起業の先人に学ぶ

落花生に文字を刻印して食べられる名刺【ありがとう】

落花生に名前を刻印して食べられる名刺を開発。そんなユニーク商品を売っている会社が名古屋にあります。

前畑 猛剛(まえはた たけつよ)
大阪に本社を置く大手電機メーカーで営業企画を担当。2000年、50歳を機に退職。経営コンサルタントに転身する。2006年7月に株式会社 ありがとうを設立。現在、代表取締役を務める。

赤飯業者のコンサルから生まれた技術

前畑 猛剛 代表取締役
前畑 猛剛 代表取締役

——まず前畑社長が開発した食べられる名刺「タベルメ」の開発の経緯をお聞きしたいのですが?

私は、マネーと経営のコンサルタントをしています。クライアントの売り上げを伸ばし、利益を増やすのが私のやるべきことなのですね。

いまから2年ほど前、老舗の赤飯製造業者からコンサルタントの依頼がありましてね。赤飯というのは祝い事の席での需要が多いのですが、業界全体の業績が減少している。その業者もそうだったのですが、このままでは経営が立ち行かなくなることは目に見えているのでなんとかならないか。そういう依頼だったわけです。

以来赤飯の増販増収のために何ができるかを、ずっと考えていたのですが、結局赤飯は祝い事にしか生きる場面がない。では、その祝い事をもっと強調する方策はないのか、と突き詰めていったら、アズキに「祝い」とかのおめでたい文字を入れればいいのではないかと思いついたわけです。

知り合いの機械加工業者に、文字を入れることは可能かと聞いたら「できる」というので具体的に話を進めていきました。要するにレーザーを使って文字を刻印するのですが、パレットにアズキを入れて50粒をわずか数秒で刻印できるという技術です。

名刺代わりに落花生へ文字を刻む「タベルメ」

——クライアントの反応はどうだったのですか?

私は「これはおもしろいアイデアだ」と思ってクライアントの業者に提案したのですが、最初彼らはあまり乗り気ではなかったですね。私の方が夢中になって、その文字を掘り込む技術の特許をとったりしながら、ついには2006年7月には株式会社ありがとうを設立して、本格的に食材に文字を刻み、販売する事業に取り組むことにしました。

ただ設立当初は、技術とアイデアはあったけれども商品がなかったのですよ(笑)。それでもとが赤飯製造へのコンサルタントから始まった話なんで、名古屋市内の150軒あった和菓子店を回ったりしていましたね。

——その結果はいかがでしたか?

商品もないのですから、もちろん全滅ですよ(笑)。並行して商品開発にも取りかかったのですが、木の葉に文字を刻印したらどうなるんだ、種に刻印したら生育したときに文字が浮かび上がるんじゃないのかと遊び感覚が先行してしまって、なかなかこれぞというのが開発できない。ただ、さまざまな食材でテストをしているうちに落花生に文字を刻むのが一番いいというのが見えてきて。

——なるほど。落花生が一番いいというのはどういうことからですか?

まず文字がきれいで見やすい。相応の大きさなのでかなりの文量を刻印できる。1個の落花生の殻にメールアドレスぐらいは楽々入りますし、2列、3列にすれば30文字くらいは余裕です。それでこの落花生を使ってよりインパクトを与えるためには、名刺代わりにするのがいいなとアイデアが浮かんで、食べられる名刺という意味をこめた「タベルメ」という商品が誕生したのです。

営業するうちに名古屋市内のスナックや飲食店が、店名や電話番号を書いて箸置きに使ってくれることが多くなった。でも一番名のブレイクになったのは、ドリームゲートへの出場と大手経済紙の掲載だったですね。

——ドリームゲートの出場を決めたのは?

メディアへの露出については常に念頭にありましたけれど、かといって安易に扱われたくもない。この技術と将来性については自信がありましたから、なにかきっかけがあればメディアを扱ってくれるだろうと考えていました。

それまでも地元の異業種交流会に積極的に参加して、「タベルメ」の知名度を上げようと試みてきたのですが、その効果をさらに上げようとドリームゲートへの出場を決めたのです。

ご存知のとおりにドリームゲートとは、ベンチャー企業の独立・成長を支援する団体ですが、そこの大会にエントリーしました。中部大会は優勝し、07年3月に開催された全国大会では準優勝を飾ることができました。

その過程を地元メディアが密着取材してくれたり、また大手経済紙が「タベルメ」を取り上げてくれたりして、それからですね。知名度が上がり、売り上げが伸び始めたのは。

——どんな違いがありましたか、出場前と出場後では。

現在では首都圏にある大手雑貨店が取り扱ってくれたり、また地元の企業と取引が始まるなど大きな動きが出てきましたね。

昨年3月からは本格的にホームページを立ち上げたのですが、この「タベルメ」がおもしろいということで海外のメディアが取り上げてくれましてね。ヨーロッパとかカナダでも紹介されました。そうしたら月に10本以上もメールなどで海外からも引き合いが入るようになって、これには自分も驚いています。

——今後の展望はどうお考えですか?

玄米、アズキなどに文字を刻む

現在、「タベルメ」以外に幸福の種シリーズというのは開発・販売しています。赤米に絶対合格と刻印した「絶対合格飯(はん)」とか、感謝の気持ちをこめてありがとうと刻印した「おかげ飯(はん)」など、少々遊び心を強調した商品なのですが、これが受験生など集まる神社などで人気の商品になっています。

今後は全国的に販売ルートを確保するために代理店制度を充実させながら、さらにネット販売に力を入れていきたいと思っています。

それで世の中の穀類や豆類全部に良き言葉、元気になる言葉が刻印されて、それを皆が食している。そんな社会になったらいいですよね。なによりもおもしろいじゃないですか。

企業データ

企業名
株式会社 ありがとう
設立
2006年7月4日
資本金
950万円
従業員数
30人(アルバイトを含む)
所在地
愛知県名古屋市千種区内山3-10-19
Tel
052-745-2333

掲載日:2008年 1月 8日