起業の先人に学ぶ

スキルを活かした自由な働き方を可能にする【ランサーズ】

『時間と場所にとらわれない新しい働き方の創出』を経営理念に掲げるランサーズ株式会社。経営者としてはバランスが良く、器用に様々な業務をこなす。なんでも出来るので、器用貧乏なところがあると社員に評される秋好陽介氏が日本人の働き方に変革を起こす。

ランサーズ株式会社 代表取締役社長 秋好陽介(あきよし・ようすけ)
大阪高槻市生まれ。大学生時代にウェブサイトの作成やウェブコンサルを行い、ネットビジネスを個人事業として興す。2005年、ニフティ株式会社入社。ウェブディレクターとしてインターネットサービスの企画/開発を担当。仕事の受託者、発注者としてそれぞれの立場を経験し、スキルのある個人と仕事を依頼したい法人のマッチングサービスを思い立ち、2008年4月、ランサーズ株式会社(株式会社リート)を創業。同年12月、日本初のクラウドソーシングサービス「LanCErs」のサービス提供を開始。2013年2月、日本テレワーク協会 会長賞を受賞。著書に『WEB2.0の謎を解く』(C&R研究所)がある。

学生時代に個人事業主を経験

社長の秋好陽介氏

──どのような学生時代を送っていたのですか?

大学時代には、ほとんど大学生っぽいことはせず、個人事業主として仕事を受注していました。当時の政府が3つの成長分野として挙げていたバイオ、介護、ITのうち、自分でも出来そうだとITに関心を持ったので、すぐにパソコンを購入しました。WEBサイトの製作などを請け負っていたのですが、4年目には年商1000万円超くらいになっていました。

そのまま事業を続けることもできたのですが自分の成長が止まってしまうのでは、もっと広いビジネスの世界を知りたい、ということで大企業に就職しました。WEBの本流をのぞいてみたいという気持ちが強かったのです。

──起業のきっかけは?

学生時代の受注側とは反対に、就職した会社は発注側の立場となりました。仕事を依頼する側になると、フリーランス時代の知人の力を使ったほうがよりよいものがより早く、コストも押さえてできることがあっても、会社での稟議はおりず苦労をしました。それが起業するビジネスアイデアのきっかけであり、仕事を依頼したい企業と受注したい個人とをサイト上でマッチングするというビジネスモデルの骨格ができました。会社に勤務したことで発注者と受注者それぞれの立場を理解することができたのは大変良かったですね。

サラリーマン時代にブログを書いていましたが、読者の方が3000人ほど読んでいただいていました。当時は、WEB2.0がはやっていたので、ブログではCGMなどユーザー参加型のサービスを特集していました。これがきっかけで声がかかり本も執筆しました。ブログの読者の方でランサーズを利用してくれている方もおられます。

Lancersのロゴも同社のコンペ機能を使って選考された

──どのように起業されたのですか?

川崎市に事業計画を提出し審査を通過したので、公的機関の運営するインキュベーション施設に入れました。元々ビジネスモデルを作った際に、ある程度事業が確立するまでに時間がかかり収益化は先になることが分かっていましたので、できるだけ支出を抑えようとあえてインキュベーション施設を選びました。オフィスやコピー機などの設備が充実しているだけではなく、事業について指導もしてもらえるというメリットもありました。行政の施設は充実していますが審査の門は狭かったですね。

──起業資金はどのように調達されたのですか?

学生ベンチャーでネット事業を手掛けていたときに貯めたお金を事業資金の元手にしました。4年間続け最終的には、年商1000万円を越えるビジネスになっていましたので、自己資金で起業することができました。2008年12月に私とパートナーとで事業を立ち上げたのですが、悪戦苦闘の連続で起業して2年半はほぼ2人で事業を行なていました。

──いつごろから社員の採用を始めたのですか?

ここ1年前後だと思います。事業が拡大し始めてきましたので、外部に積極的にアプローチしたいと思い、様々な社内の機能を拡充していきました。現在は社員、インターンやパート、アルバイトも含めると30名程度になります。

採用には求人媒体、紹介会社、自社サービスを使っています。コーポレートサイトへの問い合わせもありますし、フリーランスの人材紹介会社からも良い方をご紹介いただいています。今年4月からはインターン生が1名入社します。元々社員同様に働いていたのですが、非常に優秀ですし、本人も就職を希望してくれたので採用しました。彼は、論理的思考能力とベースとなるPCの操作スキルが高い。もともとWEBに触れて育ってきたデジタルネイティブ世代なので、知識がありしかも若い。今後は積極的に新卒も採用したいと考えています。

メンバーのモチベーションを高めているのは『このサービスは世の中に必要とされているんだ』という実感をもって、前進していく夢や情熱だと思います。メンバー同士の交流は活発でメンバーが自発的に意識合わせの会議をしたり、誕生日のメンバーを祝福したりしていますね。

ランサーズ社内風景

──仕事を依頼したいクライアントと仕事をするランサーはどうやって増やしたのですか?

