中小企業の海外展開入門

「JESCOホールディングス」成功の秘訣は技術と人材育成と現地化

代表取締役社長の柗本俊洋氏

創立44年を迎えるJESCOホールディングス株式会社の柗本俊洋社長は、20年ほど前に金融機関からの呼びかけでベトナムへ視察にでかけた。道路から中が見渡せるような造りの家から飛び出してくる若者の目の輝きに強烈な印象を受け、いつかはベトナムに進出したいと思ったという。その想いを実現しベトナムを軸に積極的に海外展開を図っている柗本社長に、海外事業を成功に導いたポイントについて話を伺った。

中小企業は技術で評価される

海外進出のきっかけは、マレーシアのKLCC(クアラルンプールコンベンションセンター)ビルの施工時に大手ゼネコンから人材を出してほしいと言われたことだった。元々海外で仕事をしたいと公言していたので、2名の技術者をマレーシアに派遣した。

そのプロジェクトは4年続いたが、一緒に働いたマレーシアの会社の社長から、「このまま別れるのはつらい。会社を作らないか」と声をかけられたという。苦楽を共にしてきた仲間からの要望であったため、合弁でマレーシアに設備工事会社を作った。地下鉄の建設などに携わり、多くの実績を積んだ。

マレーシアに進出した5年後、念願のベトナム進出を実現した。ベトナムでは、日本のODA案件であったタンソンニャット国際空港の建設において電気設備および電気通信設備の施工管理を担当し、ベトナム政府からゴールデン賞を授与された。それほどまでにJESCO社員の仕事ぶりは高い評価を受けたのだ。

これによりJESCOの知名度は一気に上がった。「施工管理だけでなく、現地での地道な教育活動も表彰対象の一つに入っていたのかもしれない」と柗本社長は語る。次に着工されたノイバイ国際空港の電気設備設計をベトナム政府から推薦された。実直な取組みと技術力を評価されたと感じた。ベトナムにおいても、JESCOは着実に実績を積み上げていった。社員の仕事ぶりや実績が評価を受けると、新たな仕事につながるのだ。

40年ほど前、起業した当時の日本では中小企業が実績を積むことは難しかった。いろいろなしがらみもあり、仕事を受注しようとすれば何度も役所などを訪れなければならなかった。創業したばかりの会社であれば、なおさらだ。しかし、海外ではまったく違った。しがらみがまったくないとはいえないが、企業規模やネームバリューではなく、技術で評価されるのだ。

日本の中小企業は技術力はあっても、資金力に乏しい。また、マネジメント力や語学力が不足しているといった問題も抱えている。しかし、その技術力を武器に海外に進出し、実績を積み上げつつ現地で技術者を教育すれば、彼らのレベルアップにも貢献できる。「確かな技術と実直な姿勢は正しく評価される」と信じて取り組むことで、ビジネスチャンスをつかむことができるのである。

柗本社長は人財づくりをとても重視している。外国人社員には日本語だけでなく日本の文化や日本の良さも教えている(外国人社員を対象にした日本語研修風景)

現地に根差す

1997年に起きた東南アジアの金融恐慌。この時にマレーシアの日本人学校が1カ月で2クラスから1クラスになった。この時、柗本社長はマレーシアの会社の社長から「これが日本の実態だ。日本企業は儲からなければ我先に引き上げる。苦しい時こそ日本の力を借りたいのだ」と言われたことがあるという。

日本の大手企業は日本に軸足を置いている。海外の現場には日本から人材を派遣するものの、工事が終わると日本に帰国するケースが大半だ。しかし、柗本社長は、「現地の空気を吸って、現地の方のお世話になって生活すべきだ」と考えている。国内の協力会社に対しては元請けや下請けという考えではなく、あくまでもパートナーとして一緒に事業に取り組むという考え方であるが、これはベトナムにおいても同じだ。だからこそ、JESCOの活動はベトナムの人の為に行われていると評価されている。特に、ベトナム政府や道路公団など事業で関わった機関からは高い評価を受けている。

このような評価を受けるようになればどこの国でも大事にしてもらえるはずだ。大型増資をした際には、現地の会社が出資をしてくれた。それも、地域に特化している会社だと認められていたからである。

ベトナムでは、日本のODA案件であったタンソンニャット国際空港の建設に携わり、ベトナム政府からゴールデン賞を授与された

人財づくり

ベトナム進出時に5名のスタッフが日本から派遣されたが、彼らは現地採用した24人のベトナム人スタッフを育てた。教育に時間がかかったため、しばらくの間赤字が続いたが、一生懸命ついていこうとしていた彼らを応援しようと思い教育を続けたという。

