中小企業とSDGs

第11回:衣食住にバナナを、「BANANA CLOTH推進委員会」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2021年6月21日

BANANA CLOTH推進委員会理事メンバー(左から秋本、永田、新田、笠井の各氏)
BANANA CLOTH推進委員会理事メンバー(左から秋本、永田、新田、笠井の各氏)

「バナナが1本ありました」で始まる童謡『とんでったバナナ』を知っているだろうか。青い南の空の下、バナナは子供や小鳥やワニと触れ合った後、昼寝中の船長さんの口に飛び込み食べられてしまう。だが近い将来、バナナは食用のほか衣や住生活に役立つかもしれない。商社、染色、織屋、縫製など業種の異なる複数の企業が協働して「バナナクロス」の普及に取り組んでいる。

環境保全、雇用に貢献する天然繊維

道沿いにバナナが繁るフィリピンの農園
道沿いにバナナが繁るフィリピンの農園

2018年初頭、三井物産アイ・ファッション(東京都港区)で商品開発を担当する笠井克己さんは知人から「フィリピンの農場で獲れたバナナの繊維から作った糸がある。販売できないか」と持ち掛けられた。

バナナはバショウ科の常緑多年草で、ひとたび収穫が終わると次の年は実を付けない。木の幹のように見えるのは柔らかな葉が幾重にも重なり合った「仮茎」で、実際の茎は地下で短く横に這っており、数カ月後に新芽を出す。そこでバナナ農家は役目を終えた仮茎を伐採し、地面に廃棄してしまう。だが、この仮茎の外皮を剥ぎ、天日で乾燥した後、内側を梳けば、茎1本から500~750グラムの繊維が採れる。綿と混紡して糸にしたという。

笠井さんは新田守さんに相談した。新田さんは生地問屋として工場とメーカー間を取り持ち、発注元が求めるテキスタイルに適した糸や織り、染め、加工などベストな生産背景を組む「テキスタイルコンバーター」の仕事が長く、笠井さんとは旧知の仲だった。話を聞いた新田さんは「これは、世の中の役にたつ」と直感した。

伐採後、放置され腐るのを待つだけの廃棄物は悪臭を発し、土壌や地下水を汚染する。仮茎を再利用できれば、現地の環境保全に役立つし、バナナ農家の新しい収入源になるだろう。

廃棄されるバナナの茎は世界全体で年間10億トン。約25kgの茎1本から2~3%の繊維が取れるから、少なく見積もっても年2000万トンだ。天然繊維のうち最も収穫量が多い綿花でも2019年に約2500万トンだから綿の次に多い。バナナの新芽は自然に出てきて生育も早いから、新たに畑を耕し栽培する必要はない。上手くいけば、羊毛、絹、麻などをしのぐ天然繊維に育つ可能性がある。

日本は少子高齢化に直面しているが、発展途上国など地球規模でみれば人口はまだまだ増える。人口が増加すれば食料栽培が優先されるから綿や麻など既存の天然繊維の収穫には限界がくる。化石燃料の枯渇化などで化学繊維の先行きも暗い。うまくいけばバナナは有益な天然繊維のひとつになるのではないか。

「よし、バナナ繊維の糸を売ろう」。笠井さんはこの繊維で作った布を「BANANA CLOTH」と命名して商標登録。新田さんと準備に着手した。

業種横断のオープンシステム

展示会で来場者に説明する新田さん
展示会で来場者に説明する新田さん

試行錯誤の時間が過ぎた。初め、ふたりは百貨店や小売店に既製服会社が入って製造業者が付くという繊維業界の流れに沿って動いていたが、あまりうまくいかなかった。従来のやり方では難しい。大きな潜在力を持つバナナクロスを消費者に届けるには、世の中に広める方が先ではないか。2020年も押し詰まったころ、笠井さんと新田さんはこんな結論に達した。

