闘いつづける経営者たち

「杉浦 広一」スギホールディングス株式会社(第1回)

01.成長を支える「かかりつけ薬局」の精神

たった1店舗からの出発

愛知県西尾市に開いた創業当時の店舗

夫婦2人で始めた調剤薬局が、今やドラッグストア(DS)業界2位の地位にまで上り詰めた。それが「スギ薬局」など、中部地区を中心に関東、関西に738店展開するスギホールディングス(HD)だ。

同社の成長の秘訣(ひけつ)、それは創業当時から追い続けてきた地域密着路線と拡大路線とのバランスの妙に尽きる。「どんなに急拡大をしても、常に頭の中には創業当時の調剤薬局の経験がある」と杉浦広一会長兼CEOは言う。

1976年、薬剤師だった杉浦は、夫人の昭子副社長兼CFO兼CSR室長と共に、愛知県西尾市で調剤薬局を開いた。

町外れに開いた当時の店舗は、売り場面積がわずか50平方メートルほどのこぢんまりとしたものだった。商品は薬と化粧品が中心。開店当初はまったく客が来なかった。その分、1日に訪れる数人の客については名前のほか容体から過去の症状、家族構成までをすべて覚え、客にあった薬を調剤した。1人にかけるカウンセリングの時間は最低でも1時間。長いときには3時間かけ、じっくりと話を聞いた。

こうした接客の評判が伝わり、次第に客が増え始めてもその姿勢は変わらなかった。杉浦と夫人の昭子が並んでカウンターに腰掛け、その前に客が列をなして並んだ。最終的に、杉浦は地域に住む数千人のデータを覚えるまでになり、カウンセリングを待つ列は最長で3時間にも達した。

"パパママストア"の強み

この経験を通して杉浦は「丁寧な接客はお客さまに必ず支持される」という手応えをつかんだ。そして、ここで培った、客の生涯にわたって健康を身近で支える「かかりつけ薬局」の精神こそが、スギHD成長の源泉になった。

杉浦は言う。「基本的には、開業医が多店舗展開するなんてことは、聞いたことないでしょう。医療とはそういうものなのです」と。DSは、他の流通業のように数や規模だけを追い続けることが本当の姿ではない。地域に根ざし、客と信頼で結びつくことが重要になる。

そして「我々の店は数に関わらず、1店1店が地域に根ざした店でなければならない」と杉浦は言う。創業当時、たった1店舗から始めたスギHDがそうだったように、そうした店舗には必ず固定客がつくためだ。その証拠に、小さいながらも親身になって相談に乗ってくれる"パパママストア"の薬局や化粧品店は、今も根強く支持されている。

DS業界は今後、淘汰(とうた)が進み、大きく変わることが予想される。しかし「お客さまに信頼される店は全国で何万店も残るでしょう」と杉浦は予想する。たった1店舗の調剤薬局から身を起こした杉浦。信頼されることの大切さと難しさを十二分に知っている。

プロフィール

杉浦 広一 (すぎうら ひろかず)

1950(昭和25)年愛知県西尾市生まれ。74年岐阜薬科大製造薬学部卒。76年に昭子夫人とスギ薬局を創業した。82年スギ薬局(現スギホールディングス)を設立し、社長に就任。09年会長兼CEOに就任し現在に至る。座右の銘は「不易流行」「和顔愛語」。

企業データ

企業名
スギホールディングス株式会社
Webサイト
設立
1982年3月
資本金
154億3400万円(2010年2月現在)
従業員数
連結合計3924名(2010年2月末現在)
所在地
〒446-0056 愛知県安城市三河安城町1丁目8-4
事業内容
スギ薬局グループ全体の経営管理、運営
売上高
2935億1100万円(2010年2月期)

掲載日:2010年8月16日