闘いつづける経営者たち

「森泉 知行」株式会社ジュピターテレコム(第1回)

01.地域密着からメジャーへの脱皮

1番乗りにこだわる

JCOMグループのジェイ・スポーツ・ブロードキャスティングが開いたラグビー日本代表の3Dパブリックビューイング

5月15日、東京・秋葉原。駅近くの商業ビル「秋葉原UDX」にあるシアターで、ラグビー日本代表戦のパブリックビューイングが開かれた。「ナイスプレー!」。参加者から歓声が上がるが、身をよじるようなしぐさをする人が目に付く。実はこのイベント、日本初となる3次元(3D)スポーツライブ中継だった。

主催したのはケーブルテレビ(CATV)最大手のジュピターテレコム(JCOM)のグループ会社で、スポーツ専門テレビ局のジェイ・スポーツ・ブロードキャスティング。集まったラグビーファン約100人はフィールドの臨場感や、ボールが飛び出してくる迫力を楽しんだ。

JCOMは4月16日に業界の先陣を切って、3D映像コンテンツの配信サービスに乗りだした。今回のパブリックビューイングは、同サービスの認知度アップを狙ったもの。秋葉原のシアターと合わせて、地域の営業店舗である「ジェイコムショップ」でも同時開催した。
 3Dサービス開始に当たって森泉知行JCOM社長は、1番乗りにこだわった。1月下旬から提供を始めたブルーレイディスクドライブ搭載型セットトップボックス(STB)では、他社に先を越された。「激怒した森泉社長を前に、現場は凍り付いた」(JCOM社員)という。

先進イメージを築け

1番に強くこだわる理由は何なのか?「3Dがすぐに収益に結びつくとは考えていない。しかし、他社がやっていないことをどんどんやっていくことが大切。それによって先進的なイメージを持ってもらえる」と森泉社長は力説する。

地域密着型で地道な営業を進めてきたCATV事業者。「地域から信頼され、期待されているがマイナーなイメージを持たれている」(JCOM幹部)のが弱点と分析する。

そこでJCOMは、09年秋からマス広告を積極活用したイメージ戦略と顧客開拓を開始。春の商戦期には新聞チラシの配布を大幅に増やしたほか、テレビCMを継続的に展開し、認知度やブランド力向上を図る。個別に住宅を訪ねる"ピンポン営業"は、防犯意識の高まりや、オートロック付きのマンションの増加を受け、以前に比べ苦戦を強いられている。同社が「空爆」と呼ぶマス広告は、ピンポン営業を支援する狙いもある。

NTTグループの脅威

先進サービスの積極投入や、ブランド力向上に力を入れ、メジャーへの脱皮を目指すJCOM。目線の先にあるのは、NTTグループだ。NTTグループは、家庭用光ファイバー通信回線(FTTH)の普及拡大を狙いに、JCOMの牙城である映像サービスでも攻勢を強める。「企業のブランド力に加え、『光』という先進的な言葉を掲げたイメージ戦略は脅威」と森泉社長。危機感は強まっている。

プロフィール

森泉 知行 (もりいずみ ともゆき)

1948(昭和23)年1月東京都生まれ。1970年上智大外国語学部卒、同年住友商事入社。米国住友商事などの商社経験を経て、96年ジュピター・ショップチャンネル社長。2002年ジュピター・プログラミング社長、ジュピターサテライト放送社長を歴任。2003年3月ジュピターテレコム社長兼CEOに就任、現在に至る。

企業データ

企業名
株式会社ジュピターテレコム
Webサイト
設立
1995年1月18日
資本金
1172億円
従業員数
グループ合計10,988人
所在地
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-1
事業内容
有線テレビジョン放送事業及び電気通信事業等
売上高
3337億円(09年12月期)

掲載日:2010年6月29日