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パーパス経営とはなんでしょうか? 中小企業が取り組むメリットとあわせて教えてください

2023年 3月 24日

パーパス経営とはなんでしょうか? 中小企業が取り組むメリットとあわせて教えてください

回答

パーパス(purpose)の直訳は「目的、意図、意義」などで、企業経営では「志」や「企業の社会的な存在意義」という意味で使われます。つまりパーパス経営とは、自社の存在意義を明確にし、いかに社会に貢献するかを定め、それを経営の軸として事業を行うことといえるでしょう。主として「人」の変化を促すものであるため、大規模な設備投資は不要ですし、スピード感を持って取り組める中小企業とは好相性だと思います。取り組むメリットは、ステークホルダーからの支持の拡大、従業員のエンゲージメント向上などが挙げられます。

「対社会」の視点で企業の存在価値を描き、それを経営の軸にすること

「パーパス経営」は、従来の経営モデルとどのように異なるのでしょうか。そして、なぜ高い注目を集めるようになったのでしょうか。

「パーパス」と混同されやすい言葉として「ビジョン」「ミッション」「バリュー」があり、これはそれぞれ「ビジョン=企業が目指す未来像」「ミッション=企業が果たすべき使命」「バリュー=企業の価値観や行動指針」などと定義されます。これらを「ビジョン=どこを目指すのか(Where)」「ミッション=何をするのか(What)」「バリュー=どのように実現するか(How)」と言い換えた場合、パーパスは「なぜ社会に存在するのか(Why)」に当たるでしょう。ここが両者の大きな違いです。また、特に「ミッション」と「パーパス」には近い部分もありますが、パーパスの方が「社会にどのような価値を提供するのか」という「対社会」の視点が強く出ている点も特徴といえます。

このようなパーパス経営が脚光を浴びているのには、いくつか理由があります。その一つは、近年のサステナビリティを重視する社会全体の動きと、消費者の間における人や社会・環境に配慮した「エシカル消費」の気運の高まりです。また、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に対する企業の取り組みを考慮して投資先を決める「ESG投資」の広がりも深く関わっているでしょう。

また、1980年代〜90年代半ばに生まれた「ミレニアル世代」の台頭も大きな要因の一つです。物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを重視し、社会貢献への思いが強いこの世代にとって、「対社会」を軸としたパーパスに基づいて事業を展開する企業は、共感を呼ぶ可能性が高くなります。次代を担う彼らの支持を得ることは、顧客を獲得するという意味でも、人材を獲得するという意味でも、企業にとって大きな力になるはずです。

パーパスとビジョン・ミッション・バリューの相関イメージ

パーパス経営は中小企業と好相性でメリットも多い

パーパス経営に取り組むメリットの一つとして、「ステークホルダーからの支持の拡大」を挙げました。前述したような社会の流れの中で、パーパス経営に真摯に取り組む企業は、顧客からも、株主からも、また労働市場にいる人材からも、評価される可能性がますます高まっています。それがひいては、自社のブランド価値を向上させ、売り上げを増やすことにつながっていくわけです。

また、そのような企業で働く従業員にとっても、自分が何のために働いているのか、その意義をはっきりと見いだせないような状況より、社会に対する会社の貢献のあり方が明らかになり、仕事の意義も明確化された状況の方が、仕事へのモチベーションも、会社へのエンゲージメントも高まるのは自然なことだと考えられます。

さらに、企業として社会へどのような貢献をすべきかを「パーパス」として掲げることで、日々の事業を遂行する上でもさまざまなプラスの効果が表れるでしょう。例えば、従業員の間に一体感が生まれやすくなるでしょうし、指針に沿った的確でスピーディーな意思決定も行いやすくなるはずです。さらに、なすべきことが明確になり、従業員のモチベーションも高まった分、アイデアも生まれやすくなり、変化やイノベーションが起こりやすい企業文化の醸成にも期待がもてます。

そして、冒頭でも触れたように、パーパス経営は主に「人」へアプローチするものですから、大規模な設備投資などは基本的に必要としません。大企業に比べれば従業員数が少なく、小回りが利き、意識の浸透もさせやすい中小企業にとっては、非常に相性がいい経営モデルといえそうです。

パーパス経営をいかに実践するか

では実際、パーパス経営への取り組みはどのように進めていくべきでしょうか。これは単にパーパスを定義すればよいというものではありません。パーパス経営を有効な形で実践するには、以下のようなステップを踏みながらしっかりと進め、パーパス定義後の実践中も定期的な確認が必要になります。

1. パーパスを定義して明文化する

まずは自社のパーパスを定義し、明文化します。その際は、多様なステークホルダーの視点から考えることが重要で、顧客にインタビューを行ったり、従業員を策定に参画させたりするとより効果的でしょう。以下1〜5が検討のポイントになります。

  1. 「社会への貢献」に関する内容であること
  2. 自社の事業に関連した内容であること
  3. 従業員が共感できる内容であること
  4. 現実的で実現の可能性がある内容であること
  5. 分かりやすい言葉で明文化すること

2. 社内への浸透に努める

次に、従業員への浸透と、全社でパーパス経営に取り組む体制づくりを行います。具体的には、「パーパス浸透のための従業員教育を継続的に実施する」「社内のコミュニケーションを活性化させる」「パーパスを経営戦略や中長期の事業計画に落とし込む」といったことが考えられます。

3. パーパスを実践し、顧客の共感を醸成する

最終ステップで行うのは、パーパスの実践と顧客の共感を得るための活動です。パーパスに則した企業活動を実践し、その活動と自社のパーパスを積極的に発信する。その上で、活動がパーパスに即しているかを定期的にチェックすることも忘れないようにしましょう。

パーパス経営などと聞くと、「また新しい経営論か」と感じる方もいるかと思いますが、実はそんなことはありません。例えば、古くから近江商人が心得としてきた「売り手良し、買い手良し、世間良し」の「三方良し」と同じく、パーパス経営でも「社会貢献」の重要性が唱えられています。新型コロナウイルスの感染拡大、急激な円安など、変化の激しい現代だからこそ、改めて自社の「パーパス」は何かを考えてみれば、それが環境変化に強い企業に成長するための足がかりになるかもしれません。

回答者

中小企業診断士・ITストラテジスト 佐高 翔太

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