中小企業の海外展開入門

「金印」本物志向で、世界のプロに迫る

1929(昭和4)年に青果業として創業し、鮮魚店や寿司店に生わさびを卸していた金印は、現在、業務用加工わさびで国内トップシェアを誇る。同社の特色は、その限界のない本物志向の姿勢であると言える。

(左)金印の代表的な商品のひとつ「金印ねりわさび」
(右)金印の代表的な商品のひとつ「金印生おろしわさび」

同社は1960年に新たに研究所を設置し、創業者(初代社長)小林元次氏らの独自の研究開発により、1969年、からし粉を混合しない業界初の純粋品粉わさび「金印粉わさび」を開発し商品化したのを始めとし、業界初の小袋タイプねりわさび「金印ねりわさび」小袋の開発、本わさびを使った業界初の「金印生すりわさび」「金印生おろしわさび」の開発なども行ってきた。また、品種改良により、香りや辛味の強い本わさびを実現した新品種「みつき」の開発、種苗の登録も行った。

このように農業や食品業界における貢献は大きく、これらの功績が讃えられ、農林水産大臣賞、モノづくりブランドNAGOYA顕彰(名古屋商工会議所)、優秀味覚賞(国際味覚審査機構:iTQi)など多数の表彰も受けている。

積極的な海外展開の軌跡

金印の海外展開は、1980年、米国で業務用粉わさびを販売したことに始まる。当時のアメリカには正しいわさびの扱い方が伝わっておらず、そのため本来のわさびの味や風味もまったく知られていなかった。

この現実を目にした当時の社長、小林一光氏は、「商品だけを売っていてはダメだ。私たち自らが現地に赴き、正しいわさびの扱い方や本来の良さを伝えるべきだ」と考え、1984年、ロサンゼルスに駐在所を開設し、日本からスタッフを2名派遣した。時はちょうどアメリカに日本食ブームが広がりつつある時期だった。そのような追い風の中で、駐在員たちの奮闘により、金印のわさび商品は日本文化への理解と共に、アメリカ西海岸を皮切りに全米に広がっていった。

ヨーロッパへの展開は1994年、イギリスで行われた「国際食品飲料メッセ」への出展に始まる。現在もベルギーで行われる「シーフードショー」、ドイツで行われる「アヌーガー」、フランスで行われる「シアル」という食品展示会に出展している。毎年、春と秋に実施されるこれら展示会への出展では、主に新商品の告知とマーケットリサーチを目的にしているという。

海外展示会への出展

金印の積極的な海外展開は、日本食の世界への広まりを背景に順調に続き、現在、アメリカ(ロサンジェルス、ニューヨーク)、イギリス(ロンドン)、ドイツ(フランクフルト)の3カ国に4つの拠点を構えるに至っている。

また、2014年には広く海外展開することを視野に入れ、海外での原料栽培から加工・販売までの体制を整えるべく、米国現地法人(KINJIRUSHI WASABI INTERNATIONAL Co.,Ltd)を設立した。

海外拠点のひとつイギリス(ロンドン)事務所

海外展開のポイント

金印の執行役員、岡本氏は、海外展開におけるポイントとして以下の3点を挙げる。

1.相手国の文化への理解

各国・各地域の法律や習慣を理解していなければ危険な落とし穴に陥りやすい。そのため同社では、さまざまな海外展開事業をバックアップしてもらえるよう、現地の人たちの業務協力制度(アンバサダー制度)を導入している。アンバサダーとなる人材は、皆、現地での在住経験が長い日本人である。特に営業補助、現地の言語のパンフレットやPR冊子のネイティブチェックなどで彼らの協力は欠かせないという。

2.良い現地パートナーの獲得

海外展開では、現地により良いパートナーを得ることが大事だという。金印の場合、運良く良いパートナー(商社)に巡り会えた。特にアメリカでは、彼らのバックアップの貢献も大きかった。

上述のアンバサダーも補助的な業務の現地パートナーであると言える。良きパートナー、良き人材を持つことは海外展開において非常に重要なポイントであるといえる。

3.現地に応じたローカライズ(カスタマイズ)

文化や生活環境の違いは、人の味覚にも微妙な変化をもたらす。アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアでは人々の嗜好は異なる。法律面でのローカライズはもちろん、嗜好面においても各国・各地域で受け入れられやすいよう商品をアレンジすることが大事である。日本製が良いからといってローカライズを怠ると商品は売れない、と岡本氏は言う。

本物のわさび商品を世界へ普及させていきたい

現在、金印のわさび商品の海外向け売上比率は約16%強程であり、微増傾向にある。小林社長は「この比率を30%にまで引き上げたい」意向だという。日本食の世界的な広がりを背景に、アメリカ、ヨーロッパ、さらにはオーストラリア、香港、シンガポールへと自社のシェアはまだまだ伸びると見ている。

そして、海外向け商品に関してはあくまでもプロユーザー向けに絞って、本物のわさび商品を普及させていきたいという。

現在、金印のわさび関連商品は業務用を中心に世界65カ国以上に流通している。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも背景にあり、日本食が世界的に注目されつつある中、金印のわさび商品が日本の「本物のわさび」として世界から支持される日も近いだろう。

企業データ

企業名
金印株式会社
Webサイト
代表者
小林 桂子
所在地
愛知県名古屋市中区栄3-18-1
事業内容
わさび関連商品の生産・開発・販売