経営お悩み相談室

接客で売上アップ「スタッフにも体験してもらおう」(相談室12回目)

文:田中聡子(中小企業診断士)

Satoko TANAKA

皆さま、こんにちは。田中聡子です。私の担当は今回で終了となりますが、最終回は、飲食店のオーナーさんからのご相談です。

今回のお客さまは、新興住宅地に出来たパスタ屋さんです。お客さまには、アットホームな雰囲気で自慢のパスタを楽しんでほしい、と料理の腕に磨きをかけるだけではなく、お店の内装や接客についても気を配っています。ですが、スタッフの方たちはややおとなしく、物足りないそうです。応対は丁寧なのですが、オーナーのリクエストとしては、「お客さまが一緒に会話を楽しめる」雰囲気を作りたいとのことでした。

早速、私が実際にお客さまになり、オーダーをとっていただくことにしました。席に案内されると、ほどなくお水が運ばれてきます。応対はにこやかで、印象も悪くありません。メニューには、約20種類のパスタがコメントと一緒に紹介されています。私はウエイトレスさんにいくつか質問をしました。例えば以下のような内容でした。

「この『春きゃべつと桜エビのパスタ』って、結構桜エビの味が強いんですか?」
「メニューには、『しっかりした味わい』とありますが、しょっぱいですか?」
「本当はあっさりしたものがよいのですが、他におススメがありますか?」

すると、ウエイトレスさんは困った表情です。そしてこんな返事が返ってきました。

「申し訳ありません。確認してまいりますので、お待ちいただけますでしょうか」

ここから、あることが分かります。ウエイトレスさん達は、そのパスタを食べたことが無く、どんな味かを知らなかったのです。ですから、味に対する「自分の印象」はこたえられなかったのです。

提供する商品やサービスを自ら体験することは、自分の言葉でお客さまに情報を伝えるうえで、大切なことです。ウエイトレスさんの方たちも、自分で食べたことがあれば、メニューに書いてあるコメントに、自分なりの見解を加えて説明することが可能になります。例えば、味の説明をした後に、

「桜エビのパスタは、香りも楽しめます。パスタを混ぜるときに、ふわっと桜エビのいい香りがするので、私はこれが楽しみなんです(にっこり)」

と、香りの説明をすることも可能になります。お店が提供する商品やサービスを自分も体験することで、消費者視点を持ちながらお客さまと対話することが出来るようになるのです。

「メニューに説明をたくさん書けばいいのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。でも、文字だらけのメニューは読みにくくなってしまう恐れもあります。お客さまの興味に合わせてメニューにない情報を提供できれば、お客さまとの会話も盛り上がりますし、信頼も得られます。さらに、今回のように例えば香りの話を加えることで、料理を提供するまでの時間をもっと楽しみに待っていただくことも出来るのです。

これは、飲食店だけに限りません。例えばあるドラッグストアでは、商品を実際にスタッフさんに使ってもらい、感想を皆で共有しています。洗剤なら、容器の扱いやすさ、洗い上がり時の香りの強さや持ち時間が説明できるでしょう。また、健康食品などは良い点だけでなく、「これは苦いですがその分~」、「私も初めは飲みにくいなと思ったのですが、3日目位から気にならなくなりました」などと、あえてマイナス部分も説明することもできます。自分の体験を話すことで、お客さまに親近間を感じて頂いたり、信頼して頂いたりしやすくなるのです。

このパスタ屋さんでも、忙しい時間を外し、ウエイトレスさんにも少しずつメニューの試食をしてもらうようにしたところ、他にも効果が出てきました。お客さまとの会話が弾むことで、皆の仕事に対するやる気も高まってきたのです。また、「自分のお店のパスタがおいしい」「お店の雰囲気も良い」ということで、アルバイトのスタッフが友人に、自信を持ってお店を紹介してくれることにも繋がりました。住宅地など、職住接近のお店では、スタッフの方たちも重要な"広報部員"になりうるのです。

はじめのうちは、試食は手間がかかるなぁ、と及び腰だったオーナーでしたが、今では皆の意見を聞きながら新しいメニュー開発にも取り組んでいます。スタッフは、あなたのお店にいるいちばん身近なお客さまでもあるのです。

4月は、新入生・新入社員の季節です。新しくお店に入ってくるスタッフを、新しいお客さまだと思って、一緒にお店を育てていってくださいね。短い間でしたが、ご愛読いただき、ありがとうございました!

掲載日:2012年3月15日