闘いつづける経営者たち
「杉浦 広一」スギホールディングス株式会社(第3回)
03.自宅にいながら病室同様の環境を目指す
専門性の高さで差別化
他社との競争に勝ち抜く秘策。それはスギホールディングス(HD)が調剤薬局として創業したことにも由来する専門性の高さだ。競合のドラッグストア(DS)は、数年前まで日用雑貨の安売りで成長を遂げてきた。しかし、同社は創業当時から全店舗に薬剤師を配置して処方せん調剤を手がけており、調剤事業の売上高は2010年2月期で全体の10.4%を占める。DS業界10位以内ではトップの比率だ。
年間処方せん枚数は医薬分業の流れにも乗り、10年2月期は01年2月期に比べ60倍に拡大した。スギHDが安売り中心のDSではなく、処方せん調剤薬局として確実に消費者に浸透してきている表れだ。また、処方せん1枚当たりの平均単価も9115円と同1.6倍に上昇。調剤事業での粗利益率は30%にもなり、同社の収益を下支えしている。
次なる成長を支える地域医療
そして、その専門性の高さを生かし、新たな領域に足を踏み入れた。00年「かかりつけ薬局」を掲げるスギHDは、訪問看護などを手がける地域医療へ進出した。競合他社がようやく調剤薬局の取り組みを強化し始めた中、杉浦会長兼CEOは「地域医療こそが差別化になり、次なる成長のカギ」と言い切る。その先導役が子会社のスギメディカル(東京都中央区)だ。
スギHDには薬剤師が輸液パックを作ったりする在宅医療拠点を併設した店舗が89店舗ある。さらに08年には、医師と連携した看護師が24時間365日体制で患者の自宅を訪問し、血圧測定や医師の指導に基づいた治癒行為を行う訪問看護ステーションを開設。現在、7店舗まで増えた。これらの事業を統括するのがスギメディカルだ。
自宅でも病室と同じ環境を-。荒井恵二スギメディカル社長は、地域医療の具体像をこう描く。それには「高度な人材と物流サービス、そして専門性が欠かせない」(荒井社長)。
新薬開発の支援事業に参入
この実現のため、08年に動物を使った薬効試験や新薬開発にかかわるデータの管理など、製薬会社の新薬開発を受託する開発業務受託機関(CRO)事業に参入。さらに、医療機関での治験を支援する治験施設支援機関(SMO)事業にも着手した。これらは新薬開発における川上の分野。消費者と直接ふれ合う地域医療との関連性は一見、薄いようにも思えるが「他DSは絶対にできない」(同)サービスを実現する秘策だ。
同社がこうした施策を急ぐのは、今後一気に超高齢化が進むことへの危機感がある。今後30年間で、日本の高齢者人口は急速に増え、年間死亡者数は1.5倍増が見込まれる。それに連動して地域医療の重要性が高まるのは必然だ。スギメディカルはそうした将来を見据え、着々と基盤を整えつつある。
プロフィール
杉浦 広一 (すぎうら ひろかず)
1950(昭和25)年愛知県西尾市生まれ。74年岐阜薬科大製造薬学部卒。76年に昭子夫人とスギ薬局を創業した。82年スギ薬局(現スギホールディングス)を設立し、社長に就任。09年会長兼CEOに就任し現在に至る。座右の銘は「不易流行」「和顔愛語」。
企業データ
- 企業名
- スギホールディングス株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1982年3月
- 資本金
- 154億3400万円(2010年2月現在)
- 従業員数
- 連結合計3924名(2010年2月末現在)
- 所在地
- 〒446-0056 愛知県安城市三河安城町1丁目8-4
- 事業内容
- スギ薬局グループ全体の経営管理、運営
- 売上高
- 2935億1100万円(2010年2月期)
掲載日:2010年8月23日