闘いつづける経営者たち

「加藤太郎」日本ガイシ株式会社(第3回)

03.主力の碍子部門を黒字化せよ

カギは軽量化と生産移管

日本ガイシの加藤太郎社長は、現在の主力製品である自動車部品が十分な利益を出している間に、まず、部門赤字に陥っている電力用碍子(がいし)をテコ入れする考えだ。今後、2015年度までの3年間をめどに送電用碍子の小型・軽量化を進め、同時に中国へ積極的に生産移管する。材料費や労働コストの低減を図るためだ。

電力用碍子はコスト構造が悪化している

ただ楽観はしていない。「日本国内の碍子需要は成熟している。それに加え、中国市場での競争も激しい」と、加藤社長は、創業事業である電力用碍子の需要見通しについて厳しい見方を示す。日本の電力会社はここ数年、送電設備の新設を減らす傾向にあり、さらに東日本大震災後は設備投資自体を大幅に抑えている。

電力用碍子の世界最大手の同社だが、碍子部門の採算は需要低迷で悪化の一途をたどっている。碍子を含む電力関連部門は2013年3月期に3年連続の赤字になる見通し。このため事業再編によってコスト競争力を引き上げ、「14年3月期の部門黒字達成を目指す」(加藤社長)方針だ。

国内の雇用は維持

事業再編の第1弾として、送電用碍子の一つである「懸垂碍子」の小型化に取り組む。この碍子は電気を遮断する円盤状の磁器。磁器を幾重にも重ねることによって高圧な電気でも絶縁できるという汎用的な碍子だ。

碍子を連結する金具部分の改良から始め、徐々に円盤状の磁器自体も小型化していく計画。碍子の小型化により、材料費を抑えられるほか、鉄塔への負荷低減にもつながるという。

小型化を進める懸垂碍子

生産体制の再編にも着手する。現在、送電用や変電用の碍子は主に愛知県小牧市と同知多市、中国・河北省唐山市と紅蘇省蘇州市の日中4工場で生産している。日本の2工場は国内向けに加え、欧米や中東などへの輸出基地にもなっている。一方、これまで中国工場は現地向けの碍子が中心だった。

今後は中国工場の生産能力を増やすと同時に、日本の工場は縮小していく。量産品を中心に順次移管し、生産コストを低減する。ただ「日本でしか作れない超高圧電力向けの碍子もある」(加藤社長)と、基幹技術は引き続き日本国内で守る考えだ。生産移管に伴う国内工場の余剰人員は、好調な自動車関連部門に振り向け、雇用を維持する。

10年2割減、今後も漸減予想

同社の電力関連部門の12年3月期の売上高は558億円。10年前の02年3月期は671億円と、10年で2割近く減っている。碍子を中心とする同部門の内容は大きく変わっておらず、売上高は今後も漸減が予想される。

国内電力各社の経営不振に加え、中国での需要も期待していたほどの伸びはない。事業拡大が見込みにくい中、同社は生産コストの改善で経営基盤を確保せざるを得ない状況。そんな中で、既存事業のテコ入れ以上に力を注ぐのが次代を担う先端製品開発。有望株の一つが固体酸化物燃料電池(SOFC)だ。

プロフィール

加藤 太郎 (かとう たろう)

2011年4月に社長就任。同社ではほぼ半世紀ぶりの理系出身社長となり注目された。72年に東京農工大の工学部を卒業後、同社に入社。環境関連の技術職を歴任し、都市環境事業の立ち上げにもリーダーシップを発揮した。「しつこく『技術の先進性』を突き詰めよう」と常に社内に発破をかけ、技術志向の組織づくりにまい進する。趣味のゴルフはハンディ17。埼玉県出身、48年9月6日生まれ。

企業データ

企業名
日本ガイシ株式会社
Webサイト
設立
1919年5月5日
資本金
698億円余(2012年3月)
所在地
名古屋市瑞穂区須田町2の56
Tel
052-872-7181
事業内容
碍子など電力関連機器、産業用セラミックス製品、特殊金属製品の製造販売及びプラントエンジニアリング事業
売上高
2478億円(連結、2012年3月期)

掲載日:2012年8月16日