中小企業の海外展開入門

「フジワラ産業」展示会で海外企業から注目を集めるオンリーワンの技術

申請中を含め500以上もの特許を生み出しているフジワラ産業。同社は、中小企業の強みとして挙げられる機動力と俊敏性を活かしさまざまな製品を開発しているが、その中でも海外から注目を集めているのが「モノレール式汚泥かき寄せ機」だ。海外進出の取組みについて、藤原充弘社長と海外プロジェクト担当の村田氏の2人に話を聞いた。

「モノレール式汚泥かき寄せ機」の模型。汚泥をかき寄せるための板状の羽が、池底に設置されたレールの上を往復して、沈殿した汚泥をかき寄せる

開発のきっかけは役所の担当者の言葉

フジワラ産業が開発したモノレール式汚泥かき寄せ機とは、上下水道施設などの沈殿池底の汚泥をかき寄せる装置だ。汚泥をかき寄せるための板状の羽が、池底に設置されたレールの上を往復して、沈殿した汚泥をかき寄せる構造になっている。従来の製品と比較して、工期は3分の1、維持管理から次の更新までの費用は5分の1程度で済む。設備がシンプルであり、一般作業員でもメンテナンスが容易にできる。

この商品を開発するきっかけは、役所で言われた次のような一言だった。

「藤原君、従来のかき寄せ機は外国製なので大きすぎる。目的は泥を掻くだけだろう。もっとコンパクトにするよう、君が考えてくれないか」

確かに泥をかくだけなら安くできるのではないかというのが零細企業の発想だ。それから数年間、試行錯誤の結果モノレール式汚泥かき寄せ機が完成した。

厳しい営業活動

完成したモノレール式汚泥かき寄せ機は、業界新聞でも取り上げられ、多くの問合わせがあった。しかし、そう簡単に販路が広がるわけではなかった。どんなによい製品であっても、新しいものがすぐに受け入れられる業界ではない。また、頻繁に交換される製品でもないため、行政機関や大企業の壁は予想以上に厚く、なかなか取り扱ってはもらえなかった。

そこで「海外で評価された後であれば日本での営業も進めやすいのではないか」と考え、先に開発していた装置(フジフロート・スカム除去装置)と共に平成2年、アメリカでの営業を開始した。当時の営業担当者はアメリカの企業に売り込むために飛込み営業を行ったが、なかなか相手にされない。何とか話を聞いてくれる人を探し出し商品説明するという活動が繰り返された。

しかし、どんなに相手にされなくてもアメリカの製品には負けないという絶対の自信があったため、挫けることはなかったという。営業を続けていると、アメリカには100mの長さの沈殿池があることがわかった。当時、日本の沈殿池は最大60m程度であったためフジフロート・スカム除去装置は評価されていたが、モノレール式にはその長さに対応できる実績がなかった。その点を宿題として持ち帰り、国内で技術を磨いた結果、課題はクリアされ、中国では長さ90mの沈殿池に同社の汚泥除去装置が設置され、100m以上の沈殿池にも対応可能となった。

国内での営業が厳しいことに変わりはなかったが、全国各地で営業活動を続けたことで製品のよさを知ってもらうことができ、少しずつではあるが納入先が増えていった。導入した役所の担当者が、モノレール式を採択した理由や効果などについて答えたインタビュー記事が業界紙や専門誌に掲載されるようにもなった。

下水処理場などには、複数台の汚泥かき寄せ機が設置されているが、そのうち1台をモノレール式汚泥かき寄せ機にするだけで維持管理費が改善される。従来、沈殿池への設備設置、維持管理、更新等には熟練技術者が必要であったが、モノレール式装置は一般作業者でも容易に取扱いができる。このためモノレール式汚泥かき寄せ機の設置は、工期・費用面での改善に貢献し、今では多くの地域から同社製品を採用したいという声が寄せられている。

海外への挑戦

藤原社長は昨年、改めて海外マーケットに挑戦することを決めた。まずは7月に神戸で開催された「下水道展」に出展した。下水道展は国内でも大規模な展示会だ。そこに展示するため、最新式の「水圧シリンダー駆動型モノレール式汚泥かき寄せ機」の模型を作った。ブースを訪れる人々はその模型に食い入るように見入った。今までにない方式で電気を使わない製品だったからだ。海外から来場したある顧客は毎年この展示会を視察しているが、4日間の会期中に3日間もフジワラ産業のブースに足を運び、「今回の視察における最大の収益はこれに出会ったことだ」と話したという。

