経営ハンドブック

目標の設定と達成のマネジメント

2023年 5月 24日

目標の設定と達成のマネジメントのイメージ01

業務効率化には目標の設定と達成のマネジメントが必要

生産性とは、成果に対する投資の割合を示すものであり、アウトプット(産出・価値・成果など)をインプット(投入資源)で割った比率になる。生産性を向上させるためには、ムリ・ムラ・ムダを省く業務効率化の取り組みが有効であることが知られているが、その業務効率化を推進する上で必要になるのが目標の設定と達成のマネジメントだ。目標を設定する際には「SMARTの法則」が参考になる。組織としての目標と個人としての目標については、それぞれの状況に合わせた設定と達成のマネジメントがある。

目標の設定と達成のマネジメントに関するポイント

  1. 生産性を向上させるには
  2. SMARTの法則
  3. 組織としての目標設定と達成のマネジメント
  4. 個人としての目標設定と達成のマネジメント

1.生産性を向上させるには

生産性を高めたい。そのためにはどうしたらよいか。

日本生産性本部が発表した「2021年の労働生産性の国際比較」によると、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟38か国中27位で、前年より1つ順位を落として、データの比較可能な1970年以降で最低を記録している。日本の労働者一人1時間当たりの生産性は49.9ドルで、7位米国85.0ドルの約半分。先進7か国の中での最下位が1970年から続いている状態だ。

生産性を向上させるためには、まず徹底してムリ・ムラ・ムダを省く「業務効率化」が必須といえる。インプットをできるだけ小さくすることで、アウトプットの価値を相対的に大きくするというわけだ。このインプットをできるだけ小さくするというのが「業務効率化」にほかならない。

2.SMARTの法則

業務効率化は、少子高齢化による人手不足や生産性の向上という課題の解決策として注目されている。通常業務で発生する無駄を削減し作業を効率的に行うことで、アウトプットの向上が期待できる。さらに仕事の質を落とすことなく作業スピードを上げることができれば、より重要度の高い業務に時間を使えるようになり、結果として生産性が上がることになる。

人手不足の解消が中小企業の死活問題ともなってきた昨今、投入するリソースを少なくすることを可能にする業務効率化は、既に多くの中小企業が取り組みを開始している。この業務効率化を進める上で必要不可欠なのが目標の設定と達成マネジメントである。業務効率化を推進する上で明確で適切な目標を持つことは必須であり、設定した目標をPDCAサイクルにより組織的に管理することで、目標を達成することができる。

この目標を設定し達成する上で、ぜひ参考にしたいのが「SMARTの法則」(ジョージ・T・ドラン、1981年)という学説だ。SMARTとは以下の5つの言葉の頭文字を並べたものだが、分かりやすくかつ覚えやすいのでぜひ参考にし目標を設定したい。

SMARTの法則

(1)Specific:具体的であること

達成目標は具体的で明確、分かりやすくなければならないということ。目標が曖昧だと、人によって解釈が違ってきたりすることも考えられ、目的意識の強化も意思の統一も困難になる。

(2)Measurable:測定可能であること

目標を数字などで測定できるということで、その達成度合い(評価)も定量的に示すことが可能である。定性的目標については本文4.(3)を参照。

(3)AchievableまたはAttainable:達成可能であること

達成目標が現実的に妥当なものであるということ。達成不可能な目標では意味が無く、かといってあまりに簡単な目標でも意味がない。達成可能性を適切なレベルで設定することで目標の有効性が増すのである。

(4)Relevant:関連性があること

達成目標が事業と密接に関連しており、組織的に取り組む意義があるということ。様々な事業や商品を抱えている企業においては、優先順位はそれでいいのか、事業の本質から離れていないのかをチェックすることである。

(5)Time-bound:期限があること

達成目標の期限が適切で妥当に設定されているかということ。期限が定められていない場合はついつい「先延ばし」になる可能性があり、期限が短過ぎると負担が大きく、長過ぎれば労力の無駄遣いになる。

