闘いつづける経営者たち

「佐藤 順一」株式会社カクヤス(第2回)

02.試行錯誤の末の自社物流

半径1.2kmに1カ所ずつ

カクヤスのWEBサイト画面

カクヤスが、低粗利商品の宅配でも収益を獲得できる仕組みの構築にあたって、試行錯誤の末たどり着いたのが、点を面にする自社物流ネットワークの形成と、業務用と個人用宅配のミックスだった。

現在、都内を中心として、首都圏に張り巡らされた物流拠点を兼ねた店舗網は約150店ある。しかし、このネットワークを作り上げるまでは簡単ではなかった。紆余曲折があったという。

「都内で商圏半径1.2キロメートルに1店、計137店つくれば理論上、都内でいつでも、どこでも、どれだけでも宅配を実現できる」と考えた佐藤社長は2000年から急ピッチで多店舗展開を開始、03年までの3年間に一気に100店以上を出店、都内に約120の店舗網を構築した。

業務用取り込み、効率化に道

法人向けの無料配送エリア

しかし、一気に作った店は半数近くが赤字となった。注文の割にコストがかかり、「売っても売っても個人用の宅配だけでは赤字」(同)となり、追いつめられた。そこで踏み切ったのは業務筋への宅配だった。「都内には飲食店が11万軒ある。家庭用よりもはるかに大きい市場だった」(同)。

同社が卸から出発していることもあって、露骨に業務用の飲食店に営業をかけられなかったが、「困った時に注文してくれ」をセールストークに、営業マンが業務用の酒類市場を開拓していった。

業務用酒販は電話かファクスで前日注文、翌日配送が一般的。これに対し注文すれば2時間枠で届けるカクヤスは支持され、業務用市場のウエートが高まった。家庭用を補完する体制ができ、結果的に築いてきた自社物流網が業務用で生きたのだ。「自社物流で業務用と個人用をミックスした市場。都内ゆえに1時間に約4軒に配送する効率的な物流体制」今後、新型の流通を担う可能性を秘めたプラットフォームが完成した。

個人用と業務用共存の難しさも

カクヤスは業務用と個人用のミックスで収益を上げるビジネスモデル。しかし、業務用と個人用は似て非なるビジネスのやり方。その辺りを佐藤社長はこう話す。

「業務用(B)は顧客の開拓はセールスがやる。個人用(C)はマーケティングと商品政策(MD)の精度が必要になる。(物流や情報システムの)プラットフォームは共通でも、この上流工程は分けないといけない。これをはき違えて、一緒くたにやると大変なことになる。BとCは二律背反的なところがあり、両方やる難しさもある」(佐藤社長)。

今では個人宅配よりも業務用の売上比率の方が高いという。しかし、この個人と業務用の融合こそが、カクヤスモデルの次の原動力となっていく可能性も高いといえるのだ。

プロフィール

佐藤 順一 (さとう じゅんいち)

81年筑波大経済学部卒業後、家業で酒類卸が中心だった合資会社カクヤス本店(現カクヤス)に入社。93年に3代目の社長に就任。2000年に店名を「大安」から「カクヤス」に変更。2002年には商号を株式会社カクヤスに変更し事業名も「なんでも酒やカクヤス」に統一、酒のディスカウント店から宅配中心の業態に大転換を果たした。東京都出身、52歳。

企業データ

企業名
株式会社カクヤス
Webサイト
設立
1921年11月1日
資本金
2億7889万5000円
従業員数
1039人(2011年3月末現在)
所在地
〒114-0003 東京都北区豊島2の3の1
事業内容
酒類・食品等の業務用および家庭用販売。飲食店向け通信販売等

掲載日:2011年9月22日