展示会での商談風景

同年9月にはアメリカのニューオリンズで開催される世界最大級の水の展示会「WEFTEC」に出展した。アメリカやカナダでは電気製品について安全規格が設けられているが、水圧シリンダー駆動型の同装置は電気を使わないため、新たに認可を取得する必要がない。そこで、この製品は売りやすいという評価を受けた。10月に開催された香港の展示会にも出展し、同じ模型を使ってプレゼンテーションを行った。

これらの展示会への出展を機に、北米、南米、オセアニアなどの企業からも商談が持ち込まれるようになった。また今年1月末には公的機関から招へいされ商談会に参加し、日本のある行政施設にも設置が決まった。

東南アジアでは現地パートナーからの要請で訪れた多数の政府関係者にプレゼンテーションを行い、現在商談の話が進んでいる。同社の製品は一般的な製品ではないため、商談成立には一定期間が必要だが、着実にステップアップしている手ごたえを感じているという。

展示会に出展してもなかなか成果が得られない、という声をよく聞くが、フジワラ産業は上手にビジネスチャンスをつかんでいる。同社は公的機関や大阪市からも海外進出支援を受けている。公的機関などの審査を通過しなければ展示会には出展できない。その点について藤原社長は「小さくてもバイタリティのある会社が少ないため、自社が採用されていることも多いのではないか」と考えている。そして「採用してくれた側にも喜んで頂けるよう、成果を創出すべく努力したい」という。

フジワラ産業が国内外問わず展示会で注目を浴びている一番の理由は、顧客の課題をシンプルに解決する製品の魅力そのものだろう。だからこそ実績が伴い、次々とビジネスチャンスが訪れる。

シンプルな製品は導入側にはメリットが大きいが、メーカー側としては真似されるという懸念事項がある。メーカーとして海外進出の際に気を付けていることは、知的財産の保護が担保されない地域には積極的に進出しないということだという。さまざまな国から問合わせが来ているが、知的財産保護が確保できていない国には積極的に攻めていけない。とはいえ、自社単独では進出しにくい地域であっても、ODAやJICAが推進するプロジェクトであれば検討できるという。「担保が取れるならどんどん海外に進出したい」という気持ちは強い。

「モノレール式汚泥かき寄せ機」の実物を前にした藤原社長(後列の中央)と視察団

機械屋としての夢

「日本の工業では、外国から機械を導入することが多かった。そこからいろいろな事を学んできたが、逆に機械で海外に進出したいというのが機械屋としての夢でもある」と藤原社長は語る。「さまざまなアイディアを世に出したい。大手メーカーが作らないなら、自分で作って特許を取得し、海外に持っていこう」と考えている。今後は機械の本場ドイツにも自社製品を持ち込みたいそうだ。

どんな人にも平等に与えられているのは時間だけであり、その時間を有効に使って成功している社長は多い。藤原社長は研究時間の合間を、あらゆる分野の本を読むことや研修に参加することに充てている。さまざまな事からヒントを得て製品化し、その素晴らしさが客を引き付ける。フジワラ産業では社員全員が「何かをものにしたい」という気持ちをもって仕事に臨んでいる。新しいものはすぐに知ってもらうべく、製品に関する資料も社内でほとんど作っているという。他についても外注することはほとんどない。社員全員がモノづくりにこだわっている。

フジワラ産業では、汚泥かき寄せ機以外にも、防災関連の製品を作っている。金庫の流出を津波から防ぐ金庫取付け金具、津波避難用タワー、家庭用防災シェルターなどだ。最近では人工の雨雲発生装置の実験がテレビで放映された。

新聞には隅々まで目を通し、常に新しいネタ(アイディア)を探している、と藤原社長は語る。大阪の発明家が生み出す様々な製品は、世界中の多くの人々の生活を支えていくに違いない。

企業データ

企業名
フジワラ産業株式会社
Webサイト
代表者
藤原 充弘
所在地
大阪府大阪市西区境川1-4-5
事業内容
製造(環境設備機器の計画・設計・製作・施工)