起業の先人に学ぶ(2018年版)

「ウォンテッドリー(株)」革新的ビジネスSNSサービス

ビジネスSNSを展開している、ウォンテッドリー株式会社CEO仲暁子氏。登録企業数25,000社、月間200万人が利用するビッグサービスに育ててきた。ライバルも多いIT業界の中で、どのように成長を遂げてきたのか、またこれからの展望を訊いた。

ウォンテッドリー株式会社 代表取締役 仲 暁子 氏
URL:https://wantedlyinc.com/ja

ビジネスSNSと3本の柱

—— ウォンテッドリーの展開するサービスについて教えて下さい。

一言で言うと「ビジネスSNS」を運用している会社です。具体的には、ウォンテッドリーには、3つの柱があります。一つ目は、「Wantedly Visit(ビジット)」という、会社とビジネスパーソンをつなぐサービスです。給料や福利厚生だけではなく、その会社のミッションやビジョンへの共感によって企業と人とを繋ぐことをコンセプトにしています。会社のミッションやビジョンに興味を持った人が「話を聞きに行く」というボタンを押すことで、面接ではなく「遊びに行く」感覚で、気軽に会社を訪問できることが特徴です。

—— 遊びに行くのですか?

そうです。会社を訪問する側から見れば、面接ではなくカジュアルな訪問なので、よりフラットな立場でその会社の社員と話すことができ、会社の様子がよくわかります。
企業側から見ても、話を聞きに来た人とカジュアルに会うことで、かしこまった面接では分からない相手の人となりが見えやすくなります。
結果、お互いにマッチしているかどうかがわかりやすくなり、採用の場面で多くの企業に利用されています。

—— 確かに、中途採用や転職で、「入社してからすぐ辞められる」とか「入社してから『こんなはずじゃなかった』と後悔する」という話はよく聞きますね。

中小企業にとっても、ビジネスパーソンがカジュアルに会社を訪問する形での出会いは良い体験であると思っています。国内の約400万社あると言われる企業のうち、大企業の割合は0.3%程度ですが、知名度や資金力のある大企業と比べてしまうと、中小企業やスタートアップ企業はどのように人を採用していくかが課題です。

—— たしかにそうですね。

そこで、金銭報酬や福利厚生の条件だけではなく、「何のためにこの仕事をやるのか」「どういう仕事ができるのか」を具体的に書ける募集フォーマットを用意し、そこに興味を持った人とマッチングできる仕組みをつくっています。実際に、「Wantedly Visit」は多くの中小企業で利用されています。
2つ目は名刺管理アプリ「Wantedly People(ピープル)」です。2016年11月に立ち上げました。まだ1年ちょっとしか経っていないですが、既にアプリは200万人以上のユーザーに利用されています。社内で一番伸びている、勢いのあるサービスですね。

—— 名刺管理アプリはライバルも多いと思いますが。

「Wantedly People(ピープル)」の強みは、大きく2つです。人工知能を活用し、一度に最大10枚の名刺データを読み取ること、もうひとつは、読み取ったデータが瞬時にデータベース化されることです。他のサービスでは、名刺を1枚1枚撮影する必要があったり、データ化されるまでに数日待つこともありますが、私達は高い技術力を駆使することで他にはない、誰でも手軽に名刺をデータ化できるサービスを開発しています。読み取り技術については、特許も申請しています。
3つ目が「Wantedly Chat(チャット)」です。米国生まれの「Slack(スラック)」など様々なチャットサービスがある中で、「Wantedly Chat」は、他のウォンテッドリーのサービスと連携していることが特徴です。例えば、「Wantedly Visit」でつながっている人であれば、「Wantedly Chat」でも相手を見つけることができ、すぐにコミュニケーションを取ることができます。
他のサービスの場合、メールアドレスを入力して、サービスの招待をして・・・などの手間がかかるのですが、「Wantedly Chat」の場合は導入の手間が少ないので、誰でも直ぐに使い始めることができます。

—— 始めやすい、手間がかからないという点が魅力ですね。

もう一点、無料という点も大きな魅力です。中小企業や教育機関など、コミュニケーションツールにお金をかけられない人達にも利用されています。

初めての起業は大学時代

—— 仲社長自身のお話も聞かせていただきたいのですが、起業された経緯はどういうものだったのでしょうか?

最初の起業は大学時代になります。当時はITバブルと言われていて起業ブームで、多くの学生が周りで起業している中で、私も友人と4人で起業しました。

—— しかし続かなかった?

