市場調査データ

ベーカリーショップ(2023年版)

2023年10月20日

大手メーカーが製造する大量生産のパンではなく、各店こだわりの焼きたてパンなどを提供するベーカリーショップは、多くのパン好きにとって今や欠かせないものとなっている。また、比較的起業のハードルも高くはなく、人気のある個人店も多いため、開業を志す人も少なくないと考えられる。そんな消費者・開業希望者双方から熱視線を送られるベーカリーショップの近年の動向と、コロナ禍を経た消費者意識の変化などについて、20代以上の男女1000人の調査結果を基にひも解いていく。

1. 現在の利用状況

〈図a〉ベーカリーショップの利用状況(n=1000)
〈図a〉ベーカリーショップの利用状況(n=1000)

ベーカリーショップの利用状況について聞いた設問において、最多は「年に数回程度の利用頻度だ」の290人(29.0%)。ただ、「ほぼ毎日利用」〜「週に1回程度利用」といういわゆるヘビーユーザー層でも182人(18.2%)、これに「月に1回程度の利用」までを含めた定期ユーザー層は582人(58.2%)となり、実に6割近くがベーカリーショップを定期利用していることがわかった。一方、「かつて利用したことがある」「まだ一度も利用したことがない」を合わせた非ユーザー層は128人(12.8%)となり、これは本サイトで2013年9月に実施したアンケート調査の約半分である。対象者やアンケート項目等の違いはあるものの、当時から多くのユーザーに支持されていたベーカリーショップが、この10年でさらに多くのファンを獲得したと考えられそうだ。

2. 性別・年齢別に見た利用状況の内訳

〈図b〉性別・年齢別に見たベーカリーショップ利用状況の内訳(n=1000)
〈図b〉性別・年齢別に見たベーカリーショップ利用状況の内訳(n=1000)

ベーカリーショップ利用状況の性別・年齢別割合を示した〈図b〉を見ると、ユーザーの割合は各年代ともに女性の方が多い傾向があり、ヘビーユーザー・定期ユーザーの割合は、年齢が上がるにつれて多くなる傾向があるように見て取れる。一方で、非ユーザーの割合が多いのは、20代男性、50代男性、60代以上男性の順。また、全体的に女性からの支持の方がやや高い傾向があると言えそうだ。

3. 利用の基準

〈図c〉ベーカリーショップ利用判断の基準(n=1000)
〈図c〉ベーカリーショップ利用判断の基準(n=1000)

ベーカリーショップを選ぶ際に最も重視するポイントを聞いた設問において、過半数となる567人(56.7%)が選んだのは「味、美味しさ」となり、続く「生活圏内からの距離」の168人(16.8%)や「低価格。お得感」の147人(14.7%)を大きく引き離した。記述式自由回答欄においても、今後の利用意向の理由として「メーカーのパンにはないベーカリーならではの美味しさ」を挙げる声が圧倒的多数。消費者の期待に応えようと考えるのであれば、ベーカリーショップは何より味を優先するのがセオリーと言えそうだ。

4. 利用にかける費用

〈図d〉ベーカリーショップ1回の利用にかける費用(n=1000)
〈図d〉ベーカリーショップ1回の利用にかける費用(n=1000)

ベーカリーショップ1回の利用にかける費用について聞いた設問において、半数近くの482人(48.2%)が選んだのは「500円〜1000円未満」。続いて、「1000円〜1500円未満」の207人(20.7%)、「500円未満」の181人(18.1%)、「1500円〜2000円未満」の65人(6.5%)の順となった。一方、「3000円〜5000円未満」は2人(0.2%)、「5000円以上」は0人という結果となり、1回の利用でまとまった金額を使うユーザーは極めて少ないというベーカリーショップの利用傾向が浮き彫りになった。

5. コロナ禍の影響

〈図e〉コロナ禍がベーカリーショップの利用に与えた影響(n=1000)
〈図e〉コロナ禍がベーカリーショップの利用に与えた影響(n=1000)

コロナ禍がベーカリーショップの利用に与えた影響に関しては、「利用頻度にも利用の基準にも影響はなかった」が470人(47.0%)と最も多かった一方、それ以外のつまり「何らかの影響があった層」が530人(53.0%)に上ることも特筆すべきだろう。特に「利用頻度が減った」が221人(22.1%)に及ぶことは、開業を考える上では無視できない数字と言えそうだ。記述式自由回答欄では「コロナの心配がまだ払拭できない」「マスクをしなくても良くなったため、むしろ今の衛生面の方が気になる」といった声が寄せられた。

また「利用頻度に影響はなかったが、利用の基準が変わった」と答えたのは70人(7.0%)。記述式自由回答欄に寄せられた「セルフで取るスタイルは避けている」「コロナ前と同じようにオープンな棚にパンが陳列されているような店には行きたくない」といった声は、ベーカリーショップ運営のヒントになり得るかもしれない。

