コロナ禍をきっかけに事業を見直し、再構築するための7つのステップ

第3回 ステップ(2) 売上だけではなく、利益と資金から再構築を考えよう

2021年1月12日

今回の新型コロナウイルス感染症の感染拡大においては、緊急事態宣言下で飲食店の多くがテイクアウトメニューを始めました。また、小売業でもネット販売を始める事業者が多くなりました。 テイクアウトメニューの価格はどのようにして決めましたか?周りの飲食店のテイクアウトメニューの価格を意識したり、「お客さまが激減して売上が上がらないのだから、とにかく低価格にしてでもお客さまを呼び込まないと!」と考えたりしながら値付けをした事業者は少なくないと思います。

事業継続にとって決定的に大事な資産は「資金」であり、その資金を継続的に生み出す源泉が「継続的な利益」です。売上は「利益」が生み出せるようなものでなくてはならず、「売れば売るほど損をする」という売上は、呼び水となるような何らかの戦略が描けていない限り大変危険です。

「なぜ当社・当店の商品・サービスを支持しているのか」「コロナ禍で支持してくれるお客さまの行動様式がどう変化しているのか」「当社・当店の商品・サービスの原価がどれだけかかっているのか」が理解できていないと、コロナ禍で売上が上がらないことへの恐怖感から、漠然とした感覚で「利益が出ない値付け」をしてしまいがちです。

1.まずは事業を継続し生活を守ることが出来るための必要利益を設定しましょう

「事業を継続し生活を守ることが出来るための必要利益」とは何でしょうか。個人事業者では「事業所得と専従者給与の合計額」になりますし、法人化していれば「生活が出来るレベルでの役員報酬を確保しながら法人としても黒字決算を重ねる」ということになります。 例えば、60で仕入れたものを倍の値付け(原価率50%)で販売した事業が10赤字になるという構図は以下のようになります。

60で仕入れたものを倍の値付け(原価率50%)で販売した事業が10赤字になるという構図

仕入や外注費などの変動費(売上が増減すれば同様に増減する経費)60を原価と捉えて、原価の倍の値段120で売った限界利益(いわゆる粗利益)は60になりますが、地代家賃や正社員人件費などの売上が増減してもかかってしまう経費(固定費といいます)が70かかってしまうと、10の赤字になってしまいます。
この場合、利益1を残す計画を立てようとすると、売上が増減してもかかってしまう経費(固定費)をカバーできる限界利益71が必要になります。
つまり、71の限界利益を残すための知恵を絞る必要があるのです。

2.必要となる限界利益71を残すためにはどういう方策に知恵を絞るか

(1) 市場を拡大して売上高数量を伸ばし「売上高142・変動費71」を達成する
価格体系を変えないのであれば、感染症対策の徹底やネット販売、近隣市場への進出などによって新規顧客を増やし、142の売上を確保する考え方があります。しかし、このコロナ禍でこの方法を採ることは容易ではありません。

(2) 売上高120のままで変動費を49に下げる方策を検討する
今まではご縁ある決まった仕入先からの取り決めで仕入れていたものを、勇気をもって相見積を取り、同品質のものをもっと安く仕入れる知恵が考えられます。また、「不良在庫となるようなものを仕入れない」「仕入れた材料のロスを減らし適正量だけを仕入れる」などの知恵も有効です。

(3) 60で仕入れたものを120ではなく131で売れる方策を検討する
この方策の検討は極めて大切です。あなたの商品・サービスを購入してきた人は、このコロナ禍で何に困っているでしょうか。
飲食業のデータになりますが、株式会社リクルートライフスタイル社による首都圏・近畿圏・東海圏の2020年度10月の外食市場調査によれば、2020年10月の外食市場の客単価は、10月としては調査開始以来最高額の2,538円です。

株式会社リクルートライフスタイル社による首都圏・近畿圏・東海圏の2020年度10月の外食市場調査
※株式会社リクルートライフスタイル社による首都圏・近畿圏・東海圏の2020年度10月の外食市場調査

つまり、お客さまは「安いものを求めている」のではなく「コロナ禍でも可能な限り『非日常』を求めている」のではないでしょうか。
60で仕入れたものを、色々な工夫(安心して飲食できるような店舗環境を整備する、お店に行くことに躊躇する方に出前をする)などすれば、多少価格を高く設定しても利用して貰えるかも知れません。

(4) SNSなどのネット環境をフル活用して「売り込まなくても選ばれる仕組」をつくる
LINE(ライン)、Twitter(ツイッター)、Instagram(インスタグラム)、Facebook(フェイスブック)などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの普及により、ネット上の口コミが「商品・サービス」の選択動機になる機会が飛躍的に増えました。このチャネルを活かすことで、人的な労力をかけずとも飛躍的に売上や限界利益が増やせる可能性が広がります。
この点については、第6回「ステップ(5) 事業再構築の方向性は大きく4つあります」で触れます。

次回第4回は、「ステップ(3) 貴方のご商売でのこだわりや心がけはなんですか」をテーマに考えていきます。

文責

中小機構 中小企業支援アドバイザー 古川忠彦