市場調査データ

タクシー(2023年版)

2023年 4月26日

タクシー業界は、コロナ禍におけるイベントの中止や、移動・外出の自粛傾向、オンラインの活用といった社会の変化により、大きな打撃を受けた業界の一つだ。一方で、近年の「配車アプリ」などの浸透による利便性の向上が、新規ユーザーの掘り起こしにつながっているという側面もある。コロナ禍の発生から3年余りとなる現在の利用状況はどうなっているのか。20代以上の男女1000人に聞いた。

1.現在の利用状況

〈図a〉タクシーの利用状況(n=1000)
〈図a〉タクシーの利用状況(n=1000)

タクシーの現在の利用状況を聞いた設問において、最多は「数年に1回程度利用している」の322人(32.2%)となり、「かつて利用したことがある」の267人(26.7%)、「半年〜1年に1回程度利用している」の215人(21.5%)が続いた。一方で、「月に1回程度以上利用している」といういわゆるヘビーユーザーは合計でも74人(7.4%)にとどまり、「定期的な利用」ではなく、「必要に応じた利用」というタクシー利用の傾向が顕著に現れた。

ちなみに、2013年に本コーナーで実施した市場調査においては、「よく利用している」「たまに利用している」を合わせた利用率は49%。この数値の条件を今回の調査に照らし合わせると、「かつて利用したことがある」と「まだ一度も利用したことがない」を除いた69.5%に当たる。本調査においては、直近10年間でタクシーの利用率は20%程度増加したと考えることができそうだ。

2.性別・年齢別に見た利用状況の内訳

〈図b〉性別・年齢別に見たタクシー利用状況の内訳(n=1000)
〈図b〉性別・年齢別に見たタクシー利用状況の内訳(n=1000)

性別・年齢別に見たタクシーの利用状況の内訳〈図b〉を見ると、1年に1回程度以上利用するというアクティブユーザー層の割合は、60代以上男性が最も高く、唯一50%を超えた。この背景には、免許返納制度の浸透もあると考えられる。だとすれば、高齢化率の上昇が予想されるこれからの日本において、タクシーニーズの高まりも期待できるかもしれない。記述式自由回答欄で「自家用車があるのでタクシーを使う必要がない」と指摘した多くの人も、ゆくゆくはタクシーユーザーに変わっていく可能性もある。実際、「免許を返納したら利用が増えると思う」と将来を見据えた意見も散見された。

3.利用にかける費用

〈図c〉タクシーの利用にかける費用(n=1000)
〈図c〉タクシーの利用にかける費用(n=1000)

タクシー1回の利用にかける費用感を聞いた設問において、最多は「1000円〜2000円未満」の459人(45.9%)。続く「500円〜1000円未満」の223人(22.3%)、「2000円〜3000円未満」の178人(17.8%)と合わせ、「500円〜3000円未満」の層で86%を占めた。一方で、1回に5000円以上かけるという高額利用者は14人(1.4%)にとどまっている。こうしたことから、一回の利用単価を大幅に上げる方法よりも、多くのユーザーを捕まえて回転数を上げる方法を考える方が、ビジネスの糸口は見つけやすいといえるかもしれない。

4.利用手段(つかまえ方)の傾向

〈図d〉タクシーの利用手段(つかまえ方)の傾向(n=1000)
〈図d〉タクシーの利用手段(つかまえ方)の傾向(n=1000)

タクシーの利用手段(つかまえ方)について聞いた設問で、最も多かったのが「駅や空港などのタクシープールの利用」の360人(36.0%)。続く「迎車の利用」の268人(26.8%)、「通りすがりの空車の利用」の243人(24.3%)も比較的多かった。ただ、まだサービスが登場してからさほど経過していない「配車アプリ」のユーザーも75人(7.5%)と少なからず存在していることは注目に値する。記述式自由回答欄では、「配車アプリはとても便利」「アプリならクーポンも使えてお得」「タクシーを呼びやすくなったし、支払いもしやすくなった」といった声が目立った。

5.コロナ禍の影響

〈図e〉コロナ禍がタクシーの利用に与えた影響(n=1000)
〈図e〉コロナ禍がタクシーの利用に与えた影響(n=1000)

