中小タスクが行く!
第19回:就職氷河期世代支援プログラム編
2019年 9月 24日
人手不足解消のもう一つの矢、
「就職氷河期世代支援プログラム」とは?
就職氷河期世代とは?
バブル経済が崩壊した1990年代中頃から約10年間、企業の新卒求人数は激減しました。この間に新卒採用のチャンスを逃し、その後も正規雇用の機会に恵まれずにいる人たちが多い世代を「就職氷河期世代」と呼びます。該当するのは、高卒者の場合は1975 年頃から1985 年頃に生まれた人々、大卒者の場合は1970 年頃から1980 年頃に生まれた人たちです。
この年齢層には約1,700万人が存在しますが、正社員でない非正規雇用者は371万人、就労していない非労働力人口は219万人と、正規雇用でない人々の割合が他の年齢層より高い比率となっています。
【就職氷河期世代の中心となる35~44歳の雇用形態等内訳(2018年:1689万人)】
「就職氷河期世代」が人手不足解消の一手に!
前述した問題とは別に、企業経営者を悩ませているのが、慢性的な人手不足でしょう。
株式会社パーソル総合研究所が中央大学経済学部の阿部正浩教授とともに行った推計によると、2030年には644万人の人手が不足するとされています。この推計では、運送業、製造業、卸売・小売業、医療・福祉業、サービス業の分野で、特に人手が不足することも指摘されています。
従来の人手不足解消の打開策は、
- 出産・育児による女性の離職を防ぐ
- 定年後のシニアが働ける制度・環境整備
- 外国人が働きやすい制度・環境整備
- IT導入
が4本柱でした。そして、今回お伝えしている
5.就職氷河期世代の採用
が、5本目の柱となる可能性を秘めています!
内閣府によると、就職氷河期世代のうち、正規雇用を希望しながら不本意に非正規で働く人々は、少なくとも50万人いるとみられています。
このことを実感させてくれたのが、今年8月に兵庫県宝塚市が実施した正規職員採用でしょう。宝塚市が一部の事務職の応募条件を「1974年4月2日から1984年4月1日までの間生まれで、高卒以上の人」、つまり就職氷河期世代としたところ、募集期間の12日間で、募集人数の3人に対して、全国から1,816人もの応募がありました。なんと定員の600倍もの応募が殺到したのです! 「今ってホントに人手不足?」と思わず首をかしげたくなるほどの高倍率です。
正規雇用のチャンスを切望する人が多い就職氷河期世代に、経営者が着目しない手はありません。事実、総合物流の山九株式会社は、今年8月、就職氷河期世代の人たちに限定した中途採用の開始を発表。2022年までの3年間で、計300人の採用枠を設けるとしました。他社に先駆けて就職氷河期世代の採用に乗り出すことで、人材確保につなげていく考えのようです。
就職氷河期世代の人材を巡る企業の戦いは、すでに始まっています。では、企業はどうすれば、この世代の人材を採用・活用できるのでしょうか?マンガの続きを見てみましょう。
「就職氷河期世代支援プログラム」とは?
