中小企業とSDGs
第10回:独自の「フェアトレード」に取り組む「武州工業株式会社」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
2021年6月2日
東京都の北西部、青梅市を拠点とする部品メーカー、武州工業は、パイプ加工のスペシャリストとして自動車産業をはじめとした日本の製造業を支えてきた。その一方で、環境対策や女性技術者の登用など、時代の先を行く数々の改革を進めてきている。そして今、SDGsを追い風に独自の「フェアトレード」を含めた新たなチャレンジを続けている。
「一個流し生産」「BIMMS」…異彩を放つモノづくり企業
武州工業は、さまざまな形で異彩を放つモノづくり企業だ。一人の技術者が材料調達、加工、納期管理まで一貫して行い、高品質で効率的な生産を実現する「一個流し生産」や、常に更新される生産活動のデータを収集し、タブレット端末やスマートフォンで社員が必要なデータを確認できる生産管理システム「BIMMS(ビムス)」は、いずれも独自に考案・開発したシステムで、生産性を飛躍的に向上させている。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、入口に消毒液を設置する施設が増えるなか、足でペダルを踏んで消毒液を噴射するペダル式ボトルスタンドは話題の商品となった。不特定多数の人が一度触れた箇所に手で触るという抵抗感を解消しようと、昨年5月に開発に着手し、いち早く商品化を実現。各方面から注目されている。
SDGs採択前から先進的な取り組みを実践
こうした取り組みはすべて、代表取締役会長の林英夫氏が社長在任中にスタートさせたものだ。林氏は、太陽光発電やLED照明の導入など地球温暖化対策にも力を入れた。本社工場のある青梅市は、多摩川や奥多摩の山々に囲まれた自然豊かな地だが、昨今は多摩川の氾濫など温暖化による自然の脅威を身近で感じることも多い。林氏は「とくに製造業はCO2(二酸化炭素)排出量が多い業界。だからこそCO2削減に真剣に取り組む必要がある」と指摘する。こうした活動が高く評価され、2014年2月には、環境対策を推進している中小・中堅企業経営者を顕彰する経営者「環境力」大賞(主催・NPO法人「環境文明21」)を受賞した。
このほかにも、女性技術者の積極的登用や同一労働同一賃金の導入、パート社員の正社員登用など、先進的な改革を次々と行ってきた。そして、2015年9月の国連サミットでSDGsが採択されると、17あるゴールのうち「ジェンダー平等を実現しよう」「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」など10のゴールをピックアップ。全社的にSDGsへの取り組みを本格化させた。「SDGsが注目される前から、同様の取り組みをいくつも実践していた。それらをSDGsのゴールと照らし合わせ、まとめた」と林氏は話す。
過剰な品質管理と「不良品」廃棄の削減でコストダウン
SDGsの取り組みの中でもとくに力を入れているのが「フェアトレード」だ。フェアトレードというと通常は、経済的・社会的に弱い立場にある発展途上国の生産者と強い立場にある先進国の消費者とが対等の立場で行う貿易のことを指す。途上国の原料や製品を適正な価格で購入することを通じ、生産者の生活向上と自立を目指そうというものだ。
これに対して林氏が目指す「フェアトレード」は、部品メーカーと完成品メーカーなど、国内の企業間取引における公正な取引のことをいう。たとえば「歩留まり」。製造業では多くの人手をかけて検査を行い、その結果、一定の割合で出てくる不良品を発見し、廃棄している。こうした「歩留まり」を高める、つまり不良品の割合を減らすための過剰な品質管理のコストや、廃棄される不良品のコストを加味して価格が設定されるため、おのずと価格は高くなり、最終的にはお客様がその分含んだ単価で製品を購入する格好になっている。
しかし、「不良品」とされるものも、実際には、ちょっとしたキズなど見た目の問題がほとんどで、性能には全く問題がないという。そこで武州工業では、過剰な品質管理をやめ、それに伴い、「不良品」の廃棄も減らした。これだけでは取引先の理解は得にくいが、コストダウンを実現したことで価格を下げるというインセンティブを持たせた。これにより途上国との熾烈な価格競争に負けない低価格を実現。結果的に、堅調な経営を続け、リストラを行うことなく、地域の雇用を守る形となっている。さらに、「不良品」の廃棄を減らすことで環境への負荷が低減し、この面でもSDGsのゴール実現に貢献している。
「誰一人取り残さない」SDGsを追い風に
このほかにも、量産期が終わり補用品になっている部品の価格についても「フェアトレード」を訴える。「量産時には1個100円で製造できても、年月が経って1個だけつくるとなると、同じコストというわけにはいかない」(林氏)のだが、それでも取引先は昔の価格で注文してくるというのが製造業の慣行だという。そこで林氏は、生産管理データを示すなどしたうえで、相手に適正な価格での取引、あるいは当該部品を必要とする製品の廃止を求めるという。
もちろん、こうした考え方に納得してくれる取引先ばかりではない。なかには「それなら、もう取引しない」と言われたことも。それでも、「フェアトレード」を広めて業界全体の生産性向上を図りたいとする林氏の考えは変わらない。「一企業だけでできることには限界がある。1社でも多くの企業から理解を得て、大企業や納入先の企業などを含めた企業間の連携を実現することで、大きな目標の達成につなげたい」と強調する。
そのうえで林氏は、SDGsへの関心が高まる今が企業間連携をさらに広げていく絶好のチャンスだとみている。「大企業も中小企業もみんなが手を取り合って連携していくことが大切。これは、『誰一人取り残さない(leave no one behind)』とするSDGsの考え方にも合致する」と林氏は力を込める。「モノづくりで世の中の課題にチャレンジし続ける会社」武州工業は、SDGsを追い風に、これからもチャレンジを進めていく構えだ。
企業データ
- 企業名
- 武州工業株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1951年
- 資本金
- 4000万円
- 従業員数
- 150人
- 代表者
- 林英徳氏
- 所在地
- 東京都青梅市末広町1-2-3
- Tel
- 0428-31-0167
- 事業内容
- 自動車用金属加工部品 板金、プレス、樹脂加工 自動制御機械製作