使い勝手のいいパッケージ

キユーピーのドレッシング

ドレッシング容器の中栓を簡単にあけられる。いままでのようにキャップをあけてから中栓の上面にあるプラスチックリングを引っ張る必要がない。2010年2月、キユーピーはそんなイージーオープンな容器のドレッシングを発売した。

従来タイプの中栓では、引き抜いたプラスチックリングがごみとなり、また引き抜く際の力加減によって中身が飛び散ることもあった。さらに、引き抜く力の足りない高齢者や爪の長い女性などにとっては少々やっかいな栓だった。それらをみごとに解消したのが、今回開発した新しい構造のキャップだ。

不思議なキャップ-ヒネルキャップ

キユーピーが2010年2月に発売した「味わいすっきりドレッシングシリーズ」というドレッシングの容器がおもしろい。買ってきて最初にドレッシングのキャップを右にひねると、中栓の上ふたも同時にあいてしまうのだ。従来はキャップを一旦あけ、中栓の上面のリングを引き抜いてから開栓していた。が、そのリング(引き抜いて開栓することからプルリングと呼ばれる)を引き抜かずとも、ただキャップを右にひねるだけで中栓の上ふたもあいてしまうのだ(写真1)。

この不思議なキャップ、名付けて「ヒネルキャップ」という。キユーピーが、包材メーカーの東罐興業と共同開発した便利なパッケージだ。

写真1:買ってきたばかりのドレッシングのキャップを右にひねると、自然に中栓もあいてしまう「ヒネルキャップ」

ヒネルキャップの容器は、写真2の中央のように開栓前は中栓の上にふたが設けられている。それがキャップを右にひとひねりするだけで中栓の上ふたは抜けてしまう(右端)。抜けた上ふたはキャップの裏側に付着するため、その後は何度キャップを開け閉めしても中栓に上ふたが付着することはない。

写真2:中央が中栓の上にふたが設けらた状態。右端は中栓の上ふたが抜けた状態

ヒネルキャップの構造は図のようだ。

まず、左側の図がキャップをあける前(開封前)の状態。中栓に上ふたがはめられている。そして中央の図のようにキャップを右に回すと、キャップ裏側の溝に上ふたがはまり込み、キャップを左に回して外す際には上ふたもキャップ裏に付着したまま外れる(右側の図)。

図 ヒネルキャップで中栓が同時にあく構造。キャップを閉めると中栓の上ぶたがキャップの裏側に付着し、キャップをあけると追随して中栓もあく仕組み

ヒネルキャップの開発について商品開発本部開発チームの水間大介さんは説明する。

「ドレッシングの味はどんどん広がりをみせ、お客さまにもその嗜好に応じて多彩な商品から自由に選んでいただけるようになりました。その結果、いまやお客さまのドレッシングに対する要望の半分以上は容器にあります。中でもプルリングに対する要望が多く、自社の消費者調査によってそれが改めて浮き彫りになりました。そこで包材メーカーの東罐興業様と共同で開発したのです」

ドレッシングを始めとして現在上市される多くの調味料容器の中栓はプルリングタイプだ。上部に設けられたリングを引き抜いて開栓する構造の中栓だ。プルリングタイプの中栓だと、引き抜いたプラスチックのリングはごみとなり、また引き抜く際の力加減によって中身が飛び散ることもある。さらに、引き抜く力の足りない高齢者や爪の長い女性などにとっては少々やっかいな仕組みだ。それらプルリングに対する不満が消費者調査で鮮明になり、その解消を目指して開発したのがヒネルキャップだった。

従来とは逆方向に回す

このヒネルキャップを最初に採用したのは、2010年2月に発売した「味わいすっきりドレッシングシリーズ」(フレンチ、うまみ塩、だし醤油の3種)だった。上述のようにプルリングタイプに比べてとても便利な容器なのに、発売当初は消費者の戸惑いも少なくなかった。なぜか。それは、購入直後のあけかたがわかりづらかったからだ。

通常、買ってきたばかりのドレッシングはキャップを左にまわしてあけ、中栓のプルリングを引き抜いてから中身を使い始める。私たちには「キャップは左に回してあける」という行為が無意識のうちにしみ込んでいる。そのため、購入直後のヒネルキャップを無意識のうちに左に回してあけてしまう消費者も散見された。そうなるとキャップをあけても中栓の上ふたは閉じられたままだから、この上ふたを外さないとドレッシングが使えないと思ってしまう。そこで上ふたを外そうとすることになるのだが、ヒネルキャップの上ふたは薄くて丸い形状のためつかみづらく、指でつまみ上げるにはプルリング以上に大きな力が必要になる。

写真3:新しい仕組みのキャップだけに、購入後にキャップを右に回すことを消費者にわかりやすく伝えることに苦労した

この便利なヒネルキャップで肝心なことは、最初にキャップをあけるときに右に回してもらうことにある。

「ヒネルキャップの特長は最初にキャップを右に回していただくことですが、これはいままでのキャップと逆方向の動きになるのです。それをいかにお客さまにわかりやく伝えるか。キャップの天面と表示面にキャップのあけかたを表示しました」

ヒネルキャップは最初に右にカチッと音がするまで回すと、キャップの裏側に中栓の上ふたが付着する構造になっている。とにかく購入後のキャップを消費者にまず右に回してもらう。そのために発売当初の表示では、天面に「まずは右回し カチッとなったら開栓」(写真3)と表示し、容器裏にもキャップを右に回すと開栓することを表示した。

が、言葉に対する人間のとらえ方は千差万別のため、発売後のヒネルキャップのドレッシング商品には「まずは右回し」の"まずは"がわかりにくいという声も届いた。そこで2011年2月にヒネルキャップを同社の「キユーピードレッシング170mlシリーズ」全11品に導入する際、天面の表示を「キャップを右回し カチッとなったら開栓」に改善した(写真2)。

現在でもたまにお客さま相談室にヒネルキャップのあけ方を尋ねる電話がある。

「最初は少し不満そうに話されるお客さまも、カチッと音が鳴るまでキャップを右に回してくださいと説明いたしますと、そのあとは"あっ、あいた"と明らかに声のトーンが満足に変わった印象を受けます」

一度経験すればその便利さを実感できる。それがヒネルキャップの特長のようだ。この容器はドレッシングのみならず、さまざまな液体調味料や食油、飲料などでも採用される可能性は高い。ヒネルキャップについて同社は「キユーピーが独占するものではなく、消費者の便益を向上させるなら、大いに広がっていくことが望ましい」と表明している。使い勝手のいい便利な容器が広まっていくことに誰しもが賛成なことはいうまでもない。