中小企業の海外展開入門

「エスケイメカニクス」訪日した研修生が現地スタッフをマネジメント

半導体および液晶パネル製造装置部品などを手掛けるエスケイメカニクスは2年前にベトナム進出を実現した。きっかけはベトナム人研修生からの熱烈なアプローチだったという。海外事業のスムーズな立ち上げのポイントについて指田克司社長に伺った。

エスケイメカニクスのベトナム工場

品質の高さを生み出すオープンな社風

創業は1991(平成3)年。伯父の会社から父親と共に独立し、コンデンサーの製造装置や半導体検査装置などの部品製造を手掛けてきた。第6世代の液晶テレビの生産が始まった頃、ある装置メーカーから業務協力の依頼があった。テレビのサイズが大きくなるにつれて受注も増え、会社も成長していった。

製造業であれば、品質、コスト、納期の3つの要素は重要だが、エスケイメカニクスにおいては品質に関する評価が非常に高い。口座を開設した新規取引先は、着実に取引量が増えていくということからも明らかだ。納品先の組立担当者にとっては、当然ながら手直しなど余計な手間のかからない部品が好まれる。担当者からの評価が高いため、取引の拡大につながっているのだろう。最近では、設計段階から意見やアイディアを求められるようになっているという。

フットワークの軽さについても、取引先から高い評価を受けている。同社では取引先対応は女性が行っているが、彼女たちは仕事の流れを把握しており、図面を見てきちんと話をすることができる。会社として現場研修を行っているわけではなく、彼女たち自ら現場に赴き、勉強し、理解に努めているのだ。材料調達から加工、出荷までの工程を図面に落とし込むのも、彼女たち自身で作成しているという。

指田社長自身は現場主義であり、スタッフへの技術教育やスタッフ間のコミュニケーションを非常に大事にしている。朝礼などを利用し事例の共有を行っているが、その際に、これまで気づかなかったアイディアが生まれることもあるという。それもベテラン、若手を問わずに生み出されるというのだから驚きだ。製造業といえば、「技術は見て盗むもの」という文化があるが、それでは会社の成長はないと考える指田社長は、何でも言いやすい環境づくりを意識して取り組んでいる。ベテラン社員にはどんなことでも教えるように指導しており、彼らもそれを受け入れているという。

よい組織風土を作るための人材採用のポイントを尋ねると、「ガッツがあるかどうか」ということであった。当然、技術や知識を必要とする部署もあるが、どんな仕事に関わる社員であれ、一緒に働く仲間としてそのような気持ちが必要だという。仕事をしていれば、無理だと思うことにもぶつかることもあるが、ガッツのある社員であれば「何とかしよう」「納期に間に合わせよう」という発想になる。その採用方針のおかげで、無理なことでも最善の方法はないかと考える社員が多いという。既存の取引先に加え、機械メーカーや材料メーカーからの紹介や口コミで仕事が広がっているというが、これも製品の品質と組織風土が高く評価をされているからに違いない。

研修生に懇願されベトナムに進出

エスケイメカニクスでは毎年ベトナム人研修生を受け入れている

エスケイメカニクスでは、8年前に初めてベトナム人研修生を受け入れた。所属する組合の国際交流担当者から研修生の引き受けについての話があったことがきっかけだった。考えた末、ベトナム人男性を2名採用した。彼らは非常に性格も温厚で勉強熱心、そして日本人のような情を持ち合わせていたというが、社風になじんで一生懸命仕事を覚えていった。それ以降、毎年2名ずつ研修生を受け入れるようになった。

3年間の研修期間を経て、最初の研修生が帰国した。母国に帰り仕事を探したが、製造業では流れ作業の仕事が多く、彼らがエスケイメカニクスで学んだような技術を活かせる仕事はなかった。

帰国した研修生から指田社長に電話があり、「エスケイメカニクスで学んだ技術を活かせる仕事をしたい。工場をつくってほしい」と訴えられたという。海外進出は検討していなかったが、海外調達が一般的になり、小型部品を日本で製造するには価格面で折り合いをつけるのが厳しくなってきた頃である。そんな折、指田社長はベトナム視察に出かけたのだが、予想以上に印象がよく、偶然にも帰国日に工業団地内のレンタル工場の空きスペースを紹介され、そのまま仮契約をした。

帰国後、工場立ち上げ準備のために再びベトナムを訪れた。当時、ベトナムには帰国した研修生が4名いたのだが、立ち上げ準備はほとんど彼らが行った。新たに採用するスタッフの面接は指田社長が行ったが、その人材も彼ら自身が関係各所にあたり集めてきた。

工業団地のライセンスの取得には予想以上の時間がかかってしまったが、工場の仮契約を済ませた半年後に工場を稼働させることができた。

ベトナム人マネージャーが現場をまとめる

元研修生の技術者の中には、3年間の研修期間に日本語を覚えたスタッフがいる。現地スタッフのマネジメントは彼を中心に行われているという。現地採用した日本人が1人で経理と総務の業務を行っているが、現場には関与していない。指田社長もほとんどベトナムに行かなくともよいくらいのレベルで工場運営がなされているという。

品質管理や受注管理などを任せているマネージャーとは、スカイプやメールなどを活用して指導や情報共有を行っている。マネージャーも一生懸命に取り組んでおり、社長の想いもマネージャーからスタッフに伝えている。食事などを通じたメンバーとのコミュニケーションを図ることも彼に任せているが、指田社長はマネージャーを通じてベトナムの社員とつながっていることを実感している。

現在、日本での研修を終了しベトナムの工場で働くスタッフは6名になったが、日本と同じような状態にするために、その6名が現地で採用したスタッフを指導している。きちんと指導しなければ、せっかく作った工場もローカル化してしまうからだ。中にはすぐに辞める人もいるが、ずっと働き続けている人も多い。単純作業者ではないため、仕事にやりがいを感じてくれているのではないか、と指田社長は考えている。

現地での運営について特に気を付けているのは、法改正などに関する情報収集だ。その点については、公的機関が配信するニュースなどを現地スタッフや契約している会計士がこまめにチェックし、スピーディーに情報収集する体制を整えている。最初は、日系企業に会計業務を依頼していたが、現地の公的機関との折衝はローカルの会計士のほうがスムーズに進められるため、切り替えたのだという。

ベトナム工場の業務はすべて日本で受注したものだが、順調に売上が伸び黒字化も実現した。

海外進出の成功の鍵は、信頼のおける人材がいるかどうかだという。研修生として3年間、しっかりと指導してきた人材がいることが自社の成功要因と考えているからだ。今後進出を検討する企業においても、研修生として指導し、準備した後に海外展開することを勧めたいという。

3年間の研修期間を終えた優秀な研修生は、ベトナム現地スタッフのマネジメントを担当する

指田社長は自分の居場所がベトナムにもできたことで、それまでの物事や人に対する見方が閉鎖的だったことに気付いたという。自身の価値観が変わったのだ。ベトナム人研修生を始めとするベトナム人社員もエスケイメカニクスの教育の仕組みや組織風土に触れることで価値観が変わったのではないだろうか。ベトナム国内でも注目される会社となるに違いない。

企業データ

企業名
株式会社エスケイメカニクス
Webサイト
代表者
代表取締役社長 指田 克司
所在地
埼玉県入間市狭山ヶ原405-1
事業内容
製造業(真空装置部品、液晶・太陽電池パネル製造装置部品、コンデンサー製造設備用部品、半導体検査装置用部品、各種開発試作部品、その他省力設備装置部品製造)