中小企業の海外展開入門
「WIPジャパン」 翻訳事業で世界に挑む!
世界139カ国語の多言語による翻訳実績20,000件以上、顧客数約4,000社を抱えているWIPジャパン株式会社。金融・財務、法律からIT、医療薬品分野と幅広い翻訳業務を手掛ける。クライアントは、民間企業だけでなく官公庁や大学、法律事務所とさまざまだ。「知的財産が言葉の壁を超えるサポートで世界の国際化に貢献したい」という想いから翻訳事業を立ち上げてきたWIPジャパンは、昨年の中国・大連への進出を皮切りに海外展開を本格化させている。
なぜ海外展開しようと考えたのか
日本には、個人事業主を合わせると2,000-3,000社の翻訳会社があると言われている。その中の上位10社のうち海外拠点を持っているのは5社程度であり、主に北米と中国に拠点を持っている。
次に拠点が設けられているのはヨーロッパ。先進国の技術や製品などがどんどん新興国に向かっていっている。世界的に見て最近需要を大きく伸ばしているのは英語を中国語に翻訳する業務である。その業務が発生するのは中国国内が最も多いため、製作および販売拠点を中国に設けるということは中期的な動きとして自然な流れであった。WIPジャパンは南への事業展開を意識しており、次にターゲットとしたのがASEANだった。
なぜ大連とシンガポールに進出したのか
現在大連に3名、シンガポールに2名のスタッフが駐在している。
大連を拠点としたのは、日系企業が多いということもあるが、日本語を話せる中国人人材の確保が容易だということが一番の決め手だった。中国で事業を展開している翻訳会社は、北京か上海、広州に拠点を設けており、将来的にはそれらの地域にも進出したいと考えているという。
2012年にシンガポールに進出したが、これはASEAN展開の足掛かりにしたかったためである。ASEANは英語と中国語を除いても8言語が使われている地域であるが、2015年に統合されることが決まっており経済的な結びつきが強くなる。
翻訳業界においては言語が多いほどビジネスチャンスは多い。そして、多言語間での経済的な結びつきが強くなると、アジア・パシフィックのヘッドクォーターの役割を果たしているのがシンガポールになりつつあるので、営業的にもやりやすい。シンガポールは英語を話す人材を確保しやすいというのも大きなポイントであった。ベトナムやカンボジアへの連絡も容易だ。シンガポールの拠点ではインドまでをカバーしたいという。
2013年にはフィリピンへの進出を決めているが、これはアメリカへの営業進出の足掛かりとしての位置づけである。フィリピン英語を話す人材確保が容易であるため、北米への営業拠点にしたいという。
海外展開しているビジネスの内容とターゲットは?
WIPジャパンの業務の2本柱は、翻訳と海外調査である。現在、展開しているのは翻訳がメインであり企業規模に関係なく依頼がある。中には、かつて東京に拠点を置き現在はシンガポールに拠点を置いたという世界的大企業からの依頼や現地企業からの依頼もある。翻訳業務はあらゆる分野に対応しているが、同社が最も強いのは金融、メディカル(医薬品)、法律、IT分野である。そのため、この分野に関係の深い企業との取引が多いが、金融と法律はどの業種、企業にもニーズがある。あえてターゲットを絞って営業活動をしているわけではないが、海外拠点の受注は日系企業からのものが多い。しかし、いずれは現地の翻訳会社と伍して活動できるようなレベルを目指している、と福良雄社長は語る。
広告もしてはいるが、現地の日系企業の会合などで接点を持った企業からの依頼が多い。WIPジャパンのサービスを過去に利用された企業からの紹介で業務の依頼を受けることもある。ASEANに拠点を持っている日本発の翻訳会社は2社で、しかもシンガポールに拠点を持っているのはWIPジャパンしかないため、シンガポールにおいては日本語の関わる翻訳は同社に依頼されるケースが多いのだそうだ。
拠点を設けたことにより最近では中国進出やASEAN進出の支援も可能となった。現在支援しているのは大手メーカーが多い。例えば、ミャンマーである商品の販路拡大をしたいと考えているメーカーがあるとすれば、市場調査からアプローチ先の選定、アプローチ先へのアポイント設定、レポート作成、交渉支援などをトータルサポートすることができる。これは、中国、シンガポールに拠点を持ったこととも大きく関係している。とは言っても、まずは翻訳の拠点としてポジションを確立し、その後リサーチ機能を拡充させていきたい、と福社長は言う。
海外展開するうえで気を付けることは何か
海外展開するうえで気を付けるべきことは何かを福社長に聞いてみた。
「当然ある程度の事前調査は大いに必要であるが、事前調査には限界がある。実際に進出するのが一番の事前調査だと考えている。事前調査をして可能性があるという結論に至った場合は、小さくビジネスを始めるのがよい。大手企業も小さく事業をスタートさせている」
現地でビジネスパートナーを探すのに大変苦労している企業が多いことに関しては、次のような答えが返ってきた。
「小さくともビジネスをスタートさせれば現地へ行く機会も増え人脈も広がる。また、現地でしっかり根を張って10-15年ビジネスを手掛けている日系企業の経営者と懇意にすることも重要である。長年事業を展開されている経営者はその地で事業を継続させるだけの人脈やノウハウ、知恵をお持ちでいらっしゃるため、それらを拝借することによりスムーズにビジネスを進めることができる。日本であれば、そのような経営者の方々と接する機会は少ないかもしれないが、海外で事業展開している中では距離感を縮めるための努力を惜しんではならない」
今後の海外事業展開のビジョン
最後に、福社長に、今後の海外事業展開のビジョンを聞いた。
「弊社では2020年に向けた中期経営計画を策定している。翻訳は職人的に言うと、よい品質で高いコストで時間をかけてつくりたいと考えるものであるが、コストを低く抑えるというメリットを過小評価してはいけない。情報の流通を担う翻訳事業が足かせにならないためにも、廉価な翻訳という選択肢を提供することは重要。翻訳事業を広げていくためには、専門的なもの以外はできるだけ手軽に利用していただける仕組みをつくることが必要であると考えている。そのためには、さまざまな投資も必要となるため、会社の規模も重要視している。2020年には年商100億円を実現し、世界の翻訳会社のトップ10を目指したい。このレベルになると、さまざまなテクノロジーを導入することができる。ライバルは欧米の翻訳会社に加え新興国の翻訳会社になる。彼らの強みは安価にサービスを提供できることだ。弊社では高い品質を維持しつつリーズナブルな価格でサービスを提供したい。それを実現するためには、シンガポールを拠点としてアジア地域を押さえ、来年進出するフィリピンを拠点として北米とヨーロッパを取り込んでいきたい。北米とヨーロッパという巨大マーケットを取り込むためにはそれぞれの地域での拠点が必要となる。できれば2015年までにはその拠点を設けたいと考えている」
そして、福社長は「予算や要望に合わせて柔軟性を持った翻訳サービス提供会社をつくることをライフワークにしたい」と締めくくった。翻訳サービスでの海外事業展開に対する福社長の強い決意がうかがえる
企業データ
- 企業名
- WIPジャパン株式会社
- Webサイト
- 代表者
- 福 良雄
- 所在地
- 東京都千代田区平河町1-6-8 平河町貝坂ビル
- 事業内容
- サービス(翻訳、海外調査、コンサルティング、WEBマーケティング)