちんと規定しておく必要があります。

イ.上記ア.の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正規雇用労働者に正社員化したこと
※制度を作った後に正社員化を行うものであって、正社員化した後に制度を作っても助成の対象にはなりません。

ウ.上記イ.により正社員化された労働者を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して正社員化後6か月分の賃金を支給したこと
※より安定した雇用形態への転換を推進するものですので、転換後すぐに離職していた場合は対象になりません。

エ.多様な正社員への転換の場合にあっては、上記ア.の制度の規定に基づき正社員化した日において、対象労働者以外に正規雇用労働者を雇用していたこと
※多様な正社員は、勤務場所や職務内容が限定されている労働者です。そのほかに、これらが限定されていない正規雇用労働者がいなければなりません。

オ.正社員化後6か月間の賃金を、正社員化前6か月間の賃金より3%以上増額させていること
※賃金は基本給および定額で支給される諸手当の総額です。

カ.所定の期間内に、雇用保険被保険者を解雇等事業主の都合により離職させていないこと
※所定の期間は、正社員化した日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間です。

キ.所定の期間内に、特定受給資格離職者として受給資格の決定が行われたものの数が、その事業所における転換日の雇用保険被保険者数の6%を超えていないこと
※所定の期間は、正社員化した日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間です。

ク.雇用する労働者を他の雇用形態に転換する制度がある場合にあっては、その対象となる労働者本人の同意に基づく制度として運用していること

ケ.正社員化した日以降、その者を雇用保険被保険者として適用させていること

コ.正社員化した日以降、その者が社会保険の適用要件を満たす事業所の事業主に雇用されている場合、社会保険の被保険者として適用させていること。社会保険の適用要件を満たさない事業所の事業主(任意適用事業所の事業主、個人事業主)が正社員化させた場合、社会保険の適用要件を満たす労働条件で雇用していること

サ.母子家庭の母等または父子家庭の父に係る支給額の適用を受ける場合にあっては、正社員化した日において、母子家庭の母等または父子家庭の父の有期雇用労働者等を転換していること

シ.正規雇用労働者への転換制度を新たに規定した場合の加算の適用を受ける場合、キャリアアップ計画書に記載された同一のキャリアアップ期間中に、正規雇用労働者への転換制度を新たに規定し、当該転換制度により、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換していること

ス.勤務地限定、職務限定または短時間正社員制度に係る加算の適用を受ける場合、キャリアアップ計画書に記載された同一のキャリアアップ期間中に、勤務地限定正社員制度、職務限定正社員制度または短時間正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換していること

正社員化コースの助成を受ける手続き

正社員化コースを受けるためには、労働者、事業主のそれぞれに多くの要件が求められます。これらを満たしつつ制度を適用していくことに留意してください。最後に、全体の流れを以下に示します。細かな要件や手続きが求められるため、スムーズに進めるためには社会保険労務士にサポートを依頼するのも良いでしょう。

正社員化コースの助成を受ける手続き

まとめ

  1. 非正規雇用労働者の処遇を改善しつつこれらの労働者を活用するために、キャリアアップ助成金が利用できる
  2. 正社員化コースは、有期雇用労働者または無期雇用労働者を正社員化する場合に活用できる
  3. 満たすべき要件が非常に多いため、あらかじめ整理して準備をしておく必要がある
  4. 毎年度、内容が変更されるため、注意が必要である