ビジネスQ&A

新製品の価格設定方法について教えてください。

中小機械メーカーの社長をしています。新製品の試作品をつくり、その受注を取ることまではスムーズに行くのですが、得意先への販売を開始してみたら、利益が出ていなかったことが多いのです。どこに問題があるのか、どのようにしたらよいのか教えてください。

回答

販売の開始後に利益が出ていないということは、コスト(原価)の面の検討が不足しているのではないかと考えられます。コスト(原価)を正しく把握したうえで、製品価格の最低ラインを明確にするとともに、新製品の価値を理解させるための販売戦略を検討しましょう。

通常、製品の価格を決定する場合には、

  1. コスト(原価)の面
  2. 顧客(需要)の面
  3. 競合企業の面

の3つの視点を考慮する必要があります。

この3つの視点は、どれか1つあればよいというわけではなく、3つの視点とも欠くことができないものです。

価格設定要素の相互関係を表した図 価格設定要素の相互関係を表した図
図1 価格設定要素の相互関係

販売の開始後に利益が出ていないということは、おそらく1のコスト(原価)の面の検討が不足しているのではないかと考えられます。

【コスト(原価)を正しく把握するには】

コストを把握する際に、原材料のみを考えることはできません。製造や販売に関わる間接費や労務費などのほかにも販売促進費や配送費、それまでにかかった研究開発費などの費用をどのように取り扱うかによって、その製品原価として把握される額は大きく異なります。たとえば、固定費(減価償却費や支払い家賃、従業員の給与など、企業が製造や販売高にかかわらず毎期一定額発生する費用)を企業全体の費用として取り扱うのか、各製品に配分するのか、各事業部に配分するのかによっても、原価として把握する額は大きく異なります。企業全体の費用や各事業部としての費用として取り扱う場合には、その費用の額を管理者が把握し、原価として認識することが必要となります。

その新製品の原価を正確に把握したうえで、その算出された原価にプラスして、適切な利益数値を乗せることになります(一般的に、製造業の売上総利益(粗利益)は40~50%が目安とされています。)。さらに、通常の製品の販売活動の中では、値引きや値下げが生じます。これらの値引きや値下げは、製品の販売開始から製品の寿命を迎えるまでの間で額が異なってくると考えられます。販売開始の時点と、製品の寿命に近い時点では、同じ額の利益を乗せることはできませんので、期間ごとに乗せるべき利益額をあらかじめ検討しておくことが必要となります。そのため、今後徐々に販売価格が下がることを踏まえて、目標とする利益が得られるように価格を決定するとよいでしょう。

【コスト(原価)の視点と顧客(需要)、競合企業の視点をすり合わせる】

前述のように、価格を設定する際にはコスト(原価)の視点だけでは足りません。需要(顧客)面と競合企業の面からその価格が適正であるかどうかを検討する必要があります。

まず、需要(顧客)の視点としては、顧客がどの部分に価値を覚えるか、どの価格を適正と考えるかなどの視点をあげることができます(当ケースでは、顧客は「企業」であると考えていますので、顧客が「消費者」である場合とは若干異なります)。

さらに、競合企業の視点としては、ほかの同様の製品販売価格、競合企業との差別化を踏まえて価格などを上げることができます。その商品の特性や新規性を踏まえて、競合企業と比較して高価格で販売するべきなのか、低価格で販売するべきなのかを検討します。

これらは企業外部の要素が大きいので、営業担当者ともよく話し合ったうえで、販売価格を検討するとよいでしょう。

【販売計画と販売実績を比較する】

販売を開始したら、事前に策定した販売計画とその販売実績を必ず定期的に比較しましょう。販売計画時に設定した利益額が達成できていないのであれば、その問題点を把握することが重要です。そして、その週や月ごとなどできるだけ短いスパンで実績との比較を行い、その後の販売活動で販売価格や販売方針を変更させる必要があるのかを見極めましょう。

設定した販売価格を達成できない場合には、安易に販売価格を下げるのではなく、その販売方法を検討してみるとよいでしょう。とくに、画期的な商品であれば、新製品の価値を理解してもらえていない点に問題があるかもしれません。新製品の価値を理解させる営業活動を展開できるよう、社内で検討してみてください。

その際に、その販売活動の中で、営業担当者それぞれが値引きや値下げをどの程度許容するのか、製品価格の最低ラインを明確にしておく必要があります。そうすれば、販売開始後に利益が出ていないといった事態を防ぐことができるだけでなく、スムーズな営業活動を可能とすることができるでしょう。

回答者

中小企業診断士 安田 裕美

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