ビジネスQ&A

「リスキリング」のメリットと導入方法を教えてください。

2023年 10月 11日

中小企業が「リスキリング」に取り組むメリットと、取り入れ方などについて教えてください。

回答

中小企業の人材不足解消という観点では、「採用難」と「高離職率」という二つの課題に対処する必要があります。政府統計データによると、入社直後の離職理由トップは「人間関係」です。リスキリングと聞くと、個人のIT系スキルを向上させることと思われがちですが、マネジメント層に対するコミュニケーションやリーダーシップのリスキリングが不可欠です。日々の業務内で実施可能なリスキリングの方法を紹介していきます。

中小企業が直面する人材不足問題を「採用」と「離職」に分解する

日本の労働市場は、コロナ禍では一気に冷え込みましたが、現在では、コロナ前のような人材不足に直面しています。大企業と比較し、採用難易度が元々高い中小企業においては、人材確保は困難を極め、会社の存続危機にも繋がっています。とくに新卒採用で採用難の傾向が顕著です。実際に、求職者1人あたり何件の大卒求人があるかを示す大卒求人倍率を見てみます。

従業員規模300人未満の企業の場合、2019年3月卒では、9.91倍を記録した後、コロナ禍の2021年3月卒の3.40倍で底を打ち、再び上昇、2024年3月卒では6.19倍となっています。つまり、大卒1名に対して、約6件の大卒求人があるということです。求職者にとって有利な売り手市場であり、経済状況が苦しかったコロナ禍では、一般には買い手市場になったと言われますが、多くの中小企業は採用難が続いていたと言われています。

従業員規模300-999人の企業が求人倍率1倍前後で変動していることを鑑みると、従業員規模300人未満の企業では、従業員規模300-999人の企業と比べ、5〜6倍採用が難しいと考えることができます。

従業員規模別 大卒求人倍率の推移

次に、離職率の側面から人材不足の問題を見ていきます。従業員規模が100人未満の場合、新規大卒者が入社をしても、半分近くが3年以内に離職するというデータが出ています。

新規大卒就職者の従業員規模別 就職後3年以内離職率

つまり、人材不足の構造は、「採用」と「離職」という二つの側面から考えることができ、中小企業においては「採用しにくく」「離職しやすい」という事実があります。

この背景を踏まえると、中小企業の人材不足とリスキリングはどのように紐付けられ、リスキリングがなぜ重要かが見えてきます。

人材不足を解決するために、中小企業がリスキリングを推奨するメリット

そもそも、昨今ニュース等で何度も見聞きする「リスキリング(Reskilling)」とは何でしょうか。語義そのものが意味することは「学び直し」であり、ビジネスの文脈では「技術の発展やビジネスの潮流変化が激しい時代に、従業員が新たにスキルや知識を習得し、職業能力を高めること」と解釈されます。

リスキリングが労働市場に与える影響は様々あります。例えば、リスキリングが社会全体で推奨されているのは「人材の流動性を高める政策」のため、つまり労働者が学び直しを行い、新たなスキルを手に入れることで「転職を増やす」という側面で語られることもあります。そうすると、ただでさえ「採用難」「高離職率」の中小企業にとって、人材が流出し、ますます人材不足に拍車がかかるのではないかと思われるかもしれません。

しかしながら、人材流出・転職という観点では「リスキリングによって新しいスキルを身に付けたから、転職をしよう」という考え方の順番ではなく、「転職をしたいから、リスキリングによって新しいスキルを身に付けよう」という考え方の順番です。つまり、企業側から見た人材流出は、リスキリングが主なきっかけになるわけではないと考えるのが自然です。

では、人材不足を解決するために、中小企業がリスキリングを推奨するメリットは何なのか。
前章で、人材不足の構造は「採用」と「離職」の両側面から考えることができると述べました。企業にとって、リスキリングはとくに「組織全体の離職率を下げる」ことに力を発揮します。

人材不足に対処するという企業・組織側の観点では上司・管理職・マネジメント層等の若手社員の定着と育成の鍵を握る社員に対し、リーダーシップ力やコミュニケーション力のリスキリングを行うことがとくに効果的です。

厚生労働省「平成30年若年者雇用実態調査の概況」によれば、初めて勤務した会社をやめた主な理由として、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」30.3%、「人間関係がよくなかった」26.9%、「賃金の条件がよくなかった」23.4%がトップ3となっています。注目すべき点として、1年未満で離職した人では「人間関係がよくなかった」と回答した割合が最も高くなっています。

離職を防ぐという観点で、待遇改善は企業としてすぐに実施できるものではありません。また、売り手市場において、待遇に不満を感じる従業員からすれば、転職が最も簡単な待遇改善の選択肢として出てくるため、引き止めも困難です。

一方、採用直後の離職に最も影響していることが政府データでも示される「人間関係」といった「コミュニケーション・マネジメント・リーダーシップ・指導」に関する改善は、組織の土台を盤石にし、離職だけでなく、中長期的には良い口コミ・採用力に繋がるものであり、企業としてもリスキリングを実施するメリットが実は大きいのです。

離職率を下げる日々の業務内でのリスキリングの取り入れ方

上司・管理職・マネジメント層に対し、社内の人材不足を解決するために、離職率を下げるコミュニケーションやリーダーシップのリスキリングの具体的な取り入れ方を挙げます。

前提として、とくに年齢層が高めの従業員に対しては、これまで自分が受けてきた昭和型のマネジメント方法から脱却し、令和型のマネジメント方法を習得することが会社にとっても非常に重要なリスキリングであり、個々人にとっても、職場の人間関係が円滑となり業務が進めやすくなるというメリットがあると経営者から伝えることが効果的でしょう。

1.相互理解・伝え方のリスキリング

方法: 朝礼で1分間スピーチの実施。テーマ例は「社員の他己紹介」「お客様の声」「周囲への感謝」「最近気になっているニュース」「最近の買ったおすすめのもの」など、話しやすく、相互理解を促すもの。

2.話の聞き方(傾聴)のリスキリング

方法: 相手の話を聞く時に、目を見る・うなずく・遮らずに待つ。「どう思う?」「どういった解決方法がありそう?」など、自分ではなく、相手に考えてもらい、話してもらう質問を投げかける。

3.フィードバックのリスキリング

方法: 業務やプロジェクト終了後に振り返りを行う。その時に、まず相手を褒め、労う。批判をしない。そのうえで、今後の改善点を一緒に考える。

4.チーム内の信頼関係構築のリスキリング

方法: 定期的に開催されるチームミーティングで、全員が意見を述べる機会を設け、お互いの考えを尊重する文化を築く。その際に、否定や非難をしない。また、ミーティング冒頭に、「最近あった嬉しかったこと」など、場を和ませるアイスブレイクを行う。

5.若手社員の成長支援のリスキリング

方法: 能力に応じた業務の割り当てや、権限移譲、若手がリーダーシップを取ることができる機会を提供する。

以上の取り組みは、専門的なトレーニング、外部講師や特別な研修を原則必要とせず、日々の業務の中で上司・管理職・マネジメント層自身が主導して進めることができます。このマネジメント・リーダーシップのリスキリングにより、若手社員とのコミュニケーションが深まり、組織全体の結束が強化され、離職率の低下に繋がります。さらに、組織風土がより良くなることで、社員による紹介での新規採用や、良い口コミが広がることによって、採用にも寄与していき、結果的に「採用」「離職」両方の課題が解決、人材不足が解消されていくでしょう。

回答者

中小企業診断士 池本 駿

同じテーマの記事