中小企業の海外展開入門
「ホープウィルグループ」香港・シンガポールを拠点とした海外展開支援
ホープウィルグループは香港に本社を置き、多くの日本企業の中国・ASEAN展開の支援を行なっている。グループのトップである堀会長は今年40歳。約10年前に起業し香港を拠点に活動している。
学生時代から中国でビジネスをすることを決めていた
堀会長が初めて香港に来たのは、大学院卒業後に入社した商社の現地駐在員としての赴任だ。香港への赴任はたまたま実現したものではない。堀会長が就職活動をする時に「入社したら中国に行かせてくれるかどうか」を企業に聞いて、「中国赴任は可能だ」と返事をくれた会社に入社したのだ。
そんな逸話を聞くと、堀会長はなかなか大胆な学生だったように思うが、そこまでして中国に行きたいと考えた理由があった。それは、大学に在籍していた頃に知り合った中国人からのアドバイスだ。その中国人は年齢が40代で、研究員として中国から来ていた。
これからの中国について彼と話をしている中で、「堀君は将来、何がしたいの?」と聞かれた。将来は自ら起業してビジネスをやりたいと考えていた堀青年は、そう答えた。それを聞いた中国人はこう言った。
「これから中国はますます経済発展して強くなる。堀君が将来、成長性の高いビジネスに取り組みたいのなら、中国のプロになることはひとつの有力な選択肢だよ。そのためにも中国に行くべきだ」
そう言った後で、さらにその中国からの研究員は「どうして中国とのビジネスに将来性があるのか」という理由を詳しく語り始めた。話を聞いていた堀青年の頭の中で、中国という国の存在が急速に大きくなっていった。堀青年は起業するからには大きなビジネスに成長させたいと思っていたし、多くの人の役に立つビジネスをしたいと考えていた。「中国を舞台にしたビジネスに取り組む」という青写真が堀青年の頭の中で描かれるのに、そう時間はかからなかった。
しかし、堀青年は中国に行ったこともなければ、中国がどんな国なのかも知らなかった。中国ビジネスをやるにしても、中国を知らなければ取り組めない。そこで「自分を中国に赴任させてくれる企業」に就職しようと考えたのだった。就職活動で「中国に赴任できるかどうか」と聞いたという逸話は、そういう背景があってのことだ。
赴任先の香港で起業
商社に入社した彼は、就職活動時の約束通り中国に赴任した。中国本土に4年、香港に3年いた。
「そこでは、中国とビジネスをやるにあたって、本当に細かいことまでを学ぶことができた。現在の私の基礎がここで作られたと言っても過言ではありません」
そして堀青年が30歳になった時、商社を退職し、日本には帰らずそのまま香港で起業。その当時を振り返り堀会長が言う。
「その頃は、中小企業の中国展開が増えはじめた時期でした。商社時代に培った中国ビジネス立ち上げのノウハウや人脈を使って、これから中国とのビジネスに取り組みたいと考えている企業の支援ができるのではないかと考えたのです」
「中国展開支援」といっても様々な支援がある。たとえば、中国企業から直接、資材部品を調達し始めた企業も多くあった。また、現地事務所を開設し中国展開する企業も増えていた。中国に展開する企業から市場調査を求められることもあった。実際、現地法人を設立するとなると「法人設立はどうすればいいのか、単独展開するのか、現地企業との合弁にするのか」といった問題もある。展開してからは、現地でのマーケティングやブランディングも必要だ。ビジネスが軌道に乗ってきたら、現地企業とのアライアンス、M&Aなどを検討する機会も出てくる。ホープウィルグループはそれら様々な課題を解決するための支援サービスを顧客の求めに応じて拡充してきたのだった。
結果として「創業してから約10年で、中国展開におけるほとんどの問題を解決支援できるメニューが揃った」と堀会長は語る。どのようなルートで中国展開企業との接点ができるのかを尋ねると、堀会長は「例えば、日本の大手コンサルティング会社や銀行、弁護士事務所・税理士事務所が当社を紹介して下さっています。中国展開では、かなり長くやっている会社になりますから、それなりに知名度も上がってきたのではないかと思っています」と言う。
中国からASEANへの展開