はい。私の場合、会社を大きくしたいとか社員数を増やしたいみたいなことが目的になってしまうと、モチベーションが続かないんですね(笑)。当時は大変なことも多かったので、「起業はもう絶対やらない」とすら思っていました。

—— 「起業はもう絶対やらない」と思われて、卒業後には就職をされるわけですが。

就職活動をする中で、「物凄く優秀な方々が働いていて素敵だな」と思ったのがゴールドマン・サックス証券でした。仕事にはやりがいもあったのですが、リーマンショックで環境も一変し、尊敬していた方々も次々にいなくなってしまったこともあり、 約2年で退職しました。その後は漫画家を目指しました。

第2の起業

—— 漫画家ですか?

そうです。当時は真剣に漫画家デビューを目指していて、大手出版社に持ち込みもしました。

—— それは相当なものですね。

ただ、1年ほど活動をしたのですが、漫画家としてプロデビューすることはできませんでした。そこで色々と考え、日本の漫画を世界に発信するウェブサービスを作りました。

—— ウェブサービスですか?

そうです。漫画家は、世界的にとてもリスペクトされている職業の一つです。日本の漫画は世界で読まれていて、アニメ化されて見られているものも含めると大きな産業です。ただし日本語の壁もあり、世界には知られていない漫画も多い。ウェブサービスを作ることでその後押しが出来ないかと考えました。

—— 仲社長の「起業する理由」がぼんやり見えてきたように思います。

基本的には、私の中に何かやりたいことがあって、たとえば「世の中をこう変えたい」とか「こんなものがあれば役に立つのに!」という想いみたいなものがあって起業するという形ですね。起業の形態にはこだわりはありません。

—— なるほど。

漫画のウェブサービスをきっかに、いくつかのサービスをつくり、結果的にそれが2回目の起業につながりました。現在展開しているサービスが最初からあったわけではなく、試行錯誤の末、現在のウォンテッドリーの形になりました。

20代で成すべきこと

—— 今までのお話を訊いてきますと、紆余曲折はありながら順調に歩んでこられたという印象があります。

「若い」ということはプラスに作用していたと思います。20代は体力もありますし、失うものもないので将来のことをあれこれ考える必要もない。ですから、やりたいことにパッと取り組むことができます。でもこれが30代になると、家族とか家のローンとか、守らないといけないものが増えてくる。場合によっては親の介護の必要性などが出てくる。そうすると、そう簡単に全てを変えるわけにはいかなくなります。

—— 20代と30代は違いますか?

ライフイベントなどを考えると、違うと思います。無論30代、40代、極論もっと後でも、人は何かを始めて結果を出すことはできると思うのですが、やはり20代でやりたいことをやって、失敗をするかもしれないけれど、頑張って実績を作った方が後々に活きてくると思います。

ウォンテッドリーで実現したいこと

—— ウォンテッドリーの今後の展開について伺います。

いま話題になっているAIにより、今後は人がやらなくてもいい仕事がたくさん出てくるでしょう。長期的に見ると仕事の定義も変わってくると思います。また、ベーシックインカムの導入も充分有り得るでしょう。そのように「仕事」を取り巻く環境が大きく変わってくると、単に生きるためではなく「何のために仕事をするのか?」ということがより重要になってくるのではないでしょうか。新しい「仕事の取り組み方」を実現するために、ウォンテッドリーが活用される世界を作っていきたいと思っています。

—— 仲社長の場合、一貫して、人の幸せ、人のために事業展開をしていくというお話に聞こえます。

そうですね。幸せに生きる人が増えて欲しいと思っています。それから、多くの人は「長期的な自分のキャリア」について考えるべきだと思いますね。

—— といいますと?

目覚ましいスピードでイノベーションが起きている世の中で、企業の寿命は短くなっていきます。10年前にはなかったiPhoneが今では世界を席巻しているように、新たな価値を提供するサービスや企業がビジネスの中心となっていくでしょう。また、終身雇用制は無くなり、転職は今まで以上に当たり前のものになる。そうした際に、自分のスキルを磨くこと、それから転職するたびに人脈がリセットされるのではなく、過去の自分の人脈をきちんと蓄積し、ひとりの人間として情報発信もしていける・・・そういうことを日々やっている人とやっていない人の間では、雲泥の差が生まれてくることになるでしょう。働く環境が大きく変化している中で、ウォンテッドリーは企業理念である『シゴトでココロオドル人をふやす』ために、ビジネスパーソンのこれからの働き方を支援していきたいと考えています。