経営ハンドブック

事業承継計画の作り方

2023年 4月 21日

事業承継計画の作り方のイメージ01

中小企業経営者の高齢化と後継者不足の中、事業承継計画は早めに策定したい

中小企業の経営者においても近年高齢化が進み、平成12年に経営者年齢のピーク(最も多い層)が「50歳〜54歳」であったのに対し、平成27年には「65歳〜69歳」となっている(「事業承継ガイドライン第3版」中小企業庁 令和4年)。また、経営者交代率をみると、平成2年から平成6年では年平均4.7%であったのに対して、平成28年から令和2年では年平均3.8%に減っている(同)。調査結果からは、なかなか事業承継が進まない状況が浮かび上がってくるが、こうしたなかで事業承継を円滑に進めるためには、「事業承継計画」の策定が有効とされる。事業承継には時間がかかることが多いため、これから事業承継を控えている中小企業の経営者は、ぜひ早めに「事業承継計画」を策定されることをお勧めしておきたい。

事業承継計画の作り方のポイント

  1. 事業承継計画とは
  2. 事業承継計画の策定
  3. 事業承継計画書
  4. 事業承継計画表

1.事業承継計画とは

「事業承継計画」とは、中長期の経営計画に、事業承継の時期、課題項目、具体的な対策を盛り込んだものを言う。事業承継を検討するにあたって、企業が置かれている立場や状況がさまざまであることを踏まえ、経営者が、後継者や親族等と一緒に、取引先や従業員、金融機関等との関係等も考慮しながら策定していくことが望まれる。

▼「事業承継計画」策定までのステップ

「事業承継計画」策定までのステップ

日本政策金融公庫中小企業事業本部「経営情報No.421」「事業承継計画」策定のポイントより抜粋

2.なぜ事業承継計画書が必要なのか

1.現経営者と後継者の認識を合わせるため

事業承継をスムーズに進める為には、現経営者と後継者が対話を通じて、事業の現状と将来について共通の認識を持つことが重要だ。承継後の方向性が明確になることによって、従業員や外部関係者の理解も得られやすくなる。事業承継計画書は現経営者と後継者が認識を合わせていくためのツールだとも言えるだろう。

2.親族や従業員間で揉めることを防ぐため

親族や会社の役員や従業員、あるいは第三者に事業承継を行っていくという方法もある。必ずしも全ての関係者が満足する方法にならないかもしれない。後継者争いなどのトラブルが引き起こされる可能性だって皆無ではない。事前に広く意見を集めて、その合意事項を事業承継計画書に盛り込むことで、承継後の不満を抑えることができる。

3.事業承継税制の特例を利用できるようにするため

親族内承継の場合、相続や生前贈与という方法で行われることが多いが、その場合は相続税や贈与税といった税金がかかる。中小企業後継者の税負担を軽くするのが事業承継税制だ。制度を利用するためには一定の条件があるが、それらを満たしていることを明示できるのが事業承継計画書なのである。

4.取引先や金融機関の理解を得るため

承継後も引き続いて事業を継続させていくためには、取引先や金融機関の理解が必要になる。経営者が変わったことで信頼関係が崩れて取引停止になってしまったのでは会社の存続にかかわってくる。事業承継計画書が決まった段階で共有するとよい。

3.事業承継計画の策定

事業承継を着実に進めていくためには、事業承継に係る自社の課題を把握した後、できる限り速やかに「事業承継計画」の策定に着手することが重要だ。

策定に当たっては、法律で定められた文書ではないため、決められた定型のフォーマットはない。ただ、主に事業承継上の課題をまとめた「事業承継計画書」と、実現までのロードマップとなる「事業承継計画表」の2つを作成しておくと便利だろう。

【作成の流れ】

1.現状の把握

現経営者の保有株式や個人資産、会社の資産や従業員数を把握しておき、後継者候補のリストアップを進める。また、贈与や相続にあたり起こり得る問題も検証しておく必要がある。

2.関係者の意思確認

後継者候補を絞りこみ、候補者それぞれの意向を確認しつつ、周囲の親族や幹部役員をはじめとした従業員の意見にも耳を傾けよう。

3.承継の方法、後継者の確定

親族内事業承継、社内事業承継、第三者事業承継のそれぞれメリット・デメリットをよく理解し、後継者を確定させる。

4.事業承継計画書の作成

経営理念、経営計画、売上目標などを言語化して計画書に落としこみ、事業承継の実施時期を検討する。それから周囲の反発、資金面の問題など考えられる問題も洗い出す。

5.事業承継計画表の作成

上記4で明らかになった事業承継上の課題に対し、中長期の経営計画に、事業承継の時期や課題の解決策を実施する時期を盛りこみ、実行に移していく。

事業承継計画書の例として、日本政策金融公庫のサイトにダウンロード用の「事業承継計画書」が用意されているので、参考にしてみるとよいだろう。

▶事業承継計画書/日本政策金融公庫

4.事業承継計画書

「事業承継計画書」は、現経営者に関する情報、経営理念、財政状態、企業業績の推移、将来の経営ビジョンや、誰に引き継がせるのか、何をこれから準備していくのかなど、事業承継上の課題をまとめた書類のことを言う。

【記載内容の例】

1.経営理念(企業ビジョン)

2.企業概要(資本金・従業員数・業種・沿革・許認可等)

3.経営課題(SWOT分析による)

(1)自社の強み・弱み

(2)事業機会・事業脅威

4.事業承継の概要

(1)現経営者の個人情報

(2)後継者(候補)の個人情報

(3)承継方法(親族内、社内、第三者など)

(4)事業承継上の課題の整理と解決方法

(5)会社(取引先の維持、経営理念や自社の強みの承継、人材の世代交代など)

(6)現経営者(自社株式を含めた相続対策、株式移管、退任時期など)

(7)後継者(経営者教育、役職・社内体制の構築、人脈や信用力の蓄積など)

▼事業承継計画書記入ポイント

事業承継計画書記入ポイント

日本政策金融公庫「各種書式のダウンロード」

「事業承継計画書」[Word]

「事業承継計画書記入ポイント」[PDF]

5.事業承継計画表

「事業承継計画表」は、事業承継の実施までに、自社や現経営者、後継者がどのように関わっていくのかをまとめた行程表である。事業承継は長期にわたることが多く、実現までのロードマップとして位置づけられ、適宜更新して進捗を管理していきたい。

事業承継計画書をまとめて、自社の現状と課題解決のために何をすべきか可視化した後は、明確になった事業承継のために取り組まなければならないことをアクションプランにつなげていく。およそ5年〜10年くらいのスパンで作成していくことが望ましいとされている。

▼10カ年版事業承継計画(記入例)

10カ年版事業承継計画(記入例)

「事業承継ガイドライン(第3版)」中小企業庁 令和4年3月改訂 P136参照

※様式は独立行政法人中小企業基盤機構のサイトから入手可能

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