起業の先人に学ぶ(2018年版)

「(株)旅工房」高校時代に起業を決意。大手ひしめく旅行業界で株式上場

2017年4月に東証マザーズに上場した株式会社旅工房。旅行業界全体としてはマイナス成長が続く中で着実に成長を遂げている。「今までにないサービス」を提供している旅工房の高山社長に、成功の秘密を聞いた。

株式会社旅工房 代表取締役会長兼社長 高山 泰仁氏
URL:https://www.tabikobo.com/

格安チケット販売からオーダーメイド対応業態への大変革

—— 旅工房さんはいわゆる「旅行会社」ですね。

そうですね。海外旅行を中心とした商品を扱っている旅行会社です。設立は1994年4月18日。今期で24期目です。同業としてはJTBさんやHISさんなどがいらっしゃいますが、私達はインターネットを中心にビジネスを展開しています。
ちなみに、海外旅行が自由化されたのは1964年。まだ50年ちょっとしか経っていない産業なんですね。
旅行会社の一番初期の業態は、駅前店舗にたくさんのパンフレットが置いてあり、それを見てパック旅行(ツアー)を申し込むという形態でした。その後、1986年のプラザ合意後からバブル経済がはじけるまでの間に、バックパッカーと呼ばれる若者を中心に一人旅をするという時代になり、旅行業界の新しい流れが生まれました。そのような流れの中で私たちのようにインターネットを中心とした旅行会社が生まれました。

—— インターネットの旅行会社というと「格安チケット」のように安売りのイメージがあります。

そうですね。私達も起業した当初はそうでした。しかし、東日本大震災が起こった直後から業態を大きく変えました。具体的には、「格安チケットやツアーを大量に売りまくる」という業態から、お客様ひとりひとりの好みに合わせオーダーでツアーを作成する、まさにオーダーメイド対応を中心とした業態に変えたのです。

—— それはまた大きな業態変更ですね。

今まではツアーを売るにあたり、企画を立てるのは企画担当、チケットや宿を手配するのは手配担当、そして販売は店舗で、とそれぞれの業務により部署が分かれていました。そこで当社では、「ハワイ担当」などエリア担当制チームを作り、予約・企画・手配機能を1つにまとめ運営することにしました。そうすると、お客様からの要望にいちいち他部署に確認・相談することなくスピーディーに対応することが可能になりました。
多くの旅行会社は、大量販売を前提に効率を重視して商品開発をしています。ですから、お客様の好みや要望を踏まえての旅のプランを作るという対応は難しいのです。ここが当社の強みになっています。

高校3年の夏休み。「将来は旅行業で起業しよう」と決意

漠然とではありますが、子どもの頃から「自分で商売をしたい」と考えていました。高校3年の夏休みに自分の進路、自分が将来なにをしたいかを考えたとき、旅行業の参入障壁が低いと知りました。当時も大手の旅行会社はありましたが、多額の資金や技術がなくてもスタートできることを知りました。私は大学へは行かず、旅行業の専門学校へ進みました。

—— 起業するために専門学校で学ぼうと考えたのですね。

専門学校へ入学してから「25歳になったら会社を作る」と決めました。同時に「25歳になるまでは修業をしよう」とも決めました。学校を卒業して入社したのは、もちろん旅行会社です。そこでは、起業のために様々なことを吸収しよう、将来の経営のために役立てようと考えました。たとえば企画・手配の仕事をやりながら、経理部へ行って財務会計のファイナンスはこういう風になっているんだと知ったり、営業部門に行って営業の仕方を見たり。周りの社員からは「なんだこいつは」と思われていたでしょうね(笑)。

赤字会社を購入し、晴れて社長になる。

—— そしていよいよ起業するわけですね。

勤めていた会社の役員と取引先の社長とで会社を作ることになり、私も誘われて合流したのがスタートです。1994年のことです。当時は役員含めて5人の所帯。経験年数で言うと私は下から2番目の序列。まだインターネットが普及する前です。創業したものの色々な事情が重なり商売は軌道に乗らず、辞める社員も出て、資本金1,000万円の会社で赤字が1,200万円。当時の社長も「もう無理だ」と思ったのでしょう。会社を辞めると言いましたので、私が買うことにしました。

—— いくらで買ったんですか?

400万円で買いました。ただ、お金がありませんでした。母に頼み生命保険を解約してもらい200万円を用意しました。残りは当時付き合っていた彼女に200万円を借りました。彼女とは、その翌年に結婚しました。その200万円は、家計とは別に24回払いでしっかり返済しました(笑)。今考えてもよく貸してくれたと思います。
会社を買い取ってからは、海外格安航空券のネット販売をスタートしました。Windows95が発売され、パソコンやインターネットが身近になったのです。格安航空券や格安パッケージのネット販売は当たり、会社の業績も伸びました。

大胆な戦略展開で成長を加速

—— そうやって成長してきたのに2011年に業態を大きく変えるのですね。

東日本大震災がありました。その時に、これからの時代の流れ、高齢化社会や少子化、競合との差別化などを考え、決断しました。戦略を変えるタイミングも良かったのだと思います。
考えてみれば、お客様にとって1回1回の海外旅行は大変貴重で、思い出深い体験です。そんな海外旅行をもっと大切に扱っていこうという想いから、「安かろう悪かろうの商品」を捨てたんですね。
時代の変化に合わせて戦略転換をすることの重要性を改めて感じました。

—— 戦略転換後の業績は順調に行ったのでしょうか?

結論から言うと、順調に来ています。格安商品の販売と違い、オーダーメイド対応にはコストがかかります。そのコストは、お客様からきちんと頂戴します。しかし、お客様に満足いただかなければお金を頂戴できません。そうすると、社員は「どうしたらお客様に満足いただけるのか」と考え始めます。
たとえば旅工房のスタッフは、自らが行ったことがない国について「行ったことがあるように話す」ことはしません。また、ホームページには「スタッフの海外渡航歴を明示する」ようにしました。「そんなことを(笑)」と笑われるかもしれませんが、こういう小さな積み重ねが、お客様との信頼関係を築くことになりました。

一度は失敗した株式上場に再チャレンジ

—— 戦略転換をする中で、上場を目指そうと思われたのでしょうか?

それより前に一度、上場にチャレンジしているんです。2000年のITバブルの頃です。しかし、上場できませんでした。
実は創業20周年を迎える頃、母に癌が見つかり余命半年と宣告されました。母に対する最後のプレゼントとして2つのことを考えました。一つは本社オフィスの移転です。池袋生まれの私は、サンシャイン60が建設されるのを母と一緒に見ながら育ちました。ある意味憧れを持って見ていたサンシャイン60に旅工房を移転しました。そしてもうひとつは大学進学です。40歳を過ぎてから立教大学大学院に通い始め、MBAを取得しました。その過程で、会社とは何か、会社は誰のものか、会社が永続するためには何が必要かを考えるようになりました。一度は諦めた上場を再び目指そうと動き始めました。
この会社が20年目ということは、当時、ある意味私は「独裁オーナー」になっていました。そんな状態から、企業統治、コンプライアンスなど全て直していくことが非常に大変でしたね(笑)。まさに「意識改革」がないとできないことばかり。ここで数ヶ月余分に時間を使ってしまいました。ただ、業績は問題ありませんでしたので、監査法人を入れてからは最短のスケジュールで上場できました。

世界戦略はハイブリッド業態で

—— 今後の戦略について教えてください。

海外に目を移すと、エクスペディア、ブッキングドットコムといったオンラインサービスをグローバルに展開している会社があります。こういう会社とどうやって渡り合っていくのか。たとえば、初めてアフリカに行く人が、いきなりオンラインサービスだけで旅行を決めることは少ないでしょう。やはりプロのアドバイスを受けながら、安心できる旅行をしたいと思うはずです。
そうなると、オンライン専門のサービスに加え、日本独自のホスピタリティを活かした「オーダー対応もできるハイブリッド型の旅行会社」は世界の旅行者に必要とされるはず。これで世界展開を目指したいと考えています。

ありたい会社の姿と自らの夢

—— 社員のやる気を引き出すことも重要になりますね。

当社は社内恋愛を経てゴールインするスタッフも多いのですが、彼らが結婚して、その子ども達が大きくなった時に「私も旅工房で働きたい!」と言ってくれるような会社にしたいんです。子どもは親の背中を見て育ちます。子どもに「親は良い会社で働いているんだな」と伝わる、そんな会社でありたいですよね。

—— 最後に、高山社長の今後の夢を教えていただけますか?

10年単位で物事を考えています。現在は私は40代。上場もしてこれからが勝負どころだと思っています。50代では後継者育成ということを考えています。
また、自分が大学院で知見を深めたかったテーマとして「貧困、差別、平和」があります。修士論文は財団法人設立をテーマに書きました。個人的な夢として、将来「旅工房文化交流財団」を立ち上げ、発展途上国における観光開発、貧困問題の解決に繋がる活動をやりたいと考えています。
自分はまだまだ大丈夫と思っていても、年齢とともに心身がいつのまにか凝り固まってしまうものです。意識して変化に順応できる柔軟な姿勢を持つことが必要ですね。環境の変化はこれからますます激しくなると思います。固定観念を打破し、これからも新しいことにチャレンジしていきたいと思います。