キラリと光る食品リサイクル商品

卵殻からつくったカルシウム強化原料

マヨネーズ最大手のキユーピーは、グループ会社も含めて2002年度から卵殻の100%を再資源化している。かつては廃棄物だった卵殻だが、いまでは肥料や食品原料に転換している。しかも、卵殻の主成分であるカルシウムを活かした高度な利用を展開している。いまやキユーピーで排出される卵殻は、廃棄物どころか新しい資源になっているのだ。

たまごの殻もすべて再利用する

キユーピーの主力製品はマヨネーズだが、そのほかにドレッシングや各種ソース、なども生産している。同社がマヨネーズの主原料としても使用する鶏卵は年間で約23万トン(約40億個)。それは日本の鶏卵消費量の約10%に該当する。キユーピーは鶏卵を消費する企業としても日本で最大手だ。

これだけ大量の鶏卵を原料として使うメーカーとして、年間2万3000トンにのぼる卵殻を単なる廃棄物にしておくわけにはいかない。そんな使命感から、現在ではすべての卵殻を食品原料、化粧品原料、繊維原料、そして土壌改良材などへ有効利用している。が、ここに至るまでには長い年月にわたるたゆまぬチャレンジがあった。

卵殻はさまざまな用途に再利用されている。卵殻粉(卵殻膜除去タイプ)は1981年にカルシウム強化用食品原料「カルホープ」として商品化された

キユーピーが日本で初めてマヨネーズを製造したのが1925(大正14)年。1960年代には、戦後の高度成長に伴う食事の洋風化によりその消費量が急増した。となると、必然的に卵殻の処理が頭痛の種になった。マヨネーズの大量消費時代以前の56年、キユーピーでは卵殻を洗浄・粉砕・乾燥して土壌改良剤に活かす方途を拓いていた。

ところが、卵殻を有効利用するために技術開発を進める過程で、研究者たちの発想は農業分野以外への利用に向けられていった。

ひよこは卵に含まれるあらゆる栄養分を取り込んで孵(かえ)る。ひよこの骨格の主成分=カルシウムの80%は卵殻から得られる。ならば、卵殻は人の健康にも役立つはず。食品メーカーの研究者としてそれは必然的な発想だった。

卵殻のカルシウムは体内で消化吸収されやすい

卵殻のカルシウムについて、同社タマゴR&Dセンター長の青山忍さんによれば、炭酸カルシウムなどのカルシウムとは異なって多孔質な構造のため、胃酸で溶解されやすく、体内に消化吸収されやすい。

さらにリンの含有量が少ないのも卵殻カルシウムの特徴。リンはカルシウムの排出を促す働きがあるが、その含有量が少ないためにカルシウムが体外に排出されにくくなる。つまり卵殻は理想的なカルシウム補給源になるのだ。

青山さんは言う。

「卵殻カルシウムの体内への吸収性が良いことは早くから確認されていましたが、食品原料とするためにはさまざまな処理が必要です。そこで30年ほど前から精製を始めたのですが、当時はまだ卵殻の粉体はやや黒っぽく、ニオイも残るような状態でした。卵殻の処理といっても難しいものでしたが、鶏卵は天然の恵みですので、化学処理はしたくない。あくまでも機械的処理の開発をしようと挑戦を続けました」

食品原料としての卵殻の粉体をつくる決定的なターニングポイントは、卵殻膜の処理技術の確立にあった。青山さんは振り返る。

「卵殻の内側には2枚の薄膜があり、この卵殻膜がニオイや色の原因なのです。つまり、膜を除去しないで粉体にすると、卵殻膜の影響でどうしてもニオイが残り、色も悪くなります。卵殻膜を水ではがしたり、乾燥させて吹き飛ばしたりといろいろ試しましたが、なかなかきれいに剥がせません。試行錯誤を繰り返すうち、ようやく1981年に機械的かつ工業的に薄膜を完全除去することに成功し、現在のようにニオイのないきれいな粉体を得ることができたのです」

これによって高品質な卵殻粉体を工業的に製造できるようになり、キユーピーは81年にカルシウム強化用食品原料「カルホープ」を商品化した。

卵殻膜除去の技術が確立されると、粉体の微粉化も促進された。というのも卵殻粉体の用途を広げるためには微粉化が欠かせない。なぜなら、粉体の粒子径が大きすぎるとザラついた食感が残ってしまい、食品用途としては限界ができてしまうからだ。開発当初の粉体の標準粒径は37μmだったが、いまでは平均8~10μm。用途によっては4~5μmまでファイン化した粉体を開発している。

栄養補給だけにとどまらない効果

カルホープを活用した商品も続々発売された(写真は「カルK2」)

81年にカルホープを発売したキユーピーは、それを活用した自社商品も順次発売していった。88年の「キユーピーカルシウムたまごボーロ」(カルシウム補助食品)を皮きりに、89年「キユーピーカルシウムごはんの素」(カルシウム補助食品。95年に「元気な骨」に商品名改称)、2006年「キユーピー 元気な骨タブレット 」(07年に「カルK2」に商品名改称)をリリース。

さらに加工食品の原料としても用途を広げ、ソーセージやハンバーグなどの畜肉加工品、かまぼこや竹輪などの水産練り製品、麺類、パン、揚げ物のころも、菓子、総菜、レトルト食品、フライ油など、その活用は多岐にわたる。

しかもこうした用途の広がりは、単にカルシウムを補うという目的にとどまらない。カルホープを添加することによって、新たな物性改良効果も引き出している。例えば、畜肉加工品にカルホープを添加することで弾力性や結着性が向上し、麺類ではコシがよくなり、パンはふっくらするなど顕著な効果が見出されている。

「新しい用途の開発はいまも進行中で、これからもどんどん広がっていくと期待しています」と青山さん。カルホープの年間需要は1000トン強だが、認知がさらに広がり、やがて将来、大化けする日を楽しみにしている。