ビジネスQ&A

SDGsに取り組む際、「グリーンウォッシュ」に気をつけるとは具体的にどんなことに注意すればいいのでしょうか。

2023年 6月 9日

SDGsに取り組む際「グリーンウォッシュ」に気をつけるべき、と聞きました。具体的にどんなことに注意すればいいのでしょうか。

回答

グリーンウォッシュの「ウォッシュ」は、「ごまかす」「取り繕う」といった意味のある英語の「whitewash」が語源です。「グリーンウォッシュ」や「SDGsウォッシュ」とは、環境やサステナビリティに取り組んでいるように見せかけて、その広告効果を得たり、投資や税制面での優遇措置を受けたりするなど、自社が得する面だけをかすめ取っていくような状態、姿勢のことを指します。悪意を持っているケースだけでなく、中途半端な活動や思慮不足の取り組みがグリーンウォッシュとみなされてしまうケースもあるので注意が必要です。

一度ついたウォッシュのイメージを払拭するのは困難。EUでは規制もスタート

2030年を達成年度とするSDGsや、2050年のカーボンニュートラル達成という世界共通の目標に向かい、多くの国と地域、企業、組織、一般の人々がそれぞれ取り組みを進めています。力を入れている企業であればあるほど、より実効性の高い取り組みを模索していると考えられるでしょう。ただ、取り組みが恣意的と受け取られる場合、その効果に疑問の目が向けられたり、世間との間に感覚のギャップがあると、「ウォッシュ」と誤解されるリスクが高まります。仮に「ウォッシュをしている企業」という印象が強くついてしまうと、取引先や顧客を巻き込んでのイメージダウンにつながりかねません。従業員のモチベーションの低下も懸念されるでしょう。しかも「ウォッシュは誤解である」ということを、エビデンスを示して証明できない場合、このイメージを払拭するのはとても困難です。

そして今やイメージの問題だけではありません。EUの政策執行機関である欧州委員会では、ESGやサステナブル関連の金融商品の透明性を高めるためにグリーンウォッシュの調査を始めており、すでにフランスなどではその規制と監視がスタートしています。今のところ日本国内に規制などはありませんが、将来的にこうした世界の新潮流へ向かう可能性を考えておく必要はあるでしょう。また、すでに規制が始まっている地域と取引がある企業にとっては、より緊急性の高い課題となります。SDGsなどへの取り組みを進める場合、それが「ウォッシュに当たらないか」という視点を持つことは、今後ますます重要になると考えられます。

中小企業も「グリーンウォッシュ7つの罪」に注意

では、どんなことがグリーンウォッシュとみなされるのでしょうか。アメリカの第三者安全科学機関のULは、グリーンウォッシュの罪として以下の7つを公表しています。

1. 隠れたトレードオフの罪

良い面のみ主張して、大きな環境負荷が発生するような悪い面は公表しない

2. 証拠を示さない罪

「環境に良い」「サステナブルである」と主張しながら、その論拠を示さない

3. あいまいさの罪

範囲や定義をあいまいにして、消費者の誤解を招くような表示にする

4. 偽りのラベル表示の罪

第三者機関から評価されたように偽装する

5. 的外れの罪

嘘ではないが、消費者にとっては役に立たないことを主張する

6. まだましの罪

悪いものと比べることで良いものに見せかける

7. 嘘をつく罪

不正確な情報に基づき「環境に配慮している」と嘘の広告や発表をする

つまり「良くなる側面がある一方、別の悪い面を作ってしまうこと」や「グリーンという目的への有効性に疑問があり、その根拠を明確に説明できないこと」などが、ウォッシュとみなされやすいポイントといえそうです。

過去には、太陽光発電というクリーンなエネルギーを供給する一方、その発電所の建設に際して森林伐採が行われていたり、原料調達における強制労働が発覚したケースなどがありました。また、紙使用料の削減を目指した代替素材が結果的にリサイクル効率を落としていたというようなケースも、グリーンウォッシュとの評価を受けた例とされています。

中小企業であっても、このようなトラブルに見舞われる可能性は小さくありません。特に大きなバリューチェーンの一部分を担っているような中小企業の場合、知らず知らずのうちにウォッシュに巻き込まれているようなケースも考えられるでしょう。こうしたことを回避するには、やはり自社の業務だけでなく、ビジネス全体のことを考える視点は必要だと思います。難しい面もあると思いますが、SDGsの17番目のゴールが示唆しているように「パートナーと一緒に考える」という方法を試してみる価値はありそうです。

「想像力」と「行動の評価」でリスク回避しつつ、取り組みのさらなる加速を

ここまでグリーンウォッシュのリスクについて説明してきましたが、それを懸念するあまりカーボンニュートラルやSDGsの取り組みが減速してしまっては本末転倒です。地球や人類の持続可能性を高めるには、あらゆるセクターが取り組みをさらに加速させることが不可欠。きちんと情報をインプットし対策を講じることで、ウォッシュとみなされることなく実効性の高い取り組みを選択していきましょう。

そのためにまず大切なのは「想像力」です。自社が推進しようとしている取り組みを、多種多様なステークホルダーはどう受け止めるかを想像してみてください。この時、「どこか遠くの国の名前も知らない誰か」という空間的な広がりと、「自分はもういない数十年、数百年先の誰か」という時間的な広がりという二軸を意識しましょう。空間的にも時間的にも自社とは遠く離れたその誰かに問題や責任を転嫁してはいないか。判断は公平公正か。良い面の裏に悪い面が隠れていないか。このような自問を繰り返すことで、ウォッシュの芽を一つ一つ潰していきます。

そして、取り組みの実践中には「行動を評価すること」も重要です。この評価があいまいになってしまうような場合は、SDGsの169のターゲットや、自治体が公表する各種の目標に紐づける形で行動の指標を作ってみましょう。その上で、目標へ近づくような行動も、遠のくような行動も、包み隠さずありのままを記録します。これが後に行動とその評価を具体的に説明する際のエビデンスになりますし、記録のモニタリングや振り返りにより、改善点も見つかりやすくなるでしょう。

冒頭でグリーンウォッシュのイメージを払拭するのは困難と申し上げましたが、困難ではあっても不可能ではありません。万が一自社の取り組みがウォッシュという指摘を受けたとしても、その指摘に真摯に耳を傾けて軌道修正を図り、いずれはそのウォッシュの汚名を返上する。そんな柔軟かつ謙虚な姿勢も大切です。

環境や社会のことというと、どこか自分とは遠い話と感じてしまうかもしれませんが、自分の周りの仲間やその子孫の世代が生きていく未来をより良くしていきたいという気持ちは、ほとんどの人が持っていると思います。自社の技術やノウハウを生かしてその気持ちを行動に移していけば、支援や賛同してくれる方は必ず現れます。互いに共感できるステークホルダーと一緒になって持続可能な社会を共創する。多くの経営者がそのようなスタイルのビジネスに舵を切っていくことを期待しています。

回答者

中小企業診断士・ITストラテジスト 山田 英生