彼らには日本語だけでなく日本の文化や日本の良さも教えた。日本語学習については、日本語教育のノウハウをもっている講師に依頼したが、学習を続けた結果、漢字も読めるようになった。

ある時、日本の大学関係者が27名ベトナムのオフィスを訪れた。ベトナム人社員が当用漢字辞書を使いこなしている様子を見て、彼らは非常に驚いたという。柗本社長もベトナム人の社員に驚かされたことがある。それは、ベトナムで幹部研修を行ったあと、参加者全員にレポートを提出させたときのことだった。参加者32名のうち、27名が日本語、残りの5名がベトナム語でレポートを書いてきた。ベトナム語のレポートを翻訳させたところ、自分が言ったことをしっかりと理解していることがわかったのだ。日本語を書けなくとも自分の話を理解していたことに感激したという。柗本社長の想いはしっかりと伝わっていた。

柗本社長は研修後にベトナム人の社員達と食事をするが、それ以外にもクリスマスパーティーなどが開催される。彼らのモチベーションを高めるため、社内イベントの開催に加えて研修旅行も開催している。

2015年の研修旅行の行先はタイであると2年前から言い続けているが、言い続けることで皆、一生懸命に頑張っているという。行く日が間近になってから伝えるのではなく、常に言い続けることが効果的だという。悪いことは短く伝え、研修旅行までの期間はしっかり伝えるように、現地の責任者には指導している。

技術面はOJTで指導している。社内研修だけでなく、日本本社や取引先での研修なども行われている。自分のレベルアップを図ることができるチャンスを与えられることも、モチベーションや会社へのロイヤリティを高める要因になっている。

技術者を育成するために誠実に彼らと向き合ってきたが、彼らもそのような姿勢に応え、「人材」ではなく「人財」と言えるまでに成長した。大きな工事を受注するためには知名度も必要であると考えるが、JESCOではPR活動は行っていない。「うちの会社は小さいが、社長はこういう考え方をしている」、と社員が家族や親せき、友人などに話すことで、JESCOの名は地元の人に知れ渡っているという。

優秀な人材がなかなか入社しないということに頭を悩ます中小企業経営者は多いが、柗本社長の考え方は少し違う。優秀ではないが体力がある、意欲は高いがいい加減な面がある、何をしても空回りしてしまうなど、いろいろなタイプの社員が存在する。

いろんな人がいるから組織ができる。みんなが優秀では組織にならない。それぞれが持つ能力は100点だというのだ。ベトナム人にはおとなしい人が多いというが、中には、明るい人もいれば、盛り上げ役になる人もいる。日本人と同じように欠点もある。いろいろな人がいて組織が成り立っているのだ。そのような考え方の上に立てば、どんな人が集まっても組織づくりができるのではないか。

柗本社長は、長年にわたり日本とアジアの架け橋役を担ってきたことを評価され、第29回 優秀経営者顕彰(日刊工業新聞社賞)を受賞した

ある時、技術師範大学校へ社員採用のお礼をすべく訪問したところ、「日本企業の社長が足を運んでくれたのは大変有難い事であり、柗本社長の来校は我が校の誉だ」とまで言われたという。柗本社長としては当たり前のことをしているとだけだと思っていたが、一方、そのようなことを日本人は行っていないのだと感じたという。

中小企業は資金が乏しいから真心を差し上げるのだと柗本社長は語る。真心のない日本人は、国内だけでなく海外のオフィスでもうまくいかないという。真心は世界共通である。JESCOではホーチミンの技術師範大学へ奨学金を寄付している。苦学生を支援するために行われたことだが、これも真心の1つの形だろう。JESCOは社員だけでなく、ベトナムの未来を背負って立つ人財育成にも貢献している。

柗本社長は、進出予定先のフィジビリティスタディの実施や海外でチャレンジするための予算枠を決定するなど、綿密な準備を重ねてきたという。講演会では、最低3年間は我慢してほしいと伝えているそうだ。JESCOの成功要因はどんな中小企業にも当てはまる。当然ながら、真心を持って臨むことは最低条件である。

ASEANナンバーワンになる下地を作るのが自分の仕事だと柗本社長は断言する。ASEAN各地に日本村ができ、進出した国の人たちに最高のパートナーと思ってもらえたら最高だと考えている。JESCOの社内報は20ページ前後の冊子になっているが、日本語、ベトナム語、英語の3か国語表記となっている。そこに掲載されているベトナム人スタッフの表情を見ると、柗本社長の夢が実現する日は遠くないことを確信した。

企業データ

企業名
JESCOホールディングス株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長 柗本 俊洋
所在地
東京都新宿区新宿1-8-4
事業内容
電気・情報通信・大型映像設備等の設計・施工・運用・保守等