6. 今後の利用意向

〈図f〉ベーカリーショップの今後の利用意向(n=1000)
〈図f〉ベーカリーショップの今後の利用意向(n=1000)

ベーカリーショップの今後の利用意向について、最も多かったのは「ぜひ利用したい」の462人(46.2%)。続く「どちらかと言えば利用したい」の322人(32.2%)と合わせると784人(78.4%)となり、実に8割近い人が今後も利用意向を持っていることがわかった。「出来立ての美味しさはスーパーのパンにはない」「添加物などを気にせず安心して食べられる」「毎朝のパンは、大量生産のメーカー品ではなく、地域のベーカリーを応援したい」など、パン好きのユーザーからは美味しいパンを求める熱い声が寄せられた。

一方で、この78.4%という数値は、一つ目の設問で明らかになった現ユーザーの87.2%を下回る。「どちらとも言えない」を選択した166人(16.6%)の記述式自由回答から見えてきたのが、近年の原材料の高騰による値上げが家計を圧迫しているといった側面だ。「小麦の高騰でパンの値段が上がったため、なるべく控えるようにしている」「値上がりして以前のように買えなくなった」といった声からはユーザーの切実な胸の内が伝わってくる。半面、「物価高になっているので、外食よりは低価格でご褒美感が味わえるベーカリーの利用が増えている」など、ベーカリーの利用をむしろ節約と捉えている人の声も散見された。

7. 性別・年齢別の今後の利用意向

〈図g〉性別・年齢別の今後の利用意向(n=1000)
〈図g〉性別・年齢別の今後の利用意向(n=1000)

ベーカリーショップの今後の利用意向について、性別・年齢別の割合を捉えた〈図g〉を見ると、「ぜひ利用したい」「どちらかと言えば利用したい」を合わせた積極的な利用意向を持つ割合が高かったのは20代女性、30代女性の順となり、それ以外の女性の各年代がその後に続いた。一方の男性は「どちらとも言えない」の割合が全年代で女性より大きくなっており、比較的男性の方が今後の利用についてより慎重になっていると言えそうだ。特に20代男性は「全く利用したくない」「あまり利用したくない」の消極的利用意向をもつ割合が、全セグメントで唯一10%を超え、これに「どちらとも言えない」を加えた割合も30%超となった。

8. まとめ(ビジネス領域としてのベーカリーショップ)

今回のアンケートでは、ベーカリーショップの現在の利用率は87.2%となり、2013年調査時の75%より12ポイント以上も上昇するなど、その人気がさらに高まっていることがわかった。ただ、今後の利用意向をもつ割合が現在の利用率を下回っていることは、少し気になるポイントだろう。「コロナ禍による利用基準の変化」や「物価高」といった近年のトピックにいかにアプローチするかで、リーチできる消費者の層が変わってきそうだ。

男女共ユーザー数は多いものの、どちらかと言えば女性の方がベーカリーユーザーの割合が高く、今後の利用に慎重なのは男性の方。そんなユーザーがショップ選びで最も重視しているのは「味」。ベーカリーショップの人気店には当然、消費者が立ち寄りやすい立地や、求めやすい価格帯なども重要になってくると思われるが、そうしたことよりもまず「美味しい」を前提にしたビジネスを考えることが重要になってくるのかもしれない。

記述式自由回答欄で、今後の利用に積極的な層からは「割高にはなっても、たまには美味しいものを食べたい」「たくさんの種類があって、出先でもどこでもすぐに食べられるのが嬉しい」「自分では作れない無添加のパンが食べられる」「ベーカリーショップの香りが好き」などの声があった。一方、今後の利用に慎重・消極的な層からは「現金しか使えない店が多い」「太る」「パンは体に良くない」「ホームベーカリーで十分」「自宅の近くにない」「特別美味しいと思う店がない」といった声が寄せられた。

前述のコロナによる利用基準の変化と物価高といった近年の課題を含め、こうした慎重・消極層からの声にも対応したニューノーマルなベーカリーショップでリーチできる層の拡大を図るか。あるいは、利用に積極的な層にターゲットに絞ってアプローチするか。ユーザーが多いゆえに、ビジネスを成功に導くルートも多くの形が考えられそうだ。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を基にした一般的な内容になっています。個別の施策等を検討される際には、別途、専門家に相談されることをお勧めします。)

調査概要

調査期間:

2023年7月3日〜7月10日

調査対象:

国内在住の20代男女、30代男女、40代男女、50代男女、60代以上男女。サンプル数(n)1000人

調査方法:

インターネットによるアンケート調査

最終内容確認日2023年10月

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