ビジネスQ&A
小規模事業者が事業転換をする際に受けることができる支援や融資について教えてください。
2024年 12月 27日
小規模事業者ですが、事業転換をして新たな事業活動に挑戦することを考えています。受けることができる支援や融資はないでしょうか。
回答
事業転換の内容に応じて、さまざまな支援や融資を受けることができます。具体的には、商工会・商工会議所などが販路開拓や生産性向上などをサポートする「小規模事業者持続化補助金」や、日本政策金融公庫による無担保・無保証の「マル経融資」を活用した資金調達支援、専門家派遣などがあります。ただし、活用においては自社の経営状況や強みをしっかり把握し、どのような支援を選択するべきかを十分に検討していくことが重要です。
1.補助金について
「小規模事業者」とは上の表に該当する法人、個人事業主などを指します。
「小規模事業者持続化補助金」(*1)は、販路開拓やサービス開発、業務効率化(生産性向上)などの小規模事業者の事業転換に活用できる補助金制度として、約10年前に施行されました。直近(第16回公募分)の要綱において、補助上限金額は通常枠で50万円、特別枠で最大250万円となっています。実費に対して受け取り可能な割合を示す補助率は3分の2(一部の申請枠では4分の3)です。
(*1) 小規模事業者持続化補助金(一般形)
ほかにも、さまざまな補助金がテーマごとに用意されており、事業転換の内容に応じて活用することが可能です。「中小企業省力化投資補助金」は、人手不足解消を目的として、カタログに掲載された製品の導入を補助する制度として、2024年6月から公募が開始されました。補助上限額は従業員規模に応じて200万円から最大1,000万円、補助率は2分の1となっています。また、「IT導入補助金」は、業務効率化および労働生産性の向上に資するIoT投資を促進する取り組みとして活用されています。
補助金利用を検討する際に留意したいのは、給付金や支援金とは異なり、補助金の採択が決定しても、すぐに入金される訳ではないという点です。補助事業計画を遂行し、実績報告および審査を経た上で補助金が入金されるため、投資資金と運転資金のキャッシュフローを十分に確保しておくことが重要です。
例えば、小規模事業者持続化補助金にて補助対象経費60万円、補助金申請額40万円(補助率3分の2)を申請して採択された場合、本補助金の交付決定通知が届いてから、60万円の経費支出を実行し、数カ月かけて補助事業計画を遂行します。その後、実績報告を行い、さらに数週間後に40万円が補助金として入金される、というイメージです。
そのため、補助金活用に際して、特に投資規模が大きい場合や、手元資金が潤沢でない場合は資金調達を検討し、ある程度のリスクに対応できる体制を整備しておくことをお勧めします。
2.資金調達マル経融資「小規模事業者経営改善資金融資制度」
先述した「マル経融資」の正式名称は「小規模事業者経営改善資金融資制度」です。こちらは商工会・商工会議所などが、スモールビジネスの育成や経営改善といった経営指導を、金融面で補完するために創設された融資制度です。
スキームとしては、商工会・商工会議所などで一定期間の経営指導を経て、日本政策金融公庫への推薦・融資申請を行い、無担保・無保証、低金利での金融支援を行う流れとなっています。推薦要件としては、原則として1年以上、当該商工会・商工会議所などの対象地区で事業を行うことや、経営指導を6カ月以上受けていること、さらに各地域の商工会・商工会議所などの推薦が設けられています。
なお、上記の推薦要件を満たしていない場合や創業から間もない場合は、日本政策金融公庫や信用保証協会、信用金庫・地方銀行などの民間金融機関といった、低金利な資金調達手段を優先的に検討しましょう。後者においては、地方自治体と連携した「制度融資」を活用することで、より有利な条件で資金調達できる可能性があります。
3.補助金や資金調達を最大限に活かす戦略を
上述した補助金や資金調達によって経営レバレッジを効かせ、スピード感のある事業拡大や競争優位性の構築などが可能です。一方で、小規模事業者においては経営リソースが限られている場合も多く、固定費が肥大化したまま収益が追い付かず、手元資金が底をつき事業が継続できないケースもあります。
実は、自社の強みが活かしにくい領域へ事業転換したことで企業経営が悪化した例は、枚挙にいとまがありません。反対に自社の強みを理解し、新規顧客層や新製品開発へうまくアプローチし、着実に企業成長を遂げてきた事例も数多く存在します。
上の表は、経営学者であるイゴール・アンゾフが1950年代に提唱した成長マトリクスです。経営環境が変化し続ける中、成長戦略に向けていかに意思決定するかを整理したシンプルなフレームワークで、企業規模を問わずさまざまな局面で活用されています。
例えば、「既存事業を、既存顧客層に対してより強化する」という選択は、左上の「市場浸透」戦略となり、今の事業をさらに強化するという意味を示します。組織的には実行しやすい一方で、イノベーションは起きにくいといった特徴があります。
また、新しいサービスを新規顧客層へアプローチする右下の「多角化」戦略においては、自社ならではの強みが活かしにいというメッセージが込められています。単純な多角化は客観的に見ても評価が得られにくいため、実行計画や市場調査、ノウハウの取得などにおいて十分な注意と準備が必要です。
補助金や融資審査の担当者は、事業転換の内容だけでなく、既存事業の強みや実績、代表者自身の知見と競争優位性、戦略との整合性なども含め総合的に精査しています。小規模事業者だから先述したような補助金が通りやすい、マル経融資だから融資が通りやすい、という訳ではなく、自社ならではの戦略や勝ち筋を言語化・数値化し、客観的に納得できる内容に練り上げることが重要です。
特に事業転換においては、これまで経験したことのない問題点や経営課題に多々直面します。計画策定や実行に際し、もし不安や懸念があれば、商工会・商工会議所などをはじめ、よろず支援拠点や認定支援機関といった機関に相談することも効果的です。経営相談ができるパートナーの存在が不安の軽減につながり、自信ある意思決定や行動変容につながります。どの機関も、「社会をより良くしたい」という思いを持って励んでおりますので、気軽に経営相談の利用をご検討ください。
- 回答者
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中小企業診断士 南 晃二朗
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