中小企業とSDGs

第24回:わかめで日本の未来を切り拓く「有限会社うずしお食品」

徳島県の北東部、鳴門市を拠点とする、うずしお食品は、世界最大級の渦潮がある鳴門海峡で育った「鳴門わかめ」の加工販売会社だ。鳴門わかめは、全国3位の生産量を誇る徳島県ブランドで、元来より地元民に愛されてきた。同社は、江戸時代より続く鳴門わかめの伝統を守り、わかめ業界全体のため、果敢にSDGsの取り組みを行っている。 

2022年 4月25日

鳴門わかめ
鳴門わかめ

歴史ある鳴門わかめの可能性を追求

収穫・加工の様子
収穫・加工の様子

同社は、1977年の創業以降、歴史ある鳴門わかめの加工にこだわり、湯通し塩蔵わかめや生わかめなど多彩な商品を生み出してきた。地元・鳴門市が2014年度に始めた「徳島県鳴門わかめ認証制度」では、第1号認定事業者となり、安心・安全なわかめを通して、徳島県の水産業界を牽引している。とくに、冷凍わかめは、地球温暖化による生産量の減少が進むなか、わかめ市場の維持や安定した歩留まりを上げる秘策として10年以上も前から開発を進めてきたもの。ようやく商品化にこぎつけた冷凍わかめは、市場全体を活性化させるものとして、各メディアからも注目されている。

このように同社がわかめの可能性を追い求めてきた背景には、取締役社長である後藤弘樹氏の「もったいない」という想いがある。後藤氏は「日本の現状を変える必要がある。自給率が低く、ほとんど輸入品に頼っている今の状態では、この先10年はもたないだろう。スーパー、コンビニで手軽に食料を買うことができるがゆえに、この危機感に日本人は気づいていない」と指摘する。すでにアメリカでは、30年以上も前から資源ごみの分別やリサイクルを行ってきているのに対し、日本はいまだにごみの削減や埋め立てなど解決すべき問題を数多く抱えているのが実状だ。

こうした「フードロスをなくしたい」という後藤氏の想いは、2021年10月に発売を開始した「鳴門わかめのからだにやさしい塩」によって形として実現した。わかめを商品化する際に廃棄されてしまうわかめの根っこの部分をパウダー状に加工することで、環境にも健康にもやさしい新商品を開発したもので、いわば後藤氏の想いが日本全国の食卓に届けられているのだ。

うずしお食品代表取締役社長の後藤弘樹氏
うずしお食品代表取締役社長の後藤弘樹氏

さらに後藤氏は「鳴門市や徳島県だけでは限界がある。四国が一丸となって日本を支えたい」との想いを発信。すると四国全体で共感を呼び、四国を盛り上げたいとする顔ぶれが集結した。香川県高松市の製麺所は粉末加工した鳴門わかめを練りこんだ「わかめ細うどん」を製造し、高知県高知市のベーカリーショップでは鳴門わかめを生地に使用したパンを考案、愛媛県宇和島市の練り物屋では鳴門わかめとじゃこ天をコラボした商品を販売している。この「チーム四国」の動きは海を越え、今では、広島県内の洋菓子店のプリンとのコラボや岐阜県内の和菓子屋のあられとのコラボに向けて進み出している。さらに、わかめの生産量トップを誇る東北・三陸地域へも同社のスタイルを展開していくことを視野に入れている。

「陸から海へ、海から陸へ」の循環を構築

SDGsが叫ばれるようになる30年以上前から日本の将来を見据え、画期的な新商品の開発、環境に配慮した取り組みに着手してきた後藤氏が次に構想するのが、畜産や農業、林業、漁業が一体となった取り組みだ。それは、陸から海へ、海から陸への循環を構築すること。後藤氏は「人間が廃棄してしまう、もったいない部分を動物に活用できるのではないか。海に直接栄養を与えることも大切だが、畜産や農業、林業を通して、栄養のある水を海に流してもらうことが大切」と訴える。

同社は、徳島県内の養豚場の協力のもと、廃棄されてしまうわかめを家畜の飼料として活用するプロジェクトを開始した。生わかめの端材を粉砕機で粉々にしたものを配合して作った「特別な飼料」を家畜に与えることで、従来与えていた飼料より効果があるなどの検証を進めている。検証の結果によっては、家畜に与える影響だけでなく肥料への活用など、中長期的な取り組みにつながる可能性もあり、様々な分野での活用が期待されると思う。

後藤氏は、「世界に先駆けて日本発信型をつくっていきたい。日本には無駄にしているものがまだまだいっぱいある」と指摘する。海外では侵略的外来種ワースト100に選出されているわかめだが、今後の食糧難に向けて、わかめが食糧危機を救う資源として活用されることを望んでいる。

実際、国連食糧農業機関(FAO)の研究では、今後の食糧危機を救う手立てとして海藻食が挙げられている。加えて、光合成でCO2を吸収する海藻類を含めた海洋生態系が地球温暖化の緩和に大きな役割を果たせる、ということを明らかにしている。世界中で海藻を捕食するようになれば、海藻類であるわかめや昆布の養殖が進み、食糧危機から脱却するだけでなく、CO2の吸収を19%も向上させるというのだ。「未来食」としてわかめが持つ可能性は今後さらに広がっていくことだろう。

本当の意味での持続可能性を進めたい

従業員と共に
従業員と共に

わかめ業界を盛り上げていくうえで避けて通ることはできない問題は、水産業界全体が直面している後継者不足だ。後藤氏も「江戸時代より続く鳴門わかめの伝統を守るべく、後継者を育てていきたい」との強い想いを抱いている。その一方で、後継者がいれば持続可能性を達成できる、とは考えていない。「後継者の数ではなく、後継者の質が必要である。後継ぎがいても魚が取れない、植物が育たない土壌では引き継いでも意味はない」と後藤氏は訴える。

「資源がない国だからこそ、本当の意味での持続可能性を進めていきたい」(後藤氏)として、時代のはるか先を行く同社の取り組みに時代が少しずつ追いついてきている。同社は今後も果敢にSDGsに取り組む姿勢だ。

企業データ

企業名
有限会社うずしお食品
Webサイト
設立
1977年
資本金
1800万円
従業員数
20人
代表者
後藤弘樹氏
所在地
徳島県鳴門市里浦町里浦字花面350-32
事業内容
わかめの加工販売

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