経営ハンドブック

EC(電子商取引)の基本戦略

既存の市場とは異なる、新しい分野を切り拓く

インターネットを介して取引する電子商取引(EC、あるいはeコマース」は、身近な存在となった。電子商取引は、「BtoB」=企業間取引、「BtoC」=企業と消費者(個人)の取引、「CtoC」=消費者間取引の3つに分けられる。

BtoBでは、従来は電話やFAXを使っていた受発注業務がシステムに置き換わっている。BtoCは、企業が消費者に直接販売するネット通販だ。CtoCは、個人間でネット上のオークションやフリーマーケットを通じて売買する。

特に中小企業にとっては、インターネットの登場で店舗を持たなくてもBtoCに参入できるようになったことで、売り上げ拡大のチャンスが広がっている。ここでは、電子商取引に取り組む際のポイントを解説する。

電子商取引活用のポイント

  1. SNSを通じて売り上げを拡大させる
  2. IT活用を現場に浸透させる
  3. 生産者と買い手を直接つなぐ

1.SNSを通じて売り上げを拡大させる

SNS(交流サイト)は、もはや若者世代専用のツールではなくなっている。高齢者グループでLINEによるやり取りが頻繁になっているし、Twitterのつぶやきが話題となって81歳で書籍『何がいいかなんて終わってみないとわかりません。』を書いたミゾイキクコさんというような人物もいる。また、SNSで使われるハッシュタグ(「#がついたキーワード」のこと)は、検索サイト同様に商品検索のツールとして活用されている。

見栄えがする写真をSNSに投稿する「インスタ映え」によって、売り上げを大きく伸ばした例は枚挙にいとまがない。コンパクトサイズで「かわいい顔」を持つ雛人形をインターネットで販売するA社(東京都)は、創業から10年で販売数を10倍以上に増やした。その背景には、購入した母親が写真投稿サービス「インスタグラム」をはじめとする、さまざまなSNSで拡散して人気に火が付いたことが挙げられる。飲食店でも、味だけでなく、「インスタ映え」を意識してメニューを開発しているケースがある。

このように、個人の発信する「クチコミ」や評価、映像・動画といった何気ない情報は、時に大掛かりな広告宣伝以上に効果を発揮する。もし、中小企業の経営者がSNSになじみがないのなら、興味を持っている従業員に任せればよいだろう。

2.IT活用を現場に浸透させる

東京都台東区で祭り用品の企画・制作・販売を営むB社は、1910年創業という老舗ながら、1998年と早い時期から自社サイトを開設してネット販売を行ってきた。主導するのは、IT(情報技術)の活用に積極的な3代目社長だ。

もっとも当初は、社長が率先してIT化を進めており、負担は増すばかりだった。そこで社長はシステム課を新設し、思い切って現場に権限を委譲した。その結果、システム課と現場責任者で月2回の「eコマース会議」を開催するなど、自律的な活動を開始するようになった。ここから、手書き札やちょうちんなどの“あつらえ品”の受発注をすべてウェブ上で済ませたり、仕入れから発注まで一貫処理したりできるシステムの構築が実現した。

このように、経営者がIT活用を明確に打ち出し、社員も巻き込んで取り組む体制と社風を作ることが、自社の電子商取引を発展させていくことにつながる。

3.生産者と買い手を直接つなぐ

電子商取引によって、既存の流通システムとは異なる新しい市場を生み出すこともできる。大阪府吹田市のベンチャー企業C社は、各地の漁港で水揚げされた鮮魚の種類・数量をリアルタイムで動画配信、小売店や飲食店が市場を介さずに買い付けられるシステムを提供している。

小売店や飲食店が発注すると、漁師や漁協、水産加工場が発送する。C社には、味はいいのだが、規格外であったり知名度が低かったりして従来の流通では取引の対象とならなかった魚も集まってくる。こうした市場には出回らない魚を、小売店や飲食店は安く入手できる。

さらに、調理方法などの情報も、C社は発信している。このため、今までは捨てられていた魚にも値段が付くようになり、漁業関係者の収益改善がもたらされた。

日本のBtoC‐EC市場規模の推移(単位:億円)

出所)経済産業省「平成30年度電子商取引に関する市場調査」

関連リンク