闘いつづける経営者たち

「松田 譲」協和発酵キリン株式会社(第2回)

02.継続が力に—抗体医薬の基盤技術を2種保有

協和発酵キリンは、前身の協和発酵工業、キリンファーマとも発酵技術をベースにした高いバイオ関連技術を持っていたことから、途切れることなく抗体医薬の研究を進めていた。それが奏功し、現在では抗体医薬で世界トップクラスの技術力を誇る。抗体医薬に不可欠な基盤技術も抱えており、日本では中外製薬と並び、抗体医薬の雄といえる。

世界に誇る二つの技術

東京リサーチパークの研究風景

「抗体医薬のコアとも言える、不可欠な技術」と松田譲社長が誇る技術が二つある。一つはポテリジェント技術というもの。協和発酵工業が2000年に出願した。がん細胞や病原体を殺すために必要な抗体の活性を100倍以上に高める。抗体を医薬品に利用する際に欠かすことができない技術とされ、10月現在で武田薬品工業や仏サノフィ・アベンティスなど19社と技術ライセンス契約を結んでいる。同技術を使った7種類の抗体が、臨床試験(治験)に入っている。

二つめは、抗体の作製に重要な役割を持つKMマウス。キリンとメダレックス(現ブリストル・マイヤーズスクイブ)が技術を培った。完全にヒトと同じ抗体を作ることができる。通常のマウスはマウスの抗体しかできず、半年から1年かけてヒト抗体に再調整する。KMマウスはこの時間が不要になる。

町田リサーチパークの外観

こうした基盤技術などを応用し、協和発酵キリンは11種類のバイオ医薬品の治験などを進めている。この数は国内でトップ、世界でも9位だ。

だが、アステラス製薬など製薬各社はバイオ医薬品の創出加速に向けて体制整備を進めている。「3年後には追いつく」(国内製薬大手首脳)と自信を持つ企業もあり、油断できない。

個別化医療へも対応

協和発酵キリンにはもう一つ、次世代の医薬品に向けた強みがある。それがバイオマーカーだ。診断薬とも呼ばれ、ある病気にかかった人が、どういう遺伝子的な特徴を持っているかなどが分かる。患者ごとに遺伝子の分析を行い、極端な例えでは、抗がん剤のAという薬が効く遺伝子の特徴を持つのか、反対に効かないタイプの遺伝子的特徴なのかが分かる。協和発酵キリンはグループに診断薬事業会社の協和メディックスを抱えており、これが強みとなる。

とくにがんのような難しい領域では、医薬品の効能・効果を最大化するために、事前に薬が効くかどうか判別できる診断薬の重要性が高まっている。個別に詳細な病気の状態を診断し、最適な治療を選択することから、個別化医療とも言われる。

松田譲社長は、「抗体医薬品はとくに診断薬が重要だ。それが分かっていたから、各社が『医薬専業』を唱え診断薬事業を切り離しても協和メディックスを持ち続けた」と話す。この路線を進め、診断薬事業を持つメリットをフルに発揮することを目指す。国内外を問わず、新薬と診断薬はセットで販売承認を受ける必要がある。協和メディックスもグローバル化に向け、体制整備を進めていくという。

プロフィール

松田 譲 (まつだ ゆずる)

1948年6月25日生まれ、新潟県出身。77年(昭52)東京大学大学院農学系研究科博士課程修了し、同年4月に協和発酵工業(現協和発酵キリン)に入社。研究員として東京研究所(現東京リサーチパーク)に勤務し、以来新薬の開発に没頭する。主任研究員などを経て00年に医薬総合研究所長に就任。本人は天職として研究者人生を全うするはずだったが、研究部門の組織改革の実績が認められ02年に総合企画室長(常務)に抜てきされる。翌03年には協和発酵の社長に就任。08年10月にはキリンファーマとの経営統合に伴い協和発酵キリンの社長に就いた。12年3月22日9年務めた社長を退任、相談役に退く予定。

企業データ

企業名
協和発酵キリン株式会社
Webサイト
設立
1949年(昭和24年)7月1日
資本金
267億4500万円
所在地
東京都千代田区大手町1-6-1
Tel
03-3282-0007
事業内容
医療用医薬品の製造・販売を行う事業持株会社
売上高
4137億3800万円(2010年12月期)

掲載日:2012年2月2日