中小企業とSDGs

第21回:魔法の技術でアクリル接合を実現「株式会社Paddy Field」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2022年 3月16日

特許技術「TAKUMI」
特許技術「TAKUMI」

株式会社Paddy Field は2015 年設立のアクリルパーテーションを中心としたアクリル製品メーカーだ。昨今よく目にするアクリルパーテーションだが、同社は特許技術「TAKUMI」を活用し組み立て分解が可能なアクリルパーテーションを製造している。

樹脂パーツ同士を接着剤不使用でジョイントすることを可能にした「TAKUMI」は、これまでのアクリル加工の常識を覆す画期的な技術で、凹凸のジョイント部分に波型の切り込みを入れることで板バネ状態とし、弾力を発生させている。この弾力がこれまで不可能といわれたアクリル同士の接合を可能にした。耐久試験で約1000回の取り外しに対応できることも実証されている。加工作業も特殊な機械やスキルは不要で、既存のレーザー加工機で誰でも加工できる。田窪社長は文系出身でアクリル加工については全くの素人だったが、この画期的な技術を発明し、それがSDGs へ貢献する同社製品を生み出している。

必要な時にその場で組み立て

組み立て分解可能なアクリルパーテーション
組み立て分解可能なアクリルパーテーション

同社がSDGs を意識するようになったのは、ごく最近のこと。2019 年12 月に奈良工業高等専門学校の須田准教授に声を掛けられ、SDGs 勉強会に参加したのが始まりだった。勉強会はSDGs と企業の事業との関連性を見つけ、事業活動に活かしていくという内容で、それまでSDGs という言葉は知っていたものの、身近な問題として認識していなかった田窪社長は、同社の「TAKUMI」を活かしたアクリルパーテーションそのものが、まさにSDGs に貢献する商品だと気づくことができたという。

組み立て分解が可能という同社の製品の特徴は非常事態の際に発揮される。災害発生時に避難所になる体育館では、大勢での共同生活を余儀なくされるためプライバシーを守ることが難しい。同社のアクリルパーテーションを分解して各避難所に保管しておけば、災害時に組み立てて避難者のプライバシーを守ることができる。透明なアクリルだが、不透明なシートを貼るだけで視線を遮ることができるため、簡単にプライベート空間を創出することが可能だ。これはSDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に該当する。

災害発生時に、迅速に、しかし不要時はスペースを取らずに保管できる同社アクリルパーテーションは災害が多い日本に最適な製品だろう。新型コロナウイルス感染防止策のアクリルパーテーションや、避難所でのパーテーションのほかにも、家庭のインテリアや立体型のパズルに似た玩具・教材としても活用されている。素材や形状を変えれば他にも様々に活用できる可能性があり、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」にも貢献すると考えられる。

環境にやさしい組み立て分解式

玩具などの派生商品
玩具などの派生商品

同社の製品は、繰り返し使用可能なアクリルパーテーションということに加えて「TAKUMI」の技術で、厚さ3ミリで6 面体のアクリルボックスの場合、容積94%を削減することができる。不使用時に分解して保管することで、使い捨てにする必要がなく、無駄な生産を防ぎ廃棄物の排出を減らすことが期待できる。

最終的に不要になれば再生利用も可能だ。接着剤不要の同社のアクリル製品は、アクリルという単一の素材で構成されている。異なる素材を分別し、付着物を取り除く必要がないため、再生利用では大きなメリットになる。同社のアクリル製品は、3R(Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル))やシェアリング等の資源循環と収益性を両立させたサーキュラー・エコノミー(循環経済)を実現した製品で、これらは目標12「つくる責任、つかう責任」につながる。

わずかなスペースで大量のアクリル製品を輸送することができ、トラック輸送時の排気ガス削減にも貢献する。余分なエネルギーの使用を抑えることができるため、目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」にも貢献している。

異業種や自治体との連携も視野

田窪社長
田窪社長

同社は2020年9月、「TAKUMI」の技術を用いた商品企画・開発・販売のため、中小機構の運営するインキュベーション施設「クリエイション・コア東大阪」に入居した。施設周辺の企業との共同開発や異業種交流の機会が多いなど利点が大きいからだ。

入居後はアクリル以外の素材を活用した製品の開発に挑戦したり、ピッチ会に登壇したり、積極的に事業拡大に取り組み、東大阪市の周辺企業と「チームTAKUMI」を結成し、医療用エアロゾルガードボックスを開発し医療機関へ提供している。このような取り組みは目標17「パートナーシップで目標を実現しよう」にあてはまるが、田窪社長は今後自治体との連携も模索していきたいと話す。

同社は、会社の方針として事業拡大はもちろん『従業員とその家族を大切にする、協力会社とその家族を大切にすることを優先し「利他の心」を忘れずに真の「いい会社」を実現する』を掲げている。田窪社長と娘さんの2人で会社を運営している同社だが、この方針を忘れず、将来は新たな従業員を迎え、目標8「働きがいも 経済成長も」を体現する企業を作っていきたいと言う。「クリエイション・コア東大阪」入居の際の目標でもあった「世の中の役に立つ事業・商品の加速」「環境保全、SDGs 活動の推進・訴求」に力強く取り組む同社の今後に注目だ。

企業データ

企業名
株式会社Paddy Field
Webサイト
設立
2015年12月
資本金
100 万円
従業員数
1人
代表者
田窪政博氏
所在地
大阪府東大阪市荒本北1-4-1 クリエイション・コア東大阪 南館2103号室
事業内容
アクリル等の樹脂や木材・金属等を使用した商品企画、製造、販売、販促商品等オリジナルグッズの企画、製造、販売

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