中小企業の海外展開入門
「アバンセコーポレーション」 帰国した日系人の人縁で現地ビジネス開拓
アバンセコーポレーションは、主に製造業向けに業務請負や人材派遣などの人材ビジネスを手がける。これまで30年近くの間に業務請負で累計約6万人の日系人を雇用。日系ブラジル人ら日系人の人材ビジネスには特に強みを持つ。
2010年にフィリピン、2011年にブラジルに現地法人をそれぞれ設立。フィリピンでは人材紹介から人材派遣までの人材ビジネスを、ブラジルではさらに業務請負まで行う。
アバンセが海外進出を考えるきっかけは2008年のリーマン・ショックだった。林隆春社長は「ITバブル後も厳しかったが、市場はまだ日本にあった。リーマン・ショック後は顧客の生産拠点が海外移転し、日本の人材ビジネス市場が急速に縮小。国内だけでは当社の成長が見込めなくなり、ビジネスモデルの変換が必要となった」と振り返る。
6万人の日系人との信頼関係
リーマン後は多くの日系人が帰国したという。
「彼らが母国に帰るのであれば、“人縁”で現地で人材ビジネスができると考えた。6万人の日系人との信頼関係を当社の潜在的資源として、これをベースに海外展開することを決意した」(林社長)
また長年の人材ビジネスのネットワークを通じ、日系企業の海外進出情報も入ってきたという。「2012年の夏以降にブラジルとフィリピンで製造拠点が相次ぎ立ち上がるとの情報があり、そこに合わせる必要があった」(島田英治常務)として現地法人の設立を急いだ。
ただフィリピンでは外資が単独で人材派遣業をできないため、同社で働いていたフィリピン人と合弁企業を設立した。設立後、この合弁相手との関係で苦労したという。 「日本人駐在員をおかずにパートナーに任せたが、そこに無理があった。合弁企業では報告などのレスポンスが遅く、顧客に適した人材の確保もできないなど日系企業が求めるサービスの提供ができなかった」(同)
失敗、そして仕切り直し
新たな日系製造拠点の設立が近づいており、早急な対策が必要だった。アバンセが出した結論は新法人の設立。
「一度、労働市場ができると新規参入は難しくなる。合弁相手と話し合いを続けながらも、新たに法人を設立することにした」(同)
2012年8月に日本人経営者のコンサルティング会社と法人を立ち上げた。「現地に進出後、知り合った企業。日系の顧客も多く、労働法や会社法など現地法令を熟知しており、安心感が違う。フィリピンは私が把握するだけでも2012年末から2014年中頃にかけて電機や電子関連の日系だけで2万5000人から3万人の労働市場が生まれると聞いている」(同)と今後に期待する。すでに複数の企業から人材派遣依頼が来ており、一部では日本での研修も始まった。
一方、ブラジルでは「フィリピンの反省もあり、設立時から海外駐在経験がある営業職の日本人を派遣している」(同)という。ブラジルには130万-140万人の日系人がおり、優秀な人材も多い。実は島田常務もブラジル生まれだ。「私自身が現地のビジネス感覚がわかるのも強み」(同)という。
現在、ブラジルではかつて同社で働いた卒業生を中心に人材の情報を掘り起こしている。さらに工場稼働時にマネジメント層を求める日系企業に対応するため、ブラジル人の管理職クラスの人材のヘッドハンティング会社を買収した。島田常務は「今は日系人がメーンだが、ブラジルの人口は2億人。現地の人のネットワークも確立したい」と意気込む。
日系人との人縁をベースに、海外事業を軌道に乗せたアバンセ。2012年3月にはタイにも現地法人を設立した。島田常務は「ベトナム、インドネシアへの展開も考えたい」と次を見据える。アバンセの成長エンジンとして海外事業を積極的に進める考えだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社アバンセコーポレーション
- Webサイト
- 代表者
- 林 隆春
- 所在地
- 愛知県一宮市中町1-8-26
- 事業内容
- サービス(製造業向け業務請負、人材派遣)