今回ご紹介したマンガの企業のように、就職氷河期世代の積極的な採用は、この先、人手不足解消の有効な手立てとなるでしょう。
とはいえ、多くの企業経営者が憂慮するのが、「就職氷河期世代のような非正規雇用経験しかない人々が、即戦力たりえるのか?」ということではないでしょうか。実際のところ、非正規雇用者の中には、社員教育や研修などを受ける機会が少なく十分なキャリアを形成できずにいる人たちが多数存在します。
そんな人たちのために、政府が「骨太の方針2019(経済財政運営と改革の基本方針2019)」に盛り込んだのが、「就職氷河期世代支援プログラム」です。
このプログラムには
- 就職氷河期世代の正規雇用者を、今後3年間で30万人増やすことを目指す
- 相談、教育訓練から就職まで切れ目のない支援を実施する
- 個々人の状況に合わせた、丁寧な寄り添い支援を実施する
- 官民共同スキームとしてプラットフォームを形成・活用する
などが盛り込まれました。
2019年9月現在、厚生労働省が主導するこのプログラムへの取り組みは始まったばかりですが、既に動き始めている取り組みには、次のようなものがあります。
(1)助成金の支給要件の緩和
「特定求職者雇用開発助成金(安定雇用実現コース)」は、正規雇用経験に乏しい就職氷河期世代の人々を、ハローワーク等の紹介により正規雇用者として雇い入れる事業主に支給されるもの。雇用1人に対し、中小企業には60万円が支給されます(大企業の場合は50万円)。
かねてから存在した「特定求職者雇用開発助成金(長期不安定雇用者雇用開発コース)」が、平成31年4月1日に名称変更され、現行の形となりました。それに伴い助成金の支給要件が緩和され、企業は以前より支給が受けやすくなりました。
前述したように、就職氷河期世代の非正規雇用者は、正規雇用者に比べて、企業内での能力開発を十分に受けていないことがありますが、企業側はこの助成金を教育費や雇用環境整備に活用することができます。
(2)ハローワークを通じた求人に限り、就職氷河期世代を対象とした求人を例外化
企業が求人や採用を行う際に年齢制限を設けることを禁じた法律の運用が緩和され、ハローワークに限って、就職氷河期世代に限定した求人が認められるようになりました。具体的には、直近の1年間、正社員としての雇用がない人や非正規雇用の経験が多く安定した就労の機会が乏しい人などを採用することを前提に、求人票に対象年齢を35~54歳までと記載することが可能です。求人の際は、雇用の期間を設けず、同じ職での経験を条件としないこととしています。
(3)ハローワークへの専門窓口を設置
2020年度から、全国60か所余りのハローワークに、就職から職場の定着までの支援を一貫して行う専門窓口を設置。専門チームが求職者とともに個別の支援計画を作成し、同計画に基づいて、キャリアコンサルティング、必要な能力開発施策へのあっせん、求職者の適性・能力等を踏まえた求人開拓、就職後の定着支援などを実施します。すでに兵庫県内の4つのハローワーク(神戸、三宮、尼崎、姫路)には窓口が設置されています。
このように、人手不足に悩む経営者にとって、就職氷河期世代の人々を採用しやすい仕組みが整いつつあります。助成金とハローワークを積極的に活用することで、人材の確保・定着につなげやすくなるのではないでしょうか。
就職氷河期世代を採用する企業側に求められるポイント
一方で、企業側も、就職氷河期世代の採用に当たっては、注意すべきポイントがあります。
(1)人材と企業のミスマッチを防ぐ
新卒者採用の場合、多くの企業がインターンシップ期間を設けます。就職氷河期世代を採用する場合も同様で、インターンシップ期間を経た上で採用を決定するほうが、人材と企業のミスマッチを防げます。
(2)採用後の教育機会を設ける
就職氷河期世代は、正規雇用者に比べて、企業内での能力開発の機会が乏しかったという状況を踏まえて、採用企業側は、改めて教育をする必要があります。教育にあたっては、通常の中途採用とは違うということを理解し、できないことや知らないことを見下すような言動は慎みましょう。
(3)多様な人材を評価できる制度の整備
その企業が持つ従来通りの評価制度では、就職氷河期世代の適切な評価は難しいもの。せっかく採用した人材も、評価に納得がいかなければ不満が蓄積し、離職する可能性が高まります。就職氷河期世代に限らず、多様な人材を適切に評価できる制度の整備が必要です。
(4)社外キャリア・コンサルタントの活用
大企業であれば社内にキャリア・コンサルタント資格を有する人材がいる場合も多いものですが、中小企業では稀でしょう。そこで、社外のキャリア・コンサルタントの活用をお勧めします。そうすることで、採用者の長期的な自己目標を導き、定着化が期待できます。
就職氷河期世代の採用で、コミュニケーションも円滑に!
就職氷河期世代の中には、通常の経済環境であれば、普通に正社員となれた人たちが多く存在しています。人手不足が深刻化する中、経営者としては、そのような人材は喉から手が出るほど欲しいのではないでしょうか。
また、就職氷河期に採用を見送ったために、30代なかばから40代なかばの従業員層が薄くなり、世代間のコミュニケーションに悩んでいる企業は少なくありません。そのような企業の場合、就職氷河期世代の人材が増えることは、単なる人手不足解消だけでなく、世代間のコミュニケーションの円滑化にもつながります。
経営者の皆さん、就職氷河期世代の採用を積極的に検討してみましょう!