中小企業とSDGs
第9回:地域SDGsコンソーシアムで支援モデル構築「関東経済産業局」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
経済産業省関東経済産業局は、政府の「SDGsアクションプラン2018」に基づき、中小企業などへのSDGs普及策にいち早く取り組んだ国の機関だ。今回の連載の終わりに、渡邉智彦・地域経済部社会・人材政策課課長と矢野純也・同課長補佐の2人に、これまでに展開してきた施策をはじめ、成果や今後の目標などを聞いた。
SDGsを普及するため、まず何に取り組みましたか?
渡邉 「施策立案には実態把握が必要ですので、管内の中小企業500社を対象にアンケート調査を実施しました。中小企業のSDGsに関する調査を実施したのは、当局が全国で初めてです」
矢野 「アンケートの結果、中小企業へのSDGsの浸透は限定的なことが分かりました。『SDGsについて全く知らない』と回答した企業は84.2%。『知らない企業』や『対応を検討・実施していない企業』にSDGsの印象を聞いたところ、4割程度が『自社には関係ない』という認識だったことも分かりました」
SDGsに関する中小企業の課題は何でしたか?
渡邉 「自社が主体的に貢献できるという当事者意識が希薄なことです。一方で、『SDGsに貢献することは難しい』と回答した企業のうち、既に約3割が社会課題解決事業に取り組んでいることも確認できました。つまり、自社事業がSDGs達成に貢献していることに気づいていない企業があるということです」
この結果を踏まえて着手した施策は?
渡邉 「産学官金の地域ステークホルダーと有識者らで構成した『地域SDGsコンソーシアム』を昨年5月に長野県において立ち上げました。社会課題や地域ニーズを踏まえ、SDGsを活用した中小企業の競争力強化に有効な支援手法を検討する組織です」
コンソーシアムの成果は?
渡邉 「自治体などがSDGsに取り組む地域企業を登録・認定する制度を支援モデルとしてつくりました。コンソーシアムで作成したチェックリスト等の様式に基づき、自社事業の内容にエビデンス(証拠)を添えるなどして自己申告する仕組みです」
具体的には、どのように運用するのでしょうか?
渡邉 「企業には人権や労働への配慮、環境や地域への配慮、知財財産保護といった非財務情報を開示していただきます。さらに経済・社会・環境の側面からSDGs達成に向けた取り組み、2030年に向けた目標、目標に対する進捗測定方法を宣言していただくことなどで登録します」
矢野 「チェック項目は『基本』と『チャレンジ』に分けてあって、『基本』項目のすべてに取り組みを具体的に記載することが登録の必須要件です。SDGsには169のターゲットがありますが、中小企業に重要と考えられる40程度の指標に絞り込んで運用性を高めました」
政府の「SDGsアクションプラン」は地域との連携をうたっています。コンソーシアムに地域関係者はいらっしゃいますか?
渡邉 「今回は、全国で初めてSDGs未来都市に(他の28自治体とともに)選定された長野県と連携しています。長野県は、コンソーシアムで作成した支援モデルを県内企業に馴染むようにアレンジして独自の登録制度に仕上げました」
矢野 「国は中小企業に取り組みを直接促すのでなく、自治体や地域企業の自発的な取り組みを支援するスタンスです。県や市によって抱える課題は種類や傾向が異なるでしょうから、地域が自発的に取り組むことをお願いしています」
最初のモデル運用先に長野県を選んだ理由をおしえてください。
渡邉 「県の新5カ年計画にSDGsの考え方が位置づけられていたことに加えて、阿部守一知事に関連事業をさらに進めたいとの意向がありました。知事の考えと当局の方針が合致したことから連携しました」
中小企業がSDGsを導入するための具体的な支援策は?
渡邉 「単に制度をつくるだけでなく、多くの企業が認定・登録するための入り口の支援と、その後の出口支援を考えています。セミナーや専門家派遣による伴走型サポートなどが入口支援、登録企業のPRやビジネスマッチング、低利融資などが出口支援のイメージです」
中小企業がSDGsに取り組むメリットや効果は?
渡邉 「ビジネス機会の増大という攻めの効果と、リスク管理・組織力強化という守りの効果の両方が期待できます。攻めでは企業の開発力強化による社会課題解決商品などの創出を期待しています。守りの面では、サプライチェーンの中で環境面の要求基準が厳しくなっていますので、先んじてSDGsに取り組むこと自体にメリットがあるでしょう」
矢野 「企業価値の向上にもつながるでしょう。こうした企業が数多く出てくることで地域が活性化すると考えています。地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会形成を目指す、政府の『まち・ひと・しごと創生総合戦略』にもSDGsの推進が盛り込まれているように、地方創生事業にもつながると思います」
貴局の今後の目標は何でしょうか?
渡邉 「支援モデルを他の自治体や金融機関などに展開することです。地域特性を踏まえた支援事業を自発的に考案する多様なプレーヤーを支援するためにも、これまでに培ったノウハウを積極的に開示していきます」
矢野 「支援モデルは県内企業向けに加工して使ってください。数年後には、当局の支援モデルを使った地域同士の連携による広域展開に導ければ理想的ですね」
中小企業や自治体にメッセージをお願いします。
渡邉 「SDGsへの取り組みは、30年先の生き残り策を模索する議論でもあります。中小企業の皆様はSDGsをきっかけに経営戦略を見直して、企業価値の向上や競争力の強化につなげてください」
矢野 「自治体は普及・浸透の鍵を握る最重要支援プレーヤーであり、地域や企業により近い存在です。当局とともに支援していきましょう。地域金融機関などの参加に期待しています」
関東経済産業局 参考資料
- 中小企業のSDGs認知度・実態等調査
- 関東経済産業局・長野県の連携による地域SDGsコンソーシアムキックオフ会議
- SDGsに取り組む地域の中堅・中小企業等を後押しするための新たな仕組み(支援モデル)