SMARTの法則は明確で適切な目標を設定する上で有効だが、達成マネジメントにおいて必要となる目標の評価もしやすくなる。

3.組織としての目標設定と達成のマネジメント

職場や会社の組織全体としての目標を設定・管理する場合、PDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:測定・評価、Action:対策・改善)を継続的に循環させながら、それぞれの組織にあった方法で行われているが、次のようなポイントは押さえておきたい。

(1)現状の見直しと問題の洗い出し

まず業務の全体像や流れを正確に把握するため、業務に携わる関係部署ごとにミーティングを開き、それぞれが感じている問題を出し、効率を妨げているものを洗い出していく。最初はブレーンストーミング形式でどんな意見も批判せずに集め、あとで不要なものを消去していくようにする。

(2)従業員とのコミュニケーション

現場の従業員や事務所のスタッフを巻き込んで目標を設定する。従業員とのコミュニケーションやヒアリングなどを通して、現場レベルでの問題を明らかにしながら具体的な数値目標の設定と具体的なアクションプランを作る。

(3)他社の成功事例を参考にする

業務効率化の成果を上げた企業は少なくないので、そうした企業のノウハウをホームページの検索や書籍等で参考にする。どのような目標を掲げ、どのようにして社内に浸透させ目標を達成したかを知ることで、目標設定と達成マネジメントを円滑に進めることができる。

(4)ITツールを導入する

作業の自動化を進めることを前提に目標設定を考える。近年では、RPA(Robotic Process Automation)などを使用して、デスクワークなども含んだより高度な作業を行うこともできるようになっている。VBA(Visual Basic for Application)やアプリケーションを使用し、業務の自動化を進めることで、工数を削減することも考慮したい。

(5)スモールスタートで進める

目標を最初から大きなものにしてしまうと、大きな変更を従業員に強いることになり、かえって混乱を生むことにもなりかねない。最初はスモールスタートから着手し、徐々に業務改善を進め、従業員の意見を聴きながら目標のレベルを上げていくようにしていく。

(6)アウトソーシングを活用する

近年では、フリーランスの人材も増えてその種類も多様なものがある。「副業人材」などという言葉も生まれてきたほどである。社員にしかできない仕事とフリーランスでもできる仕事を分けて、外注にした分を社員にはより優先度の高い仕事に傾注してもらう。そうした考えを目標に反映させることも業務効率化のためである。

4.個人としての目標設定と達成のマネジメント

業務効率化のために個人が目標を立てることは、会社側だけでなくそこで働く従業員にとっても良い効果をもたらす。モチベーションを上げたり、時間をうまく使えるようになったりすることで、心に余裕が生まれるためである。業務効率化のために設定する個人の目標づくりの際にも、PDCAサイクルによって継続的に管理しながら、以下のようなポイントを押さえておくとよい。

(1)中間地点の目標も設ける

長期的で複雑なプロジェクトの場合、進めていく過程で少しずつ遅れが出てきて、最後は大きな遅れになってしまうようなことが起こる。そのため、最終地点に到達する前の途中経過の時点で、いくつかの段階的な目標を設定しておくと、遅れている部分に対しても早めに対処できるようになる。

(2)達成期限を設ける

「短期目標」と「中期目標」と「長期目標」というように、時間軸を分けてゴールを設定することも考えたい。個人の場合は、1か月で達成できることや、半年、1年、なかには複数年かかるような目標だってありうるからだ。

(3)数字で表せる目標にする

達成した度合いがはっきりと分かるように、数字で表すことができる目標(定量的目標)にすることを原則とするが、数字で表すことができない目標(定性的目標)に対しては、成果物や仕事の進捗状況の明示等、評価しやすい目標を工夫して設定する。

(4)達成可能な目標にする

あまりにも難しい目標だと従業員が負担に感じてしまうし、あまりにも簡単な目標だと、自身が認められていないと感じたり、退屈になってしまったりすることが起こる。各人の現在の能力を評価し、現状能力プラスαのレベルで目標を設定する。

(5)具体的なプロセスを想像する

設定時に具体的なプロセスを想像しておくこと。具体的であればあるほど改善行動に落とし込みやすく、目標達成に近づくことになる。

(6)会社側の目標と乖離しないようにする

会社側が打ち出した目標と個人の目標がかけ離れたものにならないようにすること。

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