経営ハンドブック

株主・金融機関対応方法

株式の分散や個人保証など負の遺産を整理する

後継者が先代経営者から引き継ぐのは、従業員や技術、ブランドだけでなく、経営権を確保する自社株式といった金融資産も含まれる。中小企業の場合、借り入れなどで経営者が個人保証を負っていたり、経営者が会社に貸し付けしていたりすることがある。こうした負の遺産も、後継者にのしかかってくる。

ここでは、事業承継に伴う株主対策や金融機関対応について説明する。

株主対策・金融機関対応のポイント

  1. 自社株式は後継者に集中させる
  2. 親族には分散を防ぐために事前に相続計画を組む
  3. 金融機関に事業承継計画を説明して理解を得る

1.自社株式は後継者に集中させる

自社株式が分散していて多数の株主がいる会社では、後継者が思い通りに経営できないケースも生じうる。特に、創業から年数が経っている会社には、相続で自社株式が親族内で分散していたり、親族だけでなく従業員や取引先などにも自社株を渡してしまっていたりというケースが見受けられる。

事業承継を考え始めたタイミングで、実際の株主数とそれぞれの保有株式数を確認しておく必要がある。株式は影響力が大きい。例えば、発行済株式の1%以上を保有すれば株主総会で議案を提出できるし、3%以上を保有すれば株主総会の招集や帳簿の閲覧が可能になる。経営者にせよ後継者にせよ、保有数が少なくてまったく面識のない株主から、突然、経営に関する議案を提出されてはたまったものではないだろう。

中小企業の経営者は、できる限り自社株式の2/3以上を保有したい。定款の変更や取締役の解任、会社の合併や解散といった重要な事項を決める際に、2/3以上の賛成が必要になるためだ。会社によっては経営に携わる親族で2/3以上というところもあるが、意見の相違が起きた場合に収拾がつかなくなる。

中小企業の経営者には、会ったこともない創業者の知人などを訪ね歩き、分散した株式を数年かけて買い戻した人も実際にいる。株式の買い取りを提案すると、「何かうまい話があるのではないか」「騙されているのでは」と相手に警戒されるケースも少なくない。時間をかけて信頼関係を築くために、粘り強く交渉する努力を地道に続けるしか手はない。

2.親族には分散を防ぐために事前に相続計画を組む

およその株価が見えてきたら、次は移転方法の検討と移転原資の確保が課題になる。

中小企業の経営者は「自分はまだまだ元気である」という意識があるためか、遺言書を作成していない人が多い。この状態で経営者が亡くなってしまうと、経営者が保有する自社株式は、いったん法定相続人の共有状態となる。法定相続人が「分割協議」を実施し、それぞれの持ち株数が確定する。もし分割協議がまとまらず、親族間の争いが生じると、経営が混乱に陥りかねない。

そこで、経営者は元気なうちに遺言書を作成し、後継者候補に自社株式を割り当てることを明言しておく。ただし、経営状態が優良な会社ほど、株式の資産価値が遺産に占める割合は高くなる。相続に当たって、被相続人の配偶者と子、直系尊属(父母、祖父母など直接の先祖)には遺留分として一定の取り分が保障されているため、株式を分割しないと相続が法的な基準を満たさないケースがある。こうした事態に対応するのが、「遺留分に関する民法の特例」を活用だ。経営者の法定相続人となる可能性のある全員と後継者が合意のうえで、自社株式を遺留分算定基礎財産から除外、もしくは価額を固定できる。

3.金融機関に事業承継計画を説明して理解を得る

金融機関には、事業承継にかかわる株価対策や先代経営者への退職金支払いなど、財務状況に影響する取り組みについては、事前に共有し理解を求めておく。本業が順調であるにもかかわらず、事業承継に伴う財務状況の悪化を理由に融資条件を見直されるような事態は絶対に避けたい。

後継者にとって悩ましい問題は、先代経営者の個人保証だろう。中小企業は金融機関の事業者ローンを利用する場合、個人保証人になっていることが多い。この債務があるために、後継者が見つからないケースもある。金融機関による必要以上の経営者保証を抑制するために、経営者保証がなくても融資可能な条件を明確化する「経営者保証に関するガイドライン」が2014年に策定された。

そこでは、中小企業と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている、中小企業の資産や収益力で借り入れが可能と判断し得るといった条件がある。ガイドラインに則った事業計画や対策を金融機関に説明することによって理解が得られれば、個人保証が免除されることもあるため、円滑な事業承継が可能になる。

また、株式相続のための資金について融資を受けるなどの協力も必要に応じて得られる。最近は、金融機関が融資先の事業承継を積極的に支援しようとする動きも活発だ。単純な事業承継に関する勉強会を開催したり、税理士や事業承継コンサルタントといった専門家を紹介したり、支援の内容は様々だ。事業承継の進め方に悩んだときは、相談してみるといいだろう。