経営お悩み相談室

お店のレイアウト「お客さまの目線を意識しよう」(相談室10回目)

文:田中聡子(中小企業診断士)

Satoko TANAKA

皆さま、こんにちは。第10回のお悩み相談室を担当する田中聡子です。

今回の相談先は、やや郊外にある種屋さん。花や野菜の種子が主力商品ですが、庭を彩る楽しみを感じてほしいと、ガーデニング用品も扱っています。最近は品種改良も進み、マンションのベランダなどでもプランターを利用した家庭菜園や花の栽培を楽しみやすくなっているそうです。

さて、このお店には、お客さま用の出入口が2つあります。外と繋がるもののほか、隣接したスーパーからも出入りできるようにもなっています。スーパーの駐車場には自動車がたくさん停まっており、隣接するスーパーはそれなりに繁盛している様子です。

しかし、この種屋さんのお悩みは...。スーパーと直結した出入口があるにも関わらず、売上の多くが農家の方で、スーパーを利用する一般のお客さまからの売上が伸びないことです。

「野菜が成長する過程が家で見られるって、楽しいんだけどなぁ。野菜が嫌いでも、自宅で作ったトマトは食べるというお子さんもいるのにね。この辺りのお客さんは、家庭菜園や自分で花を育てることに興味がないのかな」と店主さんは嘆いています。でも、本当にそうでしょうか?

実は、お店に入ったときの第一印象と、店主さんから伺ったターゲット顧客に違和感がありました。入口の前に立った時、いちばん初めに目に入ったのは、農家の方たちが使うウエアや耕具などでした。やはり第一印象は、「農家の方向けのお店」です。

ところで、私が立ったのは、駐車場寄りの、外に面した出入口でした。スーパー側の入口に立てば、種の品揃えが豊富なことはわかります。でも、その入口自体が、スーパー側からは目立ちにくい場所にあったのです。スーパーに来るお客さまは、駐車場から、種屋さんの入口に気づかないまま前を素通りし、スーパーでも種屋さんの連絡通路に気づかず帰宅している方もいそうでした。

店長さんにこのことをお伝えした結果、メイン入口を外に面したほうに変更し、それに合わせて店内のレイアウトも、ターゲット顧客としている一般のスーパー利用者向けにも伝わるよう変えよう、ということになりました。変更にあたり、お客さまの目線で見ることに意識を向けていただきました。

ここで気をつけたのは、以下の点です。

  1. 店内にあった花の鉢植えを外へ出し、外から「花(関連)のお店だ」と気づいていただきやすくする
  2. 店が奥まで見渡せるよう、入口には低い什器を配置する
  3. 入口正面には一般顧客に喜ばれるよう、見た目のかわいいガーデニング系の商品を配置する
  4. すべての商品の価格がわかるよう、プライスカード付きを徹底する
  5. 農家の方がメインユーザーの商品は、別のコーナーにひとまとめにする

この結果、お客さまの反応が変わり始めました。外に面した出入口で、鉢植えや入口の商品に目をとめるお客さまが増えてきたのです。「ガーデニングのお店だったのね」という声も聞かれました。今までと品揃えは変えていないのに、商品に気づいてもらえていなかったのです。

こうして、少しずつ一般のお客さまが増え始めました。農家のお客さまにも今までどおりごひいきいただいています。農家のお客さまは目的買いが多いうえに、もともと店主さんともおなじみさんです。初めこそ、「あれっ、商品どこになったの?」と聞かれることもありましたが、すぐに新しい配置にもなじんでいただけました。

さらに、思わぬ発見もありました。農家の方たちと一般のお客さまが店内で話しこみ、農家の方たちのおススメの種を買っていかれることが出てきたそうです。一般のお客様にとって農家の方のアドバイスはとても参考になり、非常に喜ばれています。農家の方も、お客さまが感心したり、喜んだりする声を聞くのが嬉しいようです。こんなコミュニケーションが店内で起こることで、店内の雰囲気も明るくなりました。

このお店が変更したのは、「正面入口」でした。これを読んで、「うちは入口が1つだから関係ない」と思った方はいらっしゃいませんか?

入口の他にも、お客さまの目線を意識すべき箇所はたくさんあります。窓やショーウィンドウから見える商品は、あなたのお店の一押しでしょうか。レジは、お客さまに威圧感を与える場所に配置されていないでしょうか。せっかく手に取った商品も、値段がわからずそのまま帰られてしまうことはないでしょうか。

お店に一押しの商品が並んでいても、気づかれなければ存在しないのと同じになってしまいます。レジが、入口から入ったお客さまを正面から見つめる配置になっている場合は、レジを目立ちすぎない位置に変更してみましょう。

もうすぐ春。引っ越しなどで、皆さんの町にも新しいお客さまが増える時期です。新しい季節を迎える前に、おススメが見えるお店になっているか、店内でお客さまが心地よく過ごせるお店になっているか、もう一度、お客さまの目線で見直してみてくださいね。

掲載日:2012年2月 2日