闘いつづける経営者たち

「大西啓介」株式会社ナビタイムジャパン(第1回)

01.世界でも類を見ないナビ用検索エンジンを開発

ユニークなのはCMだけではない

白・緑色のドライビングスーツに身をかためた自動車ラリーのナビゲータが、目的地までビジネスマンを道案内する。そんなユニークなテレビCMでナビタイムジャパンは世間の耳目を引く。ユニークなのはCMだけではない。むしろ、経路検索サービス「NAVITIME」の心臓部である検索エンジンこそ、同社の独創性の象徴だ。その独創を生み出したのが、社長兼CEOの大西啓介と副社長の菊池新だった。

「ナビゲーションエンジンで世界のデファクトスタンダードを目指します」

大西は事あるごとに熱く語る。経路検索のアルゴリズムはそう簡単に構築できるものではない。また、いまとなってはナビタイムジャパンと同じようなサービスを提供できる企業もそう簡単には現れないだろう。その意味からしてNAVITIMEのサービスは、誰も追随できない領域へと突入したようである。

トータルナビゲーションが可能になる

自動車ラリーのナビゲータが、目的地までビジネスマンを道案内するユニークなテレビCMで世間の注目を集めた

1996年、大西と菊池による経路検索アルゴリズムの開発が始まった。クルマ、電車、バス、飛行機、そして徒歩とすべての移動手段を組み合わせて経路を検索するアルゴリズム。世界でも類を見ない、トータルナビゲーションを支える検索エンジンだ。

「人生に与えられた限りある時間を効率よく使うことができれば、新たな時間が生まれます」

大西は、人々が移動にかける所要時間のロスを最小限にすることで、新しい時間を生みだそうと考えた。それが経路検索システムの基本思想だ。「新しい時間の単位を世界標準として確立することを目指している」という言葉からも時間の効率活用に対する挑戦がうかがえる。

NAVITIMEはすべての移動手段を組み合わせて経路検索する。出発地から目的地まで、駅出入口、乗り換えに便利な車両、歩行ルートなど微に入り細にわたりナビゲートしてくれる

大西は大学で「大規模道路ネットワークデータにおける経路探索アルゴリズム」の研究に没頭した。道路を移動し目的地に到達するための最適経路探索システムの開発である。同じ研究室に菊池がいた。菊池は鉄道などの時刻表による経路探索アルゴリズムを研究していた。

大西は93年、祖父が起こした株式会社大西熱学に入社。菊池も「自分の手で研究開発をしたい」と95年に大手企業から大西熱学に転職してきた。大西にとってみれば気心の知れた研究室の仲間であり、互いに研究内容も熟知した間柄だ。「双方のアルゴリズムを合体すればトータルナビゲーションが可能になる」と考えた2人は、トータルナビゲーションの開発に心血を注いだ。96年にインターネットの商用化が始まったこともあり、将来に対する展望が開けつつあった。

寝食を忘れて開発した

NAVITIMEの開発途上では、デジタル化された地図などは市場になかったため、すべて自ら地図を手入力してシステムをつくらなければならなかった。かつて大西と菊池が地図から手づくりした「個人旅行プラン表示システム」は、訪れたい観光地や店などを設定すると経路を検索して表示する

そしてトータルナビゲーションの姿が見え始めた事を機に、2000年に「株式会社ナビタイムジャパン」を立ち上げた。

「ナビタイムジャパンにとって大西熱学はいわばインキュベーターでした」

大西は当時を振り返る。ナビタイムジャパンを創業するまでの間、実用的なエンジンにするために96年から2年、さらに最適ルートの検索が可能になるまでに2年の歳月を費やした。

当時はデジタル化された地図などはなかったため、すべて自分たちで地図を手入力してシステムをつくらなければならなかった。そのため開発に多くの時間を要してしまったが、ようやくプラットホームの形が見え始める。この成果を持って2人はモバイル端末向けに営業を開始。00年にGPS搭載のPDAに採用が決まったが、本格的なビジネスには程遠い状況が続いた。

携帯とGPSの普及で会員拡大

モバイル端末コンテンツを意識して商品化したということでもわかるように、トータルナビゲーションシステムはパソコン以上に携帯端末と親和性が良い。そう考えた大西らは、携帯電話のキャリア向け営業に力を入れ、いかに利用者に便利で、利用すれば効率的な時間活用が可能かということをプレゼンテーションの中でアピールした。

その結果、01年に採用第1号に決まったのがKDDIである。KDDIが携帯電話の公式サービスとしてNAVITIMEの導入を決めたことから、02年にNTTドコモとソフトバンク、06年にウィルコム、08年にはイー・モバイルと次々にキャリアへの提供が決定した。すでに会員数は、KDDIのEZナビウォークが約200万人、EZ助手席ナビが約100万人、NAVITIMEが約100万人と総計で約400万人に達している(2009年7月現在)。

携帯端末と親和性の良いNAVITIMEはキャリアを介して着実に普及していった。そして、会員拡大に大きな役割を果たしたのが携帯電話とGPSの普及だった。

プロフィール

大西 啓介 (おおにし けいすけ)

1965年生まれ。93年上智大学大学院理工学研究科 電気電子工学博士後期課程修了。同年、父親が代表を務める大西熱学に入社。研究室で環境試験装置の制御プログラムなどの開発を手がける。やがて菊池新(現・副社長)と二人でトータルナビゲーションの検索エンジン開発を始め、96年には社内ベンチャーとして経路探索エンジンのライセンスビジネスを立ち上げる。98年、電車・飛行機・クルマ・徒歩のすべての移動手段に対応したトータルナビゲーションを完成。2000年に(株)ナビタイムジャパンを設立し、社長兼CEOに就任。KDDIなど大手通信キャリアにサービスを提供し、中国や米国の企業ともライセンス契約を結ぶ。目標は"ナビゲーションエンジンで世界のデファクトスタンダードを目指す"こと。

企業データ

企業名
株式会社ナビタイムジャパン
Webサイト
設立
2000年3月
資本金
1億7800万円
従業員数
300人
所在地
〒107-0062 東京都港区南青山3-8-38
Tel
03-3402-0701
事業内容
経路探索および地図配信のASP、経路探索エンジンおよび地図描画エンジンの開発・ライセンス、経路探索用データおよび描画用地図データフォーマットの開発・ライセンス、自社エンンジンおよびデータフォーマットをコアにした位置情報処理システムの構築
売上高
非公開

掲載日:2009年11月24日