よくわかる レトルト食品の基本

最終回 レトルト食品の加工

レトルト食品とは、レトルト(高圧釜)により120℃・4分以上の高温・高圧で殺菌されたパウチ(袋状のもの)、または成形容器(トレー状など)に詰められた食品のことを言います。昭和40年代に市場に登場してから40数年間の累計で生産総額は2000億円以上になります。

軽量で取扱いやすく簡単に開けられること、わずかな時間で温められること、さらに容器の廃棄処理がしやすいことなど、その商品特徴が多くの生活者のニーズに応えることから消費が大きく伸び、いまや一般の家庭では欠かせない食品のひとつとなっています。

そこで「よくわかる レトルト食品の基本」では、レトルト食品における基礎知識とその技術活用について説明します。

1.レトルト食品の製造工程

レトルト食品は、軟包装袋または半剛体の成形容器を使用していることから、製造の全工程でピンホールや破裂の原因となる強い衝撃を与えないよう取扱いに注意する必要があります。

食品を軟包装袋に充填する際には、フィルムを熱で溶かして密封するため、特殊な充填・シール機械が使われ、加熱殺菌には加圧殺菌・加圧冷却機構が組み込まれた高圧殺菌釜(レトルト)が使われます。

以下にレトルト食品の代表的な製品であるレトルトカレーの一般的な製造工程を紹介します。

2.レトルト食品の殺菌条件

食品の中でも熱に弱い、変色する、異臭を発生する、熱分解する、組織が変化するなど高温加熱により本来の食味が変化する食品はレトルトに適しませんが、基本的に加熱調理できるものはレトルト処理が可能です。

また、酸性食品、水分活性の低い食品、アルコール飲料など、レトルト殺菌までしなくてもホットパック、ボイル殺菌などレトルト以外の方法で十分な食品もあります。

食中毒菌の大腸菌O-157は75℃・1分間の加熱で死滅し、また、多くの病原菌、食中毒菌も耐熱性は低いです。しかし、ボツリヌス菌は耐熱性があり、いったん食中毒になると致死率が高く、治療も困難であることから、ボツリヌス菌による中毒を防止することが基本的に必要となります。

このボツリヌス菌は120℃・4分間で死滅することがわかっており、一般的なレトルト食品では中心温度120℃・4分の加熱(F値=4.0)が最低条件になっています。このような殺菌条件を可能とするレトルト装置がレトルト食品開発には必須となります。

3.地域の一次加工の仕組み構築の可能性

現在、地域には農産物や水産物を1次加工する工場やメーカーがあまり存在しません。農家、加工業者、商業者が1次加工する仕組みを地域内に作ることができれば、地域の加工品を作りやすくなります。単独で加工したり、地域内で連携することもよろしいかと思います。地域内の菓子メーカーなどがその1次加工品を原料として使用することにより、簡単に地域農産物を使用した商品開発を行うことが可能となります。

この1次加工にレトルト加工を取り入れることで非常に可能性が広がります。レトルト加工による最終製品はもちろんのこと、1加工品を製造することによって通年での工場運営が可能となるのです。

4.レトルト加工を考慮した必要機器

レトルト加工を考えるには、レトルト機をはじめとした機器が必要ですが、あまり大掛かりなものは必要ありません。家庭向けの調理程度の規模であまり費用をかけないで揃えることが肝要です。

以下に必要最低限の機器をあげます。

レトルト食品の加工に最低限必要な機器を例示した表

(1)シーラー(真空包装機)

専用のフィルムに調理品を入れ、空気を抜き密封シールすることで中身の劣化を防ぎます。レトルトパウチ袋やホットパック袋等おシールに使用されます。

(2)小型レトルト装置

近年、大手家電メーカーが開発した小型のレトルト装置が広く活用されています。家庭用洗濯機並みのコンパクトサイズです。操作は電源を入れ、蓋を開け、バスケットにパウチをセットしてチャンバーに入れます。あとは温度・時間・排水温度などをセットしてスタートボタンを押せばいいだけです。マイコン制御で基本的には全自動運転となっており電子レンジ並みの簡単操作です。

食品は芯温センサーで温度をモニター表示していて、F値(レトルト食品の安全性を示すもので、121℃・1分をF値=1と規定し、レトルト食品はF値4以上を推奨)の測定表示でレトルト食品を安全に管理します。

加熱調理後はチャンバー内に自動給水し、満水にしてムラなく素早く冷却をしていきます。

5.レトルト加工他社委託の可能性

前述のレトルト加工機器を揃えることが困難なケースもあるかと思います。このような場合、レトルト加工そのものを他社へ委託することも考える必要があります。

中小・小規模企業や個人事業主が、食品加工メーカーに自社商品のレトルト加工を依頼した場合、その最少発注ロットは3000-1万パックであることが一般的です。そのため、オリジナルレトルトパックの商品化は在庫リスクを抱える危険性があり、気軽に挑戦することは難しいのが現状です。

このようなニーズとのギャップに注目し、少量からのレトルト加工による試作を低料金で提供する企業も出てきています。レトルト加工機器を揃えることが困難な場合、まずは試作品を作るような場合は、このような委託加工業者へコンタクトを取ることも肝要かと思います。

(高橋順一 コンサルティング・オフィス高橋 代表/中小企業診断士)