そうやって実績を積み上げてきた海外展開支援サービスだが、実は中国以外の国通用する部分がある。海外展開をする際に発生する問題は、国は違えども共通しているものだからだ。ホープウィルグループはシンガポールにも拠点を置き、中国展開で培ったノウハウを基にASEAN諸国への展開支援も手がけている。
「これから5年間くらいは、ホープウィルグループの主たるビジネスはASEAN展開支援になるでしょう」
ところで、ASEAN諸国の中で堀会長が注目している国がある。それはインドネシアだ。インドネシアといえば世界第4位という人口の多さで有名だが、堀会長の視点はそれだけではない。
「もう少し具体的に言うと、人口が非常に多いことと『イスラム社会』であるということに私達は着目しています」と語る。「インドネシアの人口の90%がイスラム教徒と言われています。そしてイスラム教徒は『イスラム法』という戒律を用い生活を営んでいる。この『イスラム法に基づいたイスラム社会』が、私には非常に魅力的なマーケットに思えるのです」
もちろん「イスラム社会」は、インドネシアだけではない。
「インドネシアのマーケットにチャレンジするのは、大きな『イスラム経済圏』にアプローチするための第一歩なのです。イスラム教徒が多数を占める国は他にもインド、パキスタン、バングラデシュ、中東、北アフリカと広がっています」
「イスラム経済圏」という新たな視点
堀会長は長期的な視点も語る。
「ある統計によると、あと30年くらいすると世界人口に占めるイスラム教徒の数が3分の1になる、という試算もあります。これらの膨大な人々は国で分かれているのではなく、イスラム法という共通の価値観で繋がっている。つまり、どこかのイスラムマーケットで成功することができれば、イスラム経済圏という巨大マーケットで勝負することが可能になるのです。今までは中国展開といった言葉に表されているように、どこかの国に展開するためにはどうしたらいいか? という視点で考えなければなりませんでした。しかし、私達は、国境にとらわれない魅力的なマーケットとして、イスラム経済圏に注目しています」
「もうひとつ言うと、所得水準です。イスラム各国は一握りの富裕層とそうでない層とに両極化しています。しかし経済発展を遂げることで、所得水準の低かった層のレベルが上がってきているのです。近い将来、巨大な中間層マーケットが生まれることになります。いくら人口が多くてもその大多数が貧困層では、その国に展開して成功することは容易ではありません。しかし中間層がどんどん増えてくれば話が変わってきます。イスラム経済圏ではそういった動きが起きつつあるのです」
さらに堀会長は「イスラム経済圏への展開は、日本人(日本企業)に合っているのではないか」とも語る。これはまだ仮説の段階なのだが、と前置きをして堀会長が言う。「イスラムではイスラム法という戒律に基づいて「やっていいことと悪いこと」が決まっている。「ルールが明文化されている」イスラム経済圏は、日本企業との間に親和性があるのではないかというのだ。
「日本人や日本企業は明確なルールがある所では強いでしょう? それにイスラム経済圏の多くの国が親日的な感情を持っているというのも日本企業が展開しやすい理由になると思います」
中国、ASEAN支援に加えてイスラム経済圏への展開支援を視野に入れているホープウィルグループは、イスラム教徒の新規採用も積極的に行なっている。すでに2人を採用しているが「さらなる人員増強を図りたい」と言う。さらに、イスラム経済圏への展開の足がかりとしてグループ内に新会社も設立した。会社名は「ハラル コンサルティング グループ」。この新会社ではイスラムについて情報交換をするハラル経済研究会を立ち上げ、さらに月刊情報誌も10月に創刊し情報発信を始めた。
堀会長が率いるホープウィルグループは、中国展開支援から始まり、ASEAN展開支援にシフトしている。さらに近い将来、「日本企業が展開すべき大きなマーケット」としてイスラム経済圏を捉えている。今後の彼らの動きが楽しみだ。
企業データ
- 企業名
- ホープウィル グループ (ホールディングス)有限公司
- Webサイト
- 代表者
- 堀 明則
- 所在地
- Suite2305, Wing On Centre, 110-114 Connaught Road Central, Hong Kong
- 事業内容
- コンサルティング