コロナ禍がタクシーの利用に与えた影響に関しては、「利用頻度・利用方法ともに影響はなかった」が689人(68.9%)と大多数を占めた。一方で「利用が減った」の168人(16.8%)も決して少なくはない数字だ。記述式自由回答欄では、「この時期に密室空間で移動するのは避けたい」というタクシー利用によるコロナ感染そのものを懸念する声のほかに、「出張時の利用が多かったが、出張自体がなくなった」「これまでは旅先で利用していたが、旅行をしなくなった」「飲み会の帰りに使っていたが、飲み会も少なくなった」というコロナ禍による行動変容が利用の減少につながったとする声も多かった。

半面、「利用が増えた」の37人(3.7%)からは、「人の多い電車やバスに比べればタクシーの方が安心」という声も上がった。このほかに多かった「コロナが落ち着いたら使う」といった意見も含め、もはやタクシーの利用判断には「感染状況と感染への懸念」が大きく影響していることがうかがえる。ビジネスとして考える場合、コロナ禍を経て大きく変わった市民意識を踏まえ、感染状況に関する正確な情報をキャッチしつつ、衛生面や感染対策に対する意識をこれまで以上に高く持つことは、ビジネスにとって欠かせない視点になりそうだ。

6.今後の利用意向

〈図f〉今後の利用意向(n=1000)
〈図f〉今後の利用意向(n=1000)

タクシーの今後の利用意向を聞いた設問において、最も多かったのは「どちらとも言えない」の384人(38.4%)。「ぜひ利用したい」(104人)、「どちらかと言えば利用したい」(254人)を合わせた358人(35.8%)よりも多数となった。前述した感染への懸念やコロナ禍による行動変容以外に関しては、「料金が高い」という指摘が多く、昨今の食品や日用品、光熱費などの値上がりラッシュの中にあって「タクシー代は節約する費用」という趣旨の意見も少なくなかった。一方で、「高齢者がいるためタクシーは移動手段として欠かせない」という声もあり、タクシーの捉え方は家庭の状況によって大きく異なるようだ。

7.性別・年齢別の今後の利用意向

〈図g〉性別・年齢別の今後の利用意向(n=1000)
〈図g〉性別・年齢別の今後の利用意向(n=1000)

タクシーの今後の利用意向について、性別・年齢別の割合を捉えた〈図g〉を見ると、「ぜひ利用したい」「どちらかと言えば利用したい」を合わせた積極的な回答の割合が最も高かったのは30代女性となり20代女性、60代以上女性が続いた。同世代の男女を比べてみると、全世代で女性の方がタクシーの利用に前向きな割合が多くなった。そんな中、男女ともに比較的利用意向の割合が低いのは40代、50代となった。

8.まとめ(ビジネス領域としてのタクシー)

今回のアンケートでは、タクシーの利用率は69.5%となり、2013年調査時より20ポイントも上昇していることがわかった。ただ、その多くが「定期ユーザー」ではなく「スポットのユーザー」で、コロナ禍によるマイナスの影響も顕著に現れていることは頭に入れておくべきだろう。今後の利用判断にも新型コロナの感染状況が大きく影響してくることは間違いなさそうだ。

一方で、コロナ禍以前にタクシーを利用するケースが多かった観光やビジネスは、ある程度の揺り戻しが期待できる。観光においては、入国の際の水際対策が緩和されたため、インバウンド関連のニーズはまず間違いなく高まってくるだろう。ビジネスにおいても、オンラインと対面それぞれのメリットを掛け合わせたスタイルが定着しつつある。ただ、コロナ禍以前からの市民意識の変化を踏まえ、衛生意識を高く持ち、アプリや支払いの方法を整えるなど、タクシービジネスもニューノーマルスタイルを模索すべきかもしれない。

今後の利用意向の割合は比較的女性の方が高いが、現在のアクティブユーザーの割合が最も高いのは60歳以上の男性。免許返納がより社会に広がった時を見据えると、高齢者への意識や配慮はビジネスにとって不可欠になってきそうだ。業界への参入を考えるなら、前述のような現状に加え、こうした将来の展開も見据えることが、ビジネスとしての違いや強みの発見につながるかもしれない。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を基にした一般的な内容になっています。個別の施策等を検討される際には、別途、専門家に相談されることをお勧めします)

調査期間:

2023年1月30日〜2月4日

調査対象:

国内在住の20代男女、30代男女、40代男女、50代男女、60代以上男女。
サンプル数(n)1000人

調査方法:

インターネットによるアンケート調査

最終内容確認日2023年4月

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