そこでふたりはバナナクロスの普及に力を貸してくれそうな心当たりの企業に声をかけた。ソトー(愛知県一宮市)、兄弟会社の吉田染工と貴志川工業(和歌山県紀の川市)、ループ(東京都台東区)の4社が「お手伝いできれば」(永田清ループ代表取締役)と集まった。吉田染工は糸染、ソトーは生地を作って染色、貴志川工業は綿生地の加工が得意分野で、ループは生地を縫う縫製工場だ。バナナ繊維の糸の在庫管理と販売を担う三井物産アイ・ファッションに、生地問屋の経験を活かして調整を担当する新田さんを加え、2020年12月、「BANANA CLOTH推進委員会」がスタートした。

彼らは同委員会の理事として、月に1~2回東京で会合を開き、それぞれの取引先情報を集約し、進捗状況を確認する。業種も年齢もバックボーンの異なる人たちの集まりで、どちらかといえば閉鎖的な繊維業界では珍しいオープンシステムだ。「1企業の独占ではないから、方向性が広がり、拡販のスピードも速い」と新田さんは話す。

普及活動の手始めに2021年3月下旬、東京都江東区のビッグサイトで開かれる展示会「第1回国際サスティナブルファッションEXPO春」に参加することにした。もとは手元にバナナ繊維の糸しかなかったのに、糸を染め、生地を編み、加工して縫製まで、各社が力を合わせ、通常なら半年ほど時間がかかるところを、わずか3カ月でTシャツやパーカー、帽子に靴下、トートバッグなど30数点の製品サンプルが揃った。約1万5000人の来場者が集まった同展示会では黄色いバナナの葉が大きく描かれたブースを構え、サンプルを展示、数千枚のチラシを配った。

展示会の反響は上々だった。アパレルだけでなく、カーテンやタオルメーカーからも一緒にやりたいと声がかかった。「可能性は感じていたが、こんなに大きな反響をいただけるとは」と、吉田染工と貴志川工業の東京事務所長を務める秋本和利さんは驚きを隠さない。展示会の前、普及活動に賛同するBANANA CLOTH推進委員会の協力者は13者だったが、仲間は徐々に増えつつある。

1歩1歩、着実に

帽子から靴下までバナナクロスで作った製品サンプルは多彩だ
帽子から靴下までバナナクロスで作った製品サンプルは多彩だ

次の目標は来年2022年の春夏物だ。アパレルなどを1軒1軒回って商談し、理事会で決めた協力メーカーに糸を渡して、それぞれの機屋で生地にするスタンスを守りながら、春夏物シーズンが始まる21年9月までにメーカーへどれだけ糸を提供できるか。知人から買い取ったバナナ繊維の糸量には限りがあり、在庫以上に安請け合いはできない。時間との勝負が始まっている。

バナナクロスを消費者に認知してもらうことも課題だ。すでにライフスタイルで人気を集めるインフルエンサーにSNSの発信を依頼しているが、テレビや雑誌さどのメディア取材にも積極的に応じる方針だ。

その次の課題は糸の太さだ。天然のバナナ繊維の堅牢度は麻と同程度だが、繊維が非常に短いため綿と混紡して紡績している。糸は番手の数字が大きくなるほど細くなるが、いまは「10番単糸(とうばんたんし)」という10番手の糸1本で、織ったり編んだりして布にすると心持ち厚みが出る。バッグやパーカーにはちょうどいい厚みだが、もう少し細い糸が作れれば、バナナクロスの用途は衣料品以外にもっと広がる。

コロナ禍が治まったら海外にも打って出たい。いずれはきちんとした会社組織もつくらねばならない。夢は広がるが、まずは22年春夏物を形にして、23年には糸の生産量を増やせる体制を敷く。「バナナは食べるだけじゃない。着ることもできるし、日用品として使うこともできるようにしたい」と語る推進委員会の面々は、着実に歩みを進めていくつもりだ。

【BANANA CLOTH推進委員会連絡先】

MNインターファッション株式会社笠井:k.kasai★mn-interfashion.com
M・Nパートナーズ新田:m.n1977y.n0319★energy.ocn.ne.jp

※★部分を@に置き換えてください。

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