REACH規則の基礎

REACH規則の概要

2021年 12月 内容改訂

REACHとはRegistration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicalsの赤字部分の頭文字をとったもので、REACH規則は、2007年6月1日に発効した化学物質の総合的な登録、評価、認可、制限の制度です。

REACH規則の目的は、「人の健康と環境の保護」「化学物質のEU域内の自由な流通」「EU化学産業の競争力の維持向上と革新の強化」などであり、化学物質のほとんどすべてを対象としています。

この規則は、従来の40以上の化学物質関連規則を統合するものであり、従来の規制と相違するREACH規則の内容としては次のような項目があげられます

  1. リスク評価や安全性の保障責任を産業界に移行する。
  2. 既存化学物質と新規化学物質の区分を廃止する。
  3. 川下企業にも安全性評価の責任を負わせる。
  4. 有害化学物質の情報はサプライチェーン全体に伝達する。
  5. 利用が可能であれば、より危険性の少ない物質へ代替を奨励する。

REACH規則の「登録」「評価」「認可」「制限」「情報伝達」の概要は次の通りです。

登録(Registration)

  • 製造者または輸入者は、化学物質をEU域内で年間1t以上製造、または輸入する場合、既存化学物質、新規化学物質に関わらず登録を行うことを義務付けられています。
    また化学物質を、年間1t以上製造または輸入する場合は技術一式文書を、年間10t以上製造または輸入する場合は、技術一式文書に加え化学物質安全性報告書(CSR)の提出が必要です。
  • 登録対象となるのは化学物質そのものです。塗料などの混合物は、それを構成する化学物質が登録対象になります。ポリマーは登録対象ではありませんが、それを構成するモノマーは登録対象になります。さらに、ある条件では成形品中の化学物質や中間体などが登録対象になります。
  • 登録義務のある者は、EU域内の製造者・輸入者、もしくはEU域外の製造者が指名するEU域内に拠点のある「唯一の代理人」です。
    なお、既存化学物質などの段階的導入物質は予備登録を行い、生産量・物質の有害特性により登録期限に猶予を設けて登録を進めてきましたが、これらは2018年5月31日で登録を完了しました。これ以降は新規化学物質などの非段階的導入物質と同様、上市前に登録することになります。
  • 同じ物質を複数の製造者、輸入者が登録する場合、物質に関するデータを共有することが求められています。そのため、登録を行う際には、登録対象とする物質情報をもとに所管当局である化学品庁(ECHA)に照会(Inquiry)を行います。その結果、同一物質を登録している、または登録しようとしている他社が存在する場合には、ECHAから提供された他社情報をもとに、他社にコンタクトを行い、既に他社が登録している各種データの購入等により、登録一式文書を作成することになります。

評価(Evaluation)

登録一式文書の評価と登録物質の評価が行われます。

  • 登録一式文書の評価では「登録一式文書の法令適合性の点検」「試験提案の審査」が行われます。
  • CMR(発がん性、変異原生、生殖毒性があるとされる物質)、PBT(難分解性、生物蓄積性、毒性のある物質)やvPvB(極めて残留性・蓄積性の高い物質)などの高懸念物質や年間100t以上の広範囲かつ拡散的なばく露をもたらす用途の危険性に分類される物質の登録の試験提案は、優先的に審査が実施されます。

認可(Authorization)

人の健康や環境への影響が懸念される物質は、認可対象候補物質(CL物質)とされ、さらにその中から、技術的、社会経済的な検討等を経て、認可対象物質としてREACH規則附属書XIVに収載されます。認可対象物質を使用、または上市する場合、特定された用途ごとに化学品庁の認可を得る必要があります。認可申請は取扱量が1t未満であっても必要です。

製造者・輸入者・川下企業は、認可対象物質の代替物質、代替技術を考慮しなければなりません。

認可では、認可対象物質および認可対象物質を含む混合物について、認可がなければEU域内での使用や上市が禁止されていますが、成形品は規制対象となっていません。そのため、EU域外で製造された認可対象物質を含む成形品については、継続してEUに輸出することは可能です。

制限(Restriction)

物質の製造、使用又は上市から生じる人の健康や環境によって受け入れられないリスクがあり、EU全域で対処することが必要である場合に、制限が課されます。制限対象物質はREACH規則附属書XVIIに収載されており、制限対象物質ごとに、用途や濃度、除外適用時期等の各種条件が設定されています。

サプライチェーンでの情報伝達

化学物質を安全に使用するという目標を達成するためにはサプライチェーン上での情報の伝達が不可欠です。

  • 危険有害性を有する物質・混合物の川上企業から川下企業への情報提供は、安全性データシート(SDS)によって行われています。これに加えて、年間10t以上登録の危険有害性、PBTやvPvBの物質では、ばく露シナリオをSDSの附属書として提供する義務があります(拡張されたSDS)。
  • 川下企業は川上企業へ、化学物質の新しい危険有害性情報やSDSの特定された用途の管理対策に疑念がある場合に、情報を提供する義務があります。
  • 認可対象候補物質(CL物質)が成形品中に0.1wt%を超えて含有される場合には、成形品の供給者は川下企業に対して、また、消費者から要求がある場合は45日以内に無料で、その成形品を安全に使用できる情報(少なくとも物質名)を提供する義務があります。

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。 法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家に判断によるなど最終的な判断は読者の責任で行ってください。
情報提供:一般社団法人 東京環境経営研究所