闘いつづける経営者たち
「大西啓介」株式会社ナビタイムジャパン(第3回)
03.ITの起業で大切なのはスピードよりも堅実なこと
必ず面接に立ち会う
ナビタイムジャパンの社員の大半が技術者だ。「人が足りないからといって無闇に採用することはしない」と大西は言う。同社は2009年8月末現在、約300人の社員を抱えている。採用については、いくら忙しくても大西と副社長の菊地が必ず面接し、双方が納得のいくまで話し合う。
経路検索などのシステムは、携帯電話の機種ごとに異なるので、それぞれの機種にマッチしたセッティングと検証が必要になる。これらはどうしても技術者に依存せざるを得ない。ただ、入社時は基本さえわかっていれば高度な技術的スキルは要求しない。面接のポイントは社内だけでなく対外的にもうまくコミュニケーションをとれるかどうかに置いている。
社員同士のコミュニケーションはバツグン
新卒者の採用は08年度が初めてで、それまでは中途採用で対応しており、人材紹介会社に依頼するケースが多かった。紹介会社も大西らの意向を心得ており、希望に沿った人材をピックアップして紹介してくれた。
「採用は60人に1人程度。将来のナビタイムジャパンのための採用であり、決して焦りません」
これまでに大西と菊池は「すでに数万人は面接している」と言う。
採用者の大半は技術者なので、アルゴリズムの説明なども直ぐに飲み込んでくれる。そのため、社員教育はOJTが中心だったが、最近はマネジメントなどをプロの指導者に講義してもらっている。
また、社員間のコミュニケーションを図るため、昔ながらの社員旅行を行っている。
「若者が多いので、社員旅行に参加してくれるかどうか心配したが、毎回90%の社員が参加、宴会などでも社員が自主的にその場を盛り上げてくれます」
大西が目を細めるほど、社員同士のコミュニケーションは上手くいっている。
勢いだけでは会社を創れない
こうした大西も企業経営に対しての考え方は極めてシビアだ。大学での講演会などで話す機会が増えているが、企業の創業について「勢いで会社はつくれない」と、起業を目指す後輩たちを前に話をする。自身は大西熱学という親の会社がインキュベーション施設となり、社内ベンチャーとしてスタートしたためうまく起業できた。しかもバックボーンには大学時代から研究してきた経路検索アルゴリズムがあった。
それでもナビタイムジャパンを設立するまでには5年の歳月を要している。世界初となる電車、飛行機、クルマ、徒歩のすべての移動手段に対応したトータルナビゲーションシステムを完成させ、起業してもやっていけるとの目途がついてからも、2年が経過している。
「起業のタイミングを逸しても、インフラなどが整うまで待っても遅くはない。あまりに早すぎると、無理が生じるので良いことはありません」 IT業界はスピード感が必要といわれるが、起業に関してはスピードより堅実さが求められるというわけだ。
事実、同社は経路検索ビジネスへの参入があるかないか、携帯電話会社の動向はどうかなどをにらみながら会社設立に踏み切った。携帯電話は経路検索と親和性が良く、全キャリアに導入されたし、独自のアルゴリズムに裏打ちされたシステムのため、新規参入するIT業者は未だに皆無となっている。
プロフィール
大西 啓介 (おおにし けいすけ)
1965年生まれ。93年上智大学大学院理工学研究科 電気電子工学博士後期課程修了。同年、父親が代表を務める大西熱学に入社。研究室で環境試験装置の制御プログラムなどの開発を手がける。やがて菊池新(現・副社長)と二人でトータルナビゲーションの検索エンジン開発を始め、96年には社内ベンチャーとして経路探索エンジンのライセンスビジネスを立ち上げる。98年、電車・飛行機・クルマ・徒歩のすべての移動手段に対応したトータルナビゲーションを完成。2000年に(株)ナビタイムジャパンを設立し、社長兼CEOに就任。KDDIなど大手通信キャリアにサービスを提供し、中国や米国の企業ともライセンス契約を結ぶ。目標は"ナビゲーションエンジンで世界のデファクトスタンダードを目指す"こと。
企業データ
- 企業名
- 株式会社ナビタイムジャパン
- Webサイト
- 設立
- 2000年3月
- 資本金
- 1億7800万円
- 従業員数
- 300人
- 所在地
- 〒107-0062 東京都港区南青山3-8-38
- Tel
- 03-3402-0701
- 事業内容
- 経路探索および地図配信のASP、経路探索エンジンおよび地図描画エンジンの開発・ライセンス、経路探索用データおよび描画用地図データフォーマットの開発・ライセンス、自社エンンジンおよびデータフォーマットをコアにした位置情報処理システムの構築
- 売上高
- 非公開
掲載日:2009年11月30日