事業のスタート時はロゴのコンペサービスとして開始致しました。当初はカテゴリーを絞り、ロゴ、依頼方式もコンペ方式に特化していました。クライアントからオーダーが集まってくるように仕掛けをしたのですが、クライアントと仕事を請けるランサーそれぞれがいなければビジネスモデルは成立しません。クライアント側の企業を集めるために知人や友人に声をかけたり、リスティング広告などを行いました。ランサーの方は私の書いていたブログの読者の方だったり、個別にお声がけしたりして集めました。いずれも地道な活動だったのですが、1回利用頂くと満足度が高いため、受注側からの口コミでどんどん広がっていきました。

起業してから1カ月間はほぼ動きがない状態でした。その後も件数は伸び悩み、創業して2年経っても明るい兆しは見えない厳しい状況が続きました。2010年くらいには週300~400件程度は仕事が来るようになったのですが、1件で受け取る手数料率は微々たるものですので、なかなか事業としてやりくりするには厳しい状況でした。

弊社のランサーズのロゴも最初の頃に自社サービスを活用しコンペで募集しました。フリーランサーとは『自由の騎士』という意味で、中世ヨーロッパの十字軍の時代に槍一本で戦場に行き稼いでくる兵士を指していました。そのような社名の由来や想いなどを伝えて、ロゴのアイディアが集まってくるのです。最近はスマートフォンアプリのアイコンの製作依頼も増えています。

起業してまもないベンチャー企業は経営資源が潤沢ではないため、上手に外部リソースを活用することが必要です。そしてその足りないリソースはランサーズにあります。エンジニアがいなければチームにオンラインで加わってもらうことできるし、デザイナーがいなければお願いしたい仕事を依頼できる。必要な時に必要な用件だけ力を貸してほしい、というニーズに応えることができるのが弊社のサービスです。ランサーズは個人事業主とフリーランスの双方に活力を与えることができるというのも、ランサーズの一つの特徴だと思います。

ビジネスモデルの要は仮払いの仕組み

ランサーズのメンバーたち

──ブレイクポイントはいつ頃だったのでしょうか?

震災直後から変わってきたように感じています。2011年にノマドという言葉が流行ってきたのですが、その頃からフリーランスを表現する言葉が増えてきたというのもあるのではないでしょうか。多くの方に知ってもらい使って頂くことで、クチコミが広がりましたし、会社自体の露出も増えてきました。

コンペ方式やプロジェクト方式で依頼されるお仕事のジャンルはエンジニアリング、デザインなどのスキルのある方むけの仕事でしたが、データ入力やライテイングなどの単純作業を大人数が一度に作業することで仕事が短時間で終わるタスク方式というサービスを追加したのも利用者を拡げるきっかけになったのではないかと思います。タスクはPC操作さえ使えれば基本的にはどなたでもできる仕事内容ですので手がけやすいものです。

またプロジェクト方式において、2011年12月から日本で初めてオンラインでの時給制の仕事依頼方式を取り入れました。これは、1時間単位で仕事を発注できるものです。ハードウェアの進化による働き方の多様化も成長のきっかけになったと考えていますが、それらが相まってサービスが徐々に成長してきたのだと思います。サービスの細かな修正を重ねていますので、試行錯誤の数だけサービスは改善されて進化してきているとは思います。

──ビジネスモデルの要はなんでしょうか?

これがあるから、というようなものではなく、複合的なものかと思います。特に苦労した点であり、サービスを始めるうえで重要視していたのは、決済方式ですかね。クライアントは支払いを先に実施すると納品されないリスクがあり、受注者側では納品しても支払われない、減額されるというリスクがあります。

そこでランサーズが間でお金を預かり、受注者の方から発注者の方へ納品物をご納品頂いてからランサーズからお預かりした金額をお支払いするという仕組みにしています。最初にサービスを提供する際に料金の仮払いの仕組みを導入することは必須であると考えておりました。またそれは差別化の大きなポイントとなっています。最初はクレジットカード会社に断わられたのですが、代理店に交渉してようやく仕組みをつくることができました。これがなければビジネスモデル自体が成立しなかったでしょう。

──今後のビジョンを教えてください。

会社の信頼値を高め、海外でも勝負できるサービスにしていきたいと考えています。クラウドソーシングという言葉や思想は元々外来のものなので、そこを和製もので戦ってみたいという気持ちはありますね。

ランサーズは日本初かつ、日本最大のクラウドソーシング。エンジニアリング、デザインの分野を中心に皆さんのお役に立てるので、何か困ったことがあれば、ぜひランサーズを利用してみてください。12万人のスキルのあるフリーランスの方々がきっとみなさんのチカラになるかと思います。

企業データ

企業名
ランサーズ株式会社
Webサイト
設立
2008年4月
所在地
〒248-0006 神奈川県鎌倉市小町2-7-32 小町協同ビル3F

掲載